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Sword World サイドストーリーズ  作者: 千夜
リィザガロスサイド
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『発芽』 6.突撃大作戦

突撃大作戦


玉石街。

朝日を浴びて、一層輝いて見える。

リィザガロスの貴族達が住まう、館と、石畳で彩られた地区。

早春の澄んだ空気に差し込む朝日で、一日で一番美しい姿を現している。

観光名所として人通りが多いのが常であるが、この時間は見回りの騎士以外殆どいない。

「ありがとう、チルチル。仕事中無理を言って悪かったわね。」

「団長の妹君のお願いとあれば、仕事みたいなものですよ。」

紺。

第六騎士団が纏う色。

メチルは兄が団長を務める第六騎士団の知り合いである上級騎士、ルー・チル・アーセルを呼び出すことに成功したのだ。

「あら、仕事じゃないと私に会わないってことかしら?」

「そういう意味じゃないですよ。で、相談っていうのは?団長にも言えないようなことで?」

「ちょっと友達がね、厄介なことに巻き込まれてて、どうしたら良いかと。」

「厄介なこと?どんなことです?」

「それはね…あっ!」

メチルが説明するまでもなく『それ』は道の向こうからやってきた。

「きゃー!!誰か助けてー!!」

静かな玉石街に若い女の悲鳴が響く。

髪の毛を振り乱し、玉石街を駆け巡る。

その後ろから、同じ年頃の少年が追いかけていた。

手に、奇妙な形の槌を握りしめて。

「た~す~け~て~!!」

「なんだ!どうした!!うわっ!?」

巡回中の紺の騎士達が少女を見つける。

何事かと目を向ければ風のように走り去り、更にその後ろを凶器を持った少年が追いかける。

ただならぬ事態であることは、一目瞭然だ。

「なんだアイツは!?」

「あ、あれよ!あの女の子が友達!彼氏が暴力振るってきそうで怖いって相談受けてたとこなの!早く助けてあげて!」

「勿論だ!あんな物騒なもの持ってこの玉石街で狼藉を働くなんざ許してたまるかいっ!」

ルー・チル・アーセルは他の騎士達にも知らせる為に警笛を咥え、後を追った。

呼吸に合わせて、警笛が鳴り響く。

「…上手く屋敷まで行ければいいっスが。」

物陰に隠れていたアルトゥーロが姿を現した。

「そうね。第六騎士団は、兄貴の騎士団だけど皆優秀だから捕まっちゃう可能性も皆無じゃないし。」

「…お兄さん、優秀じゃないんすか?」

「そんなわけじゃないけど、おっとりしているのよ。じゃ、私達も行きましょう。」

二人は少女と少年、アリアとシオンが向かった方向に走り出した。


玉石街の中ほど、タヴィル子爵の屋敷。

正門にはタヴィル子爵が治める第七騎士団の騎士が守り、固く閉ざされている。

しかし、正門から少しそれたところにある施設-児童保護施設の前に設けられた小さな門には、騎士こそいるが開け放たれている。

助けを求める人々を受け入れるために、早朝から解放しているのだ。

その門をくぐる者は滅多に居ないのだが。

いつもと同じ静かな朝が過ぎていく。

門番の騎士は、そう思っていたのだが。

「ん?なんだ、あれは。」

「女の子?おい、ちょっと待て!どうし」

「たーすーけーてー!」

物凄いスピードで接近してくる少女に、騎士達は何事かと視線を向ける。

そして、自分の目を疑うような光景を目の当たりにした。

「な、なんだあの武器は!?」

「デカイぞ!?」

少女の後ろ、十歩にも満たない場所にありえないほど大きな槌を持った少年がいた。

その形は最強の生物に謳われる龍の頭蓋骨。

形も珍しいが、何よりもその大きさ。

大人が両腕を目一杯伸ばした程の、巨大な骨だった。

大凡普通の人間の腕力では振るうことはおろか、持ち上げることも出来ないだろう。

「助けて!!」

「わっ!?」

少女はその速度を緩めること無く、騎士の間をすり抜けた。

