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Sword World サイドストーリーズ  作者: 千夜
リィザガロスサイド
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『発芽』 1.初春の憂鬱

初春の憂鬱



この国に来て三年経つとはいっても、やはり冬の寒さというものには中々慣れない。

雪に閉ざされることは無いにしても気温が一桁というのは南国育ちの自分には厳しい。現に今だって、帽子に耳あて、マフラーにコート、手袋もしている。

コートの下はタートルネックに毛織のカーディガンを着用している。

ここまで着こむのは珍しいことではないにしても、少し大げさだと思われるかもしれない。

元に昨日の試験会場では明るい女の子に『風邪?大丈夫?』と心配をさせてしまった。

南出身だから、寒いのが苦手と伝えると何処から取り出したのか『ほっとかいろ』なる不思議な物をもらった。

魔法でもないのに自然に暖かくなる不思議な小袋だった。

化学反応を利用しているらしくなんでも来年、ディノティクスからこの国にも輸入されると言っていた。

そういえば、その子もディノティクス出身といっていた、ような気がする。

まあなんにせよ、その『ほっとかいろ』のおかげで昨日は温かい一日を送ることができた。

試験の方は、予想通り、予定通りだ。

魔法に関する問題は殆ど基本的な事ばかりだったのは幸いだった。

小さい頃から面倒を見てくれたお祖母様に感謝しないと。

法律と歴史は暗記だからまだ大丈夫。

あと問題といえば…腕力かな。

お婆様から鍛練を欠かさないようにと言われて今まできたけど、他の人がどれくらいなのか僕には予想がついていない。

でも騎士を目指している人ばかりだし腕力はやっぱり強いんだろうなぁ…。

そう、騎士。

僕は昨日、この国の騎士になるための試験を受けた。

といっても、十八歳になるまでは予備生として他の学校に行ったり働いたりしないといけない。

あくまで合格したらだけれども。

「(騎士になりたいわけじゃないけど…)」

元々この国の人間ではない僕にとって国に奉仕する気持ちはあまりない。

ミシュレゲーテだったらどうだと言われても同じだ。

「(力試し、かなやっぱり。)」

ジュニアハイの卒業間際にたまたま見つけた、試験のポスター。

試験を受ける基準を満たしていたからモランエネッタの観光がてらに受けることにした。

滞在費は全て騎士協会持ちというのも魅力的だった。

あまり褒められた思惑ではないのはわかっているけど。

予想よりは色々な人がいた。

老若男女とまでは言えないにしても僕と同じくらいの子供から三十半ばの人まで。

でもやはり故郷よりは亜人の人は見当たらなかった。

エルフ系でさえ自分くらいしかいなかった。

何人かは物珍しげに僕を見ていたから、珍しいのだろう。

今街を歩いていると何人かは亜人系、エルフ系らしい人もいたから、『騎士』になること自体が珍しいのかもしれない。

僕の居たミシュレゲーテの宮廷では殆ど全種族ではないかと思うほど多種族の軍人、文官が勤めているから単一種族の宮廷と言うのはなんだか変な感じがする。

…そろそろお腹が空いた。

今朝は遅く起きてまだ朝食を食べていない。

昼も近いからブランチというものになる。

僕は手近に済ませようと眼に写ったサンドウィッチの屋台に足を向ける。

でも、すぐに後ろから来た誰かにぶつかる。

「わっ、すみません。」

「気を付けろ!」

強めに言われて少しだけむっとする。

でも相手を見て僕は驚く。

昨日も見た。灰色の騎士服。

人は違うけど。

「いや、こちらが悪い。すまない少年、探し物をしていて気が立っているんだ。」

別の騎士服の人が僕に頭を下げる。

「いいえ、僕も不注意でした。お勤めご苦労様です。」

相手がかなり急いでいたから僕は軽く頭だけ下げて当初の目的だったサンドウィッチの屋台に足を。

足、を。

「(ん?)」

足に何かが。

「(ひも?)」

違和感を感じて足元を見ると細いなにかが足に絡まっている。

でも実体はない。魔術的なもの。

しかも回りの人の様子から僕にしか見えていないようだ。

その紐は、サンドウィッチ屋の隣にある路地に続いている。

「(いや、あそこから延びているのか)」

僕はサンドウィッチ屋を通り抜けて路地に足を踏み入れた。

そこまで不潔ではないけど何処と無く湿った臭いがする。

日光が当たっていないのと建物の冷えた壁面のせいでむちゃくちゃさむい。

「(紐が太くなってる?…あ。)」

路地を白い紐に導かれる。

路地の中を三回くらい曲がった先の袋小路にいた。

最初は大きな猫かと思ったけど見れば人だとわかった。

叫びそうになるのを堪えて、声をかける。

「君、大丈夫かい?」

「…!」

段ボールの少女は僕に気付いていなかったみたいだ。

でも気付いてからは明らかに警戒している。

「こんなところで寝ていたら風邪を引くよ。…薄衣じゃないか。」

そう薄着。

その女の子は白いワンピースを着ていたんだけどどう見ても冬物じゃない。

詳しくは知らないけど、下着のスリップ?に近いと思う。

「君、親は?」

