表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sword World サイドストーリーズ  作者: 千夜
リィザガロスサイド
7/17

『発芽』 4.囚われの乙女

囚われの乙女


やっぱり夜は冷える。

変装の為だったけど、ストールを巻いておいて良かった。

玉石街は人もまだ多くて、それでも二回くらい騎士に呼び止められたけど、ミシュレゲーテからの観光客だと説明したらにこやかに解放してくれた。

佳い夜を、と。


問題のタヴィル子爵のお屋敷の周りは、それほど人は多くなかった。

アリアが入ったと言う施設は、カーテンが締め切られていて、微かに光が漏れている。

様子は伺えないし、勿論入り口は閉ざされている。

「…」

魔力は回復しているから、幻影魔法で姿を消して中に入ることもできるけど、対魔術のトラップがあったら、捕まるかもしれない。

芋づる式でメディナも見つかる危険がある。

どうしようかと、屋敷に背を向けた時だった。

「もしもし、そこの人」

「!」

呼び止められた。

声のした方には、背広を来た男の人。

「はい?なんでしょうか。」

すると男は

「お兄さん、観光客の人?実は、いいお店、あるんですよ。」

「いいお店?」

「はい!貴族のお屋敷を改装した、リィザガロスの情緒溢れるお店です。旅の思い出に、どうですか?」

さあ、と手で示したのは、正面の入り口ではなく、庭伝いに進んだ裏口。

今は開かれていて、光が漏れている。

男はそこから出てきたみたいだ。

「あまり、高くないと嬉しいですが、折角なので。」

僕は男の誘いに乗ることにした。

男は、そうこなくっちゃ、と嬉しそうに案内する。

部屋の中は暖かかった。

頭衣を外してはと勧められたが、お呪い中だと適当に嘘をついて誤魔化した。

僕が通された部屋は、ソファとテーブルがあるだけの小さな部屋だった。

確かに洒落た個室の飲食店に思えるけれども、それにしてはソファが大きい。

二人三人は余裕で座れる。

「飲み物は何にしますか?」

「アルコールが駄目なんだ。とりあえず、炭酸系の飲み物をお願いします。」

「はい、かしこまりました。直ぐにお待ちしますので、どうぞおくつろぎください。」

そう言うと男は直ぐに引っ込んだ。

僕は上着を脱いで、ソファーの背に掛けた。

窓を見ると、厚手のカーテン。

それをめくると、何と内側に鉄格子が填められていた!

「(まるで牢屋じゃないか。)」

僕はカーテンを元に戻してソファに座った。

目を瞑る。

深く呼吸して、集中する。

「(…いる、のかな?)」

左右、上から、微かに魔力を感じる。

僕と同じ波動。

エルフだ。

そして、廊下からも一つ。

部屋の前に来たと思ったら、ノック。

「はい。」

「……失礼します…。」

入ってきたのは、予想通りの人物だった。

エルフ。

しかも、女の子だ。

後ろにはさっきの男がいた。

「折角ですので、当店の女の子達と会話をお楽しみ下さい。何か有りましたら、そこのベルでお知らせ下さい。…それでは、ごゆっくり。」

女の子が部屋の中に入るのを確認すると、男はドアを閉めた。

足音が段々遠くなって、完全に聞こえなくなる。

その間にも女の子は、ゆっくりだけど慣れた手つきで僕が頼んだ炭酸飲料をテーブルに置く。

二人分だった。

「それでは、乾杯しましょう。お客様。」

「…」

女の子が隣に座る。

僕はグラスには手を出さず、女の子を見る。

尖った耳。

肌は白いけど、僕と同じ恐らく混血のエルフ族。

歳は…多分、僕より少し上くらいだ。

「…」

僕はアリアから借りたボールペンで、紙ナフキンに文章を書いた。

『メディナは僕の所に居ます』

「え?…なんで、その子の名前を…!」

僕が頭衣を取ると、女の子は驚いた。

自分と同じ、エルフ。

思わず叫びそうになったのを、女の子自身が口に手を当てて堪えた。

『必ず助けます。方法は考えている最中です。』

僕がそう書き記すと、女の子の目に涙が溜まっていく。

『このペンはカメラです。証拠写真を撮っても良い?』

女の子は頷いてくれた。

部屋の様子と合わせて、何枚か写真を撮る。

女の子は何か言いたそうだったけど、誰かが聞き耳を立てているかもしれないからと、彼女が『お客さん』に向かってしているであろう話をし始めた。

リィザガロスの観光名所のことや、人気のお店のこと。

どうやら、予想通り女の子が男性を相手に接待をするお店みたいだ。

なんとか他愛のない会話を続けているが、ボソリと女の子が言った。

「…助けて…」

「必ず助けるよ。」

僕は女の子の手を強く握った。


「いかがでしたか?可愛い子でしょ?もしお時間あったら、別のお部屋でゆっくりお話も出来ますよ?勿論追加料金が発生しますが…」

「いや、もう十分楽しめました。ありがとうございます。」

料金を支払って、僕は足早に屋敷を後にした。

価格は、二人分の飲み物代にチャージ料と言う名の接待費。

多めに持ってきておいてよかった。

証拠の写真も撮れたし、急いでホテルに戻ろう。

「(さて、これからどうしようか…ん?)」

街頭に照らされた道の向こうから、誰かが来る。

それが誰か分かって、僕は丁度横にあった生け垣の裏側に隠れた。

今朝、メディナと居る時に話しかけてきた騎士二人組だった。

アリアも遭遇したというし、縁があるのか、それともこの辺りを巡回しているのか…。

幸い、僕に気付かず通り過ぎてくれた。

ある程度距離が離れたのを確認して、僕はまた歩道に戻った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