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第十一話

           第十一話【Side.R】


その日、白鳥由紀(しらとりゆき)が腹を裂かれた状態で死んでいたという話が朝一にされた。

それを聞いた僕は、色々なことを考えていた。


音楽の好みや好きなドーナツ、お気に入りの紅茶の種類などが自分と同じで、あの時の会話は今でも鮮明に思い出すことができる。

みんなで帰りにドーナツ屋に行こうという話になった時はとても嬉しそうだった。


しかしそれは叶わず、これから先も実現することは当然ない。もう楽しく会話をする事だってできない。

あれが最初で最後の関わりだったのだ。

僕がずっと、思いを寄せていたあの子との思い出は。


「どうやら白鳥(しらとり)は、宮崎と嫌々ながら付き合っていたらしい。本人が言ってたよ。弱みを握られて仕方がなかったって」

「純平、いつそんな事聞いたんだよ」

「確か二日前くらいだ。かなり取り乱していたよ」


どうして僕に言ってくれなかったんだよ、と言おうとしたが辞めた。


「私の勝手な想像だけど、白鳥(しらとり)さんは宮崎から暴力も振るわれてたんじゃないかしら。ただの暴力とかじゃなくて、その……いわゆる男女間で行われるような……」


「確か水無月は、昔ハヤトと付き合ってたんだっけ? それだったら、水無月が言ってる事はわりとあたってるかもしれない」

それに大河も、同じことを言っていた。


「もしもさ、彼女がハヤトと付き合う前に、僕の方が先に彼女に告白してたら、今頃どうなってたのかな」

二人は何か言おうとしていたが、そのまま下に視線を落とした。


一緒に笑ってドーナツを食べるような、そんな未来もあったのだろうか。


白鳥由紀(しらとりゆき)の事を考えると本当にたくさんの思考が頭をよぎるが、そういえば僕は忘れてはならない。昨日の悪夢を。

夢の世界でスノウの腹を裂き、無残な殺し方をおこなったあの男。

スノウのパーティメンバーの一人である、やたら口調が丁寧で紳士ぶったあの男。


――そうか、そういう事だったのか。


隼人(はやと)。話がある」

「相変わらず馴れ馴れしいんだよ。お前」

裏庭に行けば会えるかもしれないと思った僕の予想は的中した。


白鳥由紀(しらとりゆき)が死んだっていうのは知ってるよな?」

「ふっ、当たり前だろ。同じクラスなんだから」

何がおかしいのか、隼人(はやと)は鼻で笑ってそう答えた。


「お前、あの子と付き合ってたんじゃないのか」

「付き合ってたっていうか、利害の一致ってやつだよ」

「どういう事だ」

「あの女、中学時代は相当男で遊んでたらしくてよ。男の要求をなんでも受ける代わりにお金を貰ってたんだ」


「でたらめ言うなよ」

「でたらめじゃねぇよ。サッカー部にあの女と同じ中学出身のやつがいてな、そいつに聞いたんだよ」

「そんなの、ただの嘘だろ」

僕は半分、どうか嘘であってほしいと願っていた。


「お前がどう思おうと構わねえが、これが真実だ」

「……だけどお前はあの子を追い詰め、結果取り返しがつかない事を犯した」

「おいおい、人聞き悪いこと言うなよ。お互いの同意の上だよ」


隼人(はやと)は、さも自分が凄いことをやってのけたみたいな自慢げな笑みを浮かべてこう言った。

「あの女に金を払ったんだ」


「……だからお前は、大河を脅して財布を盗ませていたのか」

「おかげであの女に払った分の金は余裕で取り戻せたよ」

僕は、まるで頭部をハンマーか何かで叩きつけられたような感覚になり、全身から力が抜けていった。


「なぁ、もういいか? 話が終わったなら俺はもう教室に戻るが」

「……」

僕は何も言えず、ただその場に立ち尽くす事しか出来なかった。


夢の世界に初めて来てしまった日、ゴブリンから僕を守ってくれたハヤト。

討伐クエストの度に、自分を犠牲にしてまで僕を(かば)ってくれたハヤト。

オリーブが死んだ時、背中に抱えながら必死に走っていた仲間思いのハヤト。


僕はずっと、隼人に助けてもらっていたのだと思っていた。

ずっとそう思い込んでいた。

しかし本当は違った。ハヤトは隼人(はやと)ではなかったんだ。


――そうなんだろ。錬金術師(アルケミスト)のジョーカー。



           第十一話【Side.D】


早くジョーカーをなんとかしかないと。

血相を変えた僕は、勢いよくギルドを飛び出した。


「おい、ちょっと待てよ」

ハヤトは急ぐ僕の手を掴んだ。

「アキラ、いきなり一体どうしたんだ」


「離せよハヤト! いや、お前、本当は隼人(はやと)じゃないんだろ?」

「……そうか、もうバレてたんだな」


どうしてこんな大事な事、ずっと黙ってたんだよ。

僕がそう言おうとした時だった。

ちょうど心臓がある箇所だろうか。ハヤトの胸部が、後方から現れた腕によって背中から貫通されていた。


腕が引き抜かれると、ハヤトはそのまま崩れるように前に倒れた。

その背後に立っていたのは虎丸(とらまる)――つまり小林大河だった。


「な、言っただろ(あきら)。お前といつも一緒にいる男を殺すって」


「うぁぁぁあああぁぁぁぁぁああッ!!!!!!」


僕はいったい誰を恨めばいい?

小林大河を恨めばいいのか?


いや、彼をこんなふうにしてしまったのは誰だ?

宮崎隼人か? それも違うだろ。


かつての親友をここまで追い込んでしまったのは僕なんじゃないのか?


教えてくれ。僕は今、どんな感情を抱いたらいい。


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