ダンボールに入れられた捨て猫のようだと最初に思ったけど、本当に捨てられたのかもしれない。

「…いない、よ。…おにいさん、なんで、、わかったの…?」

なんでここが分かったの?と少女は聞いた。

「君から紐が出ていたんだ。見えるかい?」

まだ足に絡み付く紐を指差すと少女は眼を見開く。

みるみるうちにその眼に涙がたまって。

「お願いします、たすけて」

たすけて、と女の子はか細い声で僕に何度も言った。



「泣き止んだかい?じゃあ、とりあえずどこか暖かいところに行こうか。」

こくり、と少女が傾く。

見た目も寒い少女に僕は帽子を被せて、マフラーを身体に巻いてあげた。

まだ少女は小さいこともあってマフラーがまるでスカートのようだ。

ついでにジャケットの下に来ていたカーディガンを被せれば不格好だけど冬の装いに変身できた。

足は…驚いたことに裸足だった。

少女を腕に担ぎ上げて足を手で包む。

「僕が泊まっているところが近いんだ。そこでいいかい?」

こくり、と帽子頭が傾く。

僕は来た道を戻った。


あと帽子を被せるときに気づいた。

この子もエルフだ。

耳のとんがり具合から多分、僕よりも血は濃い。

あの白い紐は彼女が助けを求める心が具現化したもの。

そんな芸当は魔導の一族であるエルフだからこそ…とも考えつく。

でも僕のように同じエルフにしか見えないことを考えると、本当にあの場所に行って良かったと思う。

「ずっとたすけてほしくて、あれを出していたの。もしものときは、助けてくれるって、お母さんが言ってたから。」

「…」

この子の親はどうしたのだろうか。

さっきは居ないと言っていたけど。

どうしてこんな路地裏でこんな格好でいるのか。

聞きたいことはたくさんある。

でも今はどこか暖を取れる場所に行くのが先だ。

元のサンドウィッチ屋の裏にでる。

腕のなかの女の子が唾を飲み込む音が聞こえたものだから、僕はそのまま屋台に並ぶ。

「ベーコンレタスエッグバゲットとハムレタスバゲットを二つずつ。あと甘いの二三個、これとこれを。」

「はい。飲み物は?」

「ココア。この子が持てるサイズで。」

「はい。」

ガサガサと袋に手際よく詰めてくれている間に代金を取り出す。

少し買いすぎたかな…とも思うけど朝御飯食べてないし。昼食分込みだし。

そう思って小銭を置く。

「どうぞ。それとココア。熱いから気を付けてね、マドモアゼル。」

店の人がにこりと笑って湯気の立つ飲み物を少女に渡す。

ビックリした表情で、でも少女はそれをうけとって小さく呟く。

「ありがとうございます。」

「ありがとうおじさん。」

僕もお礼を言ってパンの袋を受けとる。

少女と袋で両手が塞がったけど別段困らない。

ホテルまでは徒歩で10分くらいだし。

「…がとう」

「ん?」

「ありがとう、ございます」

俯いた少女が言う。

「いいよ。別に。困っている人は助けなさいってお婆様から言われているんだ。」

「お婆様…?」

「そうお婆様。南の国のアルテナって街にいるんだけど、元気な人なんだ。純血エルフで、魔法がすごく上手なんだ。」

魔法のうまいお婆ちゃん。

まだ腰も曲がってなくて、お爺様が亡くなっても一人で頑張って生きていて。

近所に住んでいた僕はよく遊びに行った。

魔法の事とか、勉強のこと、運動のことだって何でも教えてくれた。

『困っている人がいたら手を差し伸べなさい。躊躇してはいけないよ。何かできることがかならずあるはずだから。』

小さい頃からずっと言われている。それを守ろう。

「おい君。ちょっといいかい?」

後ろから誰かに呼び止められた。

「はい。なんでしょうか?」

僕は振り替える。そしてまた見る。

灰色の騎士服。さっきぶつかった人と、その後ろにいた人だ。

「またお会いしましたね。何か僕にご用でしょうか?」

探し物をしていたと言う騎士二人だ。もしかしてぶつかったときに何か落としたかな…とも思ったけど、すぐにその異様な雰囲気に気付いた。

二人は僕を見ていない。

見ているのは、腕の少女。

少女もココアを覗き込んで決して顔を上げない。

微かに、本当に微かに震えている。

「実は私達は人を探しているんだ。小さな女の子でね、保護が必要なんだ。」

少女が分かるほど震える。

何かに追われているとは思っていたけど、まさか、騎士からなんて。

「そうですか。大変ですね。」

「君が今連れている女の子…さっきは連れていなかったよね。少し顔を見せてくれないかな?」

いよいよ少女が震えだす。

保護、と言っていたけどこの少女の様子は尋常ではないし何より、なんだか怪しい。

本当に騎士なのかどうか、とすら思う。

でももし本当に騎士だったら…。

僕は結論を出した。

「女の子?何を言っているんですか?」

お婆様が教えてくれたことを思い出す。

魔法、魔術、呪いの言葉。


『幻影』


「僕はいま買い物してきたところです。女の子を連れて歩きたいのはやまやまですけど。」


僕の『言葉に』騎士二人はあっけにとられる。


『揺らめき漂う光の精霊』


「両手が買い物で塞がっちゃって。ええ。観光できたものですからついお土産を買いすぎました。」



『その輝きをもって我らを隠したまえ』


「え?…あ、ああ確かにそうだな。」


幻影纏衣(ミラージュローブ)


