第一話
プロローグ
くそ、なんだよ。こんなにも早く教師の連中は来てやがったのかよ。
まさか、俺が来るまで帰らないつもりなのか。
どうすりゃいい。思考が上手くまとまらない。
そうだ、あいつらも夢の中で殺そう。
心臓の鼓動が徐々に速さを増していく。
俺は自慢の金髪をなびかせながら、
階段を一気に駆け下りた。とにかく必死だった。
そんな具合に無我夢中だったもんだから、
足を踏み外して頭から転倒するなんて間抜けな失敗を
しちまったのさ。
身体が動かない。まるで石にでもなったかのようだ。
それとも、高熱にうなされて動けない時のようか。
馬鹿か。何を考えているんだ。頭から血が流れ続けているという
ことは、俺はもうじき意識を無くすだろう。
――そいつは好都合だ。
このまま夢の中の世界に上手く入れれば、
あの教師どもを殺す事ができるかもしれない。
……ん、なんだ。誰かが近づいて来たぞ。
くそ、視界が歪んで見えづらいな。
……って、お前!まだ追いかけて来やがったのかよ!
え、な、何をするんだ!!……やめろ!!
まて!!く、苦しい……や、やめろおぉぉぉぉぉおお!!!
第一話【Side.D】
気がつくと、森の中にいた。
あれ、ここ何処だっけ。
そんな台詞、漫画やドラマの中だけで使う言葉だろうと
思っていたが、現に今僕がそういう状態なのだから、
まさに『事実は小説よりも奇なり』ってやつだろう。
――さて、話を戻そう。ここは何処だ。
僕の名前は和泉暉
よし良かった。ちゃんと名前フルネームで言えた。
家族構成や通っている学校、仲の良いクラスメイト、
好きな音楽、好きなドーナツ、、好きな紅茶の種類、
お気に入りのトイレットペーパーの銘柄もちゃんと覚えている。
なので、別に記憶喪失ということでも無さそうだ。
もちろん、若年性の認知症とかでもない。
単純に、僕はこの場所の事を知らないし、
そもそもどうやってここに来たのかもわからない、
という事になる。それはそれで困った話だ。
なんて事を考えながら、ひとまず歩いていると
草むらの茂みの中から、急に生き物が飛び出して来た。
これがもしも、犬やら猫とかだったならまだ気分的に良かったかもしれない。
その生き物の右上を見ると、何やら文字が
表示されていた。これがこの生き物の名前だろうか。
ゴブリンだってさ。
ファンタジー系の映画で、以前似たようなものが
登場していた覚えがある。ゴブリン。
まるで、ごまプリンみたいな名前だ。
ところで、僕の付近にもゴブリンと同じく謎の画面が表示されているのだけど。
名前の箇所に『アキラ』と書かれ、職業の箇所には『暗殺者』などと書かれている。
『職業:暗殺者』なにそれ、こわ。
などと呑気に考えている暇はなかったらしい。
ゴブリンさん、なにやらこちらに襲い掛かろうとしているではないか。急にどうした。
なんの脈略もなく突然キレだす、酒が入った職場の上司か。
……って、いや、これ少しまずいかも
爪で切り裂かれる!!やばい!と思ったその瞬間――
ゴブリンの動きが止まった。
何が起こった、と思った時にはすでにゴブリンの身体は
真っ二つになっており、そのまま地面に倒れていた。
「大丈夫か」
ゴブリンの背後から現れた男がそう言ってきた。
その男は金髪で、頑丈そうな鎧を身につけており片手には剣、
片手には盾を持っている。
「あ、あなたが助けてくれたんですか? なんというか、
ありがとうございます」
「いやいや気にするな…って、お、お前は!」
「え?」
「いや、なんでもない……俺の名前はハヤト。職業は剣闘士だ」
金髪の男は少し考えてからそう言った。
「あ、えっと、僕は……」
「職業:暗殺者のアキラか」
え、どうして知ってるんですか、と言おうとしたが、
「そこ、お前のステータス画面が表示されているだろ」と、
指をさされた。なるほど、ステータス画面というのかこれは。
「見た感じ、どうやら駆け出し冒険者のようだな。
モンスターとの戦いにも不慣れだろ。よし、着いて来い。
俺のギルドに招待してやるよ」
これが、僕とハヤトの出会いだった。
そして僕は後になって後悔する。
もっと早く、この男の正体に気づいておくべきだったんだ。