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Sword World サイドストーリーズ  作者: 千夜
リィザガロスサイド
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『発芽』 7.花の咲く頃に

花の咲く頃に


一週間、とても慌ただしく過ぎていった。

予想通り、二階の奥には誘拐された女の子達が何人もいた。

詳しい数は教えてもらえなかったけど、両手で足りないくらい。

調べた所、タヴィル子爵は自分の敷地で行われていることを、全く認知していなかった。

ディノティクスの企業への土地の貸出こそ、自身で確認して認可していたのだが、部下の一人が金欲しさに『夜の店』と『スカウトされた人員』を黙認していたらしい。

女の子達はミシュレゲーテ、ミランジュ、ディノティクスから連れてこられたらしく、向こうの警察機関と協力して身元を確認しているらしい。

メディナも一時警察の所に預かってもらったけど、一昨日僕の元に戻ってきた。

身元が確認できないのと、本人の強い希望とのことだ。

モランエネッタのホテルから郊外の実家に戻っていたけど、幸い両親は温かくメディナを迎えてくれた。

事件の事を聞いて心配した祖母がアルテナから来ていたから、メディナの世話もしてくれた。

お祖母様と、お祖母様の娘である母にはメディナの『手』が見えている。

曰く『メディナの血に受け継がれるもの』らしく、魔法とは別の力らしい。

「この子は、恐らく強い魔導の家系の子じゃ。早くから魔法の手ほどきをせねばな。」

ミシュレゲーテでは魔導が強ければ強いほど尊ばれる。

メディナはもしかしたら高貴な家の子なのかもしれない。

お祖母様は昔南方帝に直接仕えていたことがあって、そういう魔導の強い家系の人たちに知り合いがいるそうだ。

「メディナは、わしの家で預かるのはどうだろうか。勿論本人がよければじゃが。」

「おばあちゃんのいえ…?」

「そうじゃ。ミシュレゲーテに、顔が利く知り合いがおっての。メディナの家族も、見つかるじゃろうて。」

「おばあちゃん。そうは言っても、誘拐された子を別の国に移動させるのは難しいよ。手続きだって、簡単にはできないよ。」

「シオン、騎士団の幹部さんと知り合ったんじゃろ?その人に頼んで、なんとか出来ないのかい?」

「そうは言っても、あれ以来連絡してないし、連絡の取りようもないよ。」

「おや、そうなのかい?騎士登用試験に合格したのなら、直ぐにオファーが来ると思って追ったのじゃがの。」

そう言えばそうだった。この騒ぎのせいで忘れていたけど、僕騎士になったんだった。

正しくは騎士予備官。

騎士の採用は十八歳からだから、それまでは仕事とか学校に通って騎士としての知識と教養、あとは体力を維持して、簡易試験を受けて合格すれば晴れて騎士になれる。

「レギノ候に直接話しはできないけど、別の騎士団の知り合いの知り合いなら多分、連絡取れるよ。」

僕はアリアに教えてもらった携帯端末に電話を掛けてみた。

アリアの知り合いのメチルさんのお兄さんとコンタクトが取れれば、レギノ候にも近づけるかもしれない。

『はーい。シオンくん。お久しぶり。メディナちゃんは元気?』

「お久しぶり。メディナは元気だよ。ちょっと頼みたいことがあるんだけど…」

僕はメディナの行き先について、騎士団の幹部たちに相談したいということ、そのためにメチルと連絡を取りたいと頼んだらオーケーしてくれた。

『そうなの、じゃあ一回メチルに連絡してみるね。直ぐに連絡して、会えるか確認してみるね。今日は、電話しても大丈夫?』

「大丈夫だよ。」

『うん!じゃあまた連絡するね!』

一度メチルに連絡をしてから電話をくれるらしい。

「今のは女の子かえ?」

「そうだよ。僕が言ってた、風の力に守られている女の子。」

「おお、その子には、わしも会ってみたいのう。うちに連れてきなさい。」

「…お祖母様は余計なことを言いそうだからあんまり連れてきたくない。」

「余計なこととはなんじゃ!魔力が強い子であれば、ぜひ我が家の嫁に」

「それが余計なことだよ!」

僕はお祖母様に文句を言っていると、電話が鳴った。

僕が出るより先に母が出た。

「はい、ギレスですが…?はい、はいちょっと待って下さい。シオン、女の子から連絡よ。」

「アリアって子?」

「いいえ、ティアさんって方よ。」

僕は母から受話器を引ったくった。

『シオン・ギレスさんね。ティア・サマーです。先日はありがとうございました。この前のことでお話があるのだけれど、明日か明後日、時間はありますか?』

「はい。大丈夫です。」

『ありがとう。アリア・ノースさんも一緒にお話を聞いて欲しいから、彼女にも連絡をしてからまた連絡をします。』

「分かりました。連絡をお待ちしています。」

電話を切って、今度は電話機の前で待つ。

次に来た電話はアリアからで、ティアからの電話があったということだった。

僕達は明後日、モランエネッタの騎士の詰所に行くことになった。

前の事件のこと、ということは、騎士団の幹部と会うのかな。

もしかしたらメディナの事を相談出来るかもしれない。




僕とアリアが向かったのは騎士の詰所で、騎士団の中で一番偉い人の部屋だった。

部屋の奥の執務机には一人の男性。

その左右に六人が分かれて立っていた。

その中には、一緒にタヴィル邸に乗り込んでくれたエドワードさんとティアもいた。

ティアを除く全員が、騎士団団長だった。

ただ一人座っているその人は、黒い騎士服。

鳶色の髪の毛に青い眼。

確か東方帝も同じ色の髪の毛と目だったと聞いてる。

「君たちがあの事件を解決したシオン・ギレスとアリア・ノースだね。私はアレス・フォン・マルク・レーネック。第一騎士団の団長で、騎士団総帥も務めている。君たちには折り入って頼みがある。第七騎士団の、新しい副長になってほしい。」