「少年失礼した。何か見かけたら連絡をくれ。」

そういって名刺を差し出す。

僕はそれをパンの袋に入れてもらって、会釈をひとつ。

「ええ、わかりました。」

にこりと笑って騎士二人に背を向けた。


僕が行使したのは魔術だ。

催眠と幻影の魔術で、僕の言葉通りのものが彼らの瞳に写った。

腕の中の少女はただの袋包みに見えただろう。

僕はできる限り平静を保つ、堂々とゆっくりとホテルに向かう。

ホテルは騎士団組織が用意してくれたものだけど、彼らがいることはない。

でも怪しまれないためにちゃんとフロントに足を運んだ。

「すみません、実は国の友人が黙ってきちゃいまして、ちゃんと保護者に連絡するのでしばらく僕の部屋にいさせてもいいですか?」

フロントの女の人はビックリしていた。当然だ。

友人にしては僕と歳が離れているし、何より小さな女の子がミシュレゲーテから来たなんて信じられないだろう。

僕はポケットからチップを取り出す。

「なにか事情があって、飛び出してきちゃたみたいなんです。僕がなんとかするので、おねがいします。」

僕の『お願い』が効いたのかフロントのお姉さんはやれやれといった表情で頷く。

「わかりました。でもお名前は控えさせてください。いいですね?」

ああしまった。僕は彼女の名前をまだ聞いていない。

これは、どうしよう。

僕が少女を見ると少女も僕を見ていた。

僕を見つめて、頷く。

「そうかい。自分で言うんだね。」

「うん…メディナ。わたし、メディナ・ラティオラです。」

「メディナ様ですね。すぐにエクストラベッドの用意をギレス様のお部屋にお持ちします。…あとこれをどうぞ。」

お姉さんはフロントの裏側からなにかの包みを取り出して少女に、メディナにわたした。

ピンク色の飴の包みだ。

「ようこそベッジホテルへ、ラティオラ様。よき滞在を。」

お姉さんはにこにこと笑って俺たちをエレベーターまで送ってくれた。

少女の様子に何かしらを感じ取ったのかもしれない。

エレベーターが僕の階まで上がって廊下を急ぐ。

途中で何人かとすれ違ったけど、構わず扉に。

鍵を開けて、身を滑り込ませて背中でドアを閉める。

「はああああああああ…!」

肺につっかえていた空気を吐き出す。メディナはビックリして僕を見る。

「ああ、ごめんごめん。下ろすね。適当に座ってくつろいで。」

「うん」

とことこと部屋を縦断して書記机に備え付けられていた椅子にちょこんと座る。

僕も手荷物をテーブルに置いてベッドに腰かける。

そして二回目の溜め息。

「急な魔法発動はやっぱり疲れるなあ。修行が足りない、かな。」

魔導に馴染んだエルフと言っても、呪文を省略化して行使するのは些か疲れる。

緊張感もあって、余計に。

でも目の前の少女を助けることができたなら、それでいいかとも。

「まずは手を洗って、メディナ。そうしたらこれ、好きなだけ食べていいよ。」

僕は備え付けられているバスルーム兼洗面所兼トイレの扉を開ける。

僕が出掛けたあとに清掃が入ってくれたみたいでピカピカだ。

蛇口を捻ると湯がすぐに出てきて、悴んだ手を暖めてくれる。

メディナもやって来て僕と同じように手を洗う。

でも背の低い彼女には、少し難しかったから、体を持ち上げてあげたら顔を赤くしてまた、

「ありがとう」

と。


手を洗って、僕はまず湯沸かしポットのスイッチを入れた。

紅茶のカップと、あとサンドウィッチを乗せるお皿を備え付けの棚から取り出してテーブルに並べる。

ふと、立ち竦んだままの彼女の姿があった。

何をすればいいのか考えあぐねているようだ。

僕は椅子を引いて座るように促した。

「今お茶を沸かしているから、このサンドウィッチをお皿に並べてくれないかな?」

「!はい!」

彼女は椅子の上に膝立ちになって袋から次々パンをとりだしてさらに並べていく。

あんまりに必死なものだから、なんだか笑ってしまった。

ポットが高い音を立ててお湯が沸いたことを知らせてくれる。

ティーバッグを二つ、それぞれカップに入れてお湯を注いだ。

「じゃあ食べようか。」

僕は席について、両手を合わせた。

シオン、アリア、ティアの出会い編です。


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