まるで最初から屋敷の中を目指していたかのようだ。

そして騎士たちが少女に気を取られた瞬間、少年は飛んだ。

「え、なっ!」

騎士達をなんと飛び越し、屋敷に入らんとする少女めがけて槌を振り翳した。

だが少女は既の所で屋敷に滑り込み、少女の代わりに扉にその威力を振るった。

「いたぞ!」

「なんとタヴィル子爵のお屋敷に押し入ったぞ!」

「我ら第六騎士団も助太刀しますぞ!!」

「え?え?」

灰色の騎士達が我を取り戻すと同時に紺色の騎士達が屋敷の敷地に脚を踏み入れた。

その数およそ十人。

後ろからは更に増援の姿が来る。

「ま、待ってくれ!ここは我ら第七騎士団が」

「行けー!少女を救うんだ!!」

制止も意に介さずと、紺の騎士が次々に屋敷になだれ込んだ。

その様子を、メチルとアルトゥーロは離れたところから伺っていた。

「どうやら上手く入りこんだみたいね。」

「でも、集まりすぎじゃないっスか?第六騎士団。」

「最近平和だったから、気合入っているのよ。…ちょっと気合入りすぎだけど。」

「これ、シオンくんとアリアさん逃げれるんスかね…。」

「私達も中に入りましょう。」

「そうッスね。」

二人が動こう、と思ったその瞬間、誰かに肩を叩かれた。

「きゃ!」

「うわっ!」

「ごめんなさい、驚かせるつもりは無かったのだけど。」

振り向いた先には、金の髪の少女。

ナンシーだ。

「ナンシー!来てくれたのね…そちらの方はっ、って。え?」

ナンシーの傍らにいる壮年の男性に気付き、メチルは言葉を失った。

内側が蒼の黒いマントを羽織った騎士服の男性。

マントの下の騎士服も、蒼。

「やあ、少し見ない間に、美しくなられたね。…話は聞いている。私も、君たちに協力するよ。」



「まて!何者だ!」

「追われてるの!どいて!」

「まてー」

廊下を進む。

向かってくる灰色の騎士達を避けて、階段がありそうな場所を目指してひたすら走る。

走る。

後ろからはシオン君が追ってくる。

私からつかず、離れずの距離で大きな槌を振り回して。

昨日私が見た槌よりも遥かに大きかったのはものすっっごく気になるけど、今はそんなこと確認してはいられない。

まずは監禁されている女の子達を助けるのが先。

「これ以上奥は子爵のプライベートエリアだ!一般人が入ることはまかりならん!!!」

廊下を遮るように複数の騎士達が壁を作る。

これは抜けられない。

でもその向こうに階段が見える。

相手の様子から、どうやらあの階段の上に目的の女の子達がいそうだ。

「(でも、どう抜ける!?)」

逡巡した時、空気が振動した。

それは、シオンくんがメディナちゃんを追手から隠した時に感じたもの。

後ろを振り返り、確信した。

シオンの姿がない。

幻影の魔法を使って、自分の姿を消したのだ。

「な、消えたぞ!?」

目の前の騎士達に動揺が走る。

ならば、と私は一芝居打つ事にした。

「ああ!!!くっ、くるしい!!!」

大げさに苦しんで見せて、床に倒れ込んだ。

勿論、演技。

「お、おい!!大丈夫か?」

作られていた壁に隙間ができる。

シオン君、今だよ!!

「えっ!?」

駆け寄ってきた騎士達の何人かが何かにぶつかる。

姿を消している、シオンくんだ。

「なっ!しまった、奴は姿を消す魔法を使っただけだ!!」

「どこだ、どこにいる!!」

たちまちのうちに、その場は大混乱の渦に。

更にシオンくんを追ってきていた第六騎士団の人達も屋敷に入ってきて、狭い廊下は本当にもうぐちゃぐちゃだ。

「アリア!!」

「あ、メチル!それに、ナンシー!」

第六騎士団の人達に守られるようにメチル達が来てくれた。

それにナンシーも。

「良かった無事で。」

「うん。大丈夫よ。…あそこが、二階の階段。」

「行ったのね。」

「多分。」

周りに悟られないように、シオン君が二階に行ったことをメチルに伝える。

ナンシーも危険を犯してまで来てくれた、その後ろには言っていた協力者?

あれ?

「蒼い騎士服…?」

「初めまして、お嬢さん。」

蒼い騎士服のおじさんが声を発した時、騷しかった廊下が、一気に静まり返った。

静まり返ったというか、とても、驚いて言葉を失っている感じ。

「あ、あなた様は。なぜ、ここに」

灰色の騎士が意を決して、といった風に尋ねる。

もしかして、偉い人?

騎士団で蒼い色といえば、確か。

「朝早くから失礼した。朝の散歩の途中で、この少女が追われているのを見てしまい、騎士として放ってはおけなかったのだ。」

「さ、さすがです。ですが、ではここからは我らが。」

「件の少年は、どうやら魔術、魔法に長けているようだ。現に貴君らを欺き、恐らくもうこの場には居ない。…二階のようだな。」

言い終わる前に、おじさんは騎士たちをかき分けて二階への階段を登る。

「い、いけません!二階には」

「心配せずとも、タヴィル子爵の顔に泥を塗るつもりはない。非礼は後で詫びる。」

灰色の騎士たちの制止を振り切り、おじさんは階段を駆け上がった。

そして、その後ろにはナンシーが続いていた。

いつの間に?

というか

「…あのおじさん、偉い人なの?」

「アリアは知らないの?あの方は、第三騎士団の団長で四大将軍の一人、エドワード・レギノ様だよ!」

…え?

第三騎士団、団長!?

「え、ちょっ、え!?な、え?じゃあ、ナンシーの協力者って」

「…私、アリアに謝らなくてはいけないことがあるの。」

「突然どうしたの?」

「実は、ナンシーはナンシーじゃないの。」

「え?どういうこと?」

「…彼女は、ナンシーという名前ではないわ。本当の名前はティア・サマー。ティア・サマー・ラ・ヴィスコンテス。子爵よ。」

「子爵って、貴族っていうこと!?」

「ええ。レギノ候とも縁が深いのだけど…。名前を隠していたから、何か意図があるのかもと思って黙っていたの。ごめんなさい。」

「ううん、気にしないで。……そうだ、二人共上にいっちゃったけど、大丈夫かな。」

「レギノ候は公正な方よ。監禁されている女の子たちが見つかれば、絶対、良いようにしてくれるわ。」

私は、今は第七騎士団に閉ざされている階段を見た。

シオンくんと、レギノ候とナンシー、ティアが上に言ってから何人かが上に上がっていった。

「シオンくん、頑張って。」




下の階と比べて、二階はとても静かだった。

もしかしたら、配置されていた騎士が僕らの騒ぎで下に移動したのかもしれない。

奥へと続く廊下の途中に、真新しい鉄格子の仕切りが設けられている。

まるで牢獄。

ということはこの閉ざされた鉄格子の向こうに昨日出会った少女が居るはずだ。

「ふんっ!」

竜頭槌で鉄格子の鍵を打つ。

一回では壊れなかったけど、何度か繰り返せば壊れそうだ。

二撃目を繰り出そうと槌を振り上げた。

「待ちなさい。」

「!」

後ろから呼び止められる。

振り上げた槌を停めず、僕は鍵を壊した。

振り切った槌の勢いをそのままに振り構えた。

僕の間合いの向こうに蒼い騎士服の男性がいた。

帯剣しているけど、抜刀はしていない。

「君がシオン・ギレスか。私はエドワード・レギノ。第三騎士団の団長だ。君の話をティアから聞いた。」

男の人のとなりには、金色の髪の女の子。

ナンシーだ。

でも、この男の人はティアと呼んでいる?

「ティア?…君はナンシーではないの?。」

「ごめんなさい、シオン。私の本当の名前はティア・サマー。子爵位の貴族よ。」

「…そうなんだ。貴族なのに、僕の話を信じてくれたんだ。」

「貴族かどうかは関係無いわ。正しいと思うことを、私は成すだけよ。…同じ貴族の不正でも見過ごすわけにはいかないわ。」

昨晩とおなじ真っ直ぐな目、迷いない声。

「シオン。私もティアと同じ思いだ。聞きたいことは多くあるだろうが、少女達を助けるのが先だ。」


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