やっぱりその人は、東方帝の従兄であり、第一騎士団団長、騎士団総帥のその人だった。

「僕達を、ですか?」

「ですが、私達は規定年齢以下です。副長はおろか、騎士にもなれないのでは?それに第七騎士団は解体されると聞いています。前の団員にとっては、私達は壊滅に追いやった張本人になるのでは?」

「規定は確かに規定だが、特例もまたある。君たちは登用試験の成績も歴代トップ。それに今回の件で行動力と機転、それに何より大切な『人を助けたい』と思う心を示してくれた。今、君たちを騎士として迎え入れなければ、騎士団は宝を失うことになる。国を支え、豊かにしてくれる国の宝を。」

そんな大げさな…、と思ったけど、他の六人の表情からそれが騎士団全体の総意なのだと窺い知れた。

「そして第七騎士団は、アリア君の言う通り解体し、団員は全て新しく配属されることが決まっている。団長は、君たちと同い年で、ここにいるティア・サマーに内定している。タヴィル子爵の時とは全く異なる騎士団になるはずだ。困難も多いだろうが、引き受けてくれないか?」

「…要するに、イメージ回復、ということですか。」

騎士団総帥は眉一つ動かさない。

周りの団長達も。

ティアさんだけが、目を見張った。

「腐敗した団員を粛清し、解体した者が団長、副長となれば、世間からの騎士のイメージダウンを小さく抑えることが出来ます。騎士を騎士が裁いた事件になれば、内部浄化ができる組織として国民は安心するでしょう。」

「…シオン・ギレス。君の言うとおりだよ。君たちがこの話を受けてくれなければ、我ら騎士団への心証は悪いままだ。受けてくれれば内部浄化を印象づけることが出来る。しかし誤解しないで欲しい。君たちは本当に優秀で、早くこの国を支える人材になって欲しいんだ。…いや違うな、この国を知って、この国を好きになって欲しい。早く、ね。」

「それは私達が移民だから、ですか?」

「そうだ。君達はこの国にきてまだ数年しか経っていない。逆に、この国を客観的に見れるかもしれない。君たちを登用するのは、そうした期待の現れだ。」

僕とアリアは思わず顔を見合わせた。

僕はミシュレゲーテから。

アリアはディノティクスから。

奇しくも僕の親類には宮廷に縁の深い人がいる。

アリアは、お父さんが元新聞記者でディノティクスの内情に詳しかったはずだ。

アリアの様子から、政治の話には触れてきたみたいだ。

騎士団総帥の話は、僕達の素性を知った上でのことなのだろう。

「急なことだから今すぐに返事を、とは言わない。でもこちらも春までに決めてしまいたい。一週間後に、返事を聞かせて欲しい。」

「分かりました。あの。一つ、この件とは別のことを相談したいのですが良いですか?」

「ああ、構わない。」

「僕の家で預かっている、メディナ・ラティオラなんですが、ミシュレゲーテの祖母の家で面倒を見てもいいでしょうか。祖母は昔、南方帝に直接お仕えしていた宮廷楽士です。その縁で、今の宮廷の人にも顔が効くそうです。ミシュレゲーテでメディナの家族を探すのなら祖母経由でも可能だと思います。」

「!そうか、だから君は…」

エドワードさんが何か納得したように頷く。

「…良いだろう。君の祖母殿は、今はどこに?」

「普段はアルテナという街に住んでいます。ですが、一昨日から僕の家に来てメディナのお世話をしてくれています。」

その言葉に返事を返してくれたのは、六人の団長の一人で、年老いた男性だった。

騎士服だけど、魔法使いのようなローブを着ている。

「メディナは誘拐事件の被害者だから、国外に連れ出すにはその保護者を確認せねばならない。可能であれば、祖母殿に近日に面会をお願いしたいが、可能ですかな?」

「はい。大丈夫だと思います。家に帰って、祖母に聞いてみます。」

「それでは、ここに連絡をくれないかのう。儂の名前はジェルマン・オールドワイズじゃ。宜しく、お願いする。」

「はい。」

僕はジェルマンさんから連絡先を書いた名刺を貰った。



一週間後、僕とアリアはもう一度騎士団の詰所のあの部屋を訪ねた。

「こんにちは、アレス様。まずは、メディナのこと御礼申し上げます。」

「礼には及ばない。それに、君の祖母殿は顔が広いみたいだから、私達がミシュレゲーテに捜査の交渉をするよりも早く見つかるかもしれないからね。」

「必ず、メディナを元の家族の元に還します。」

「私達も、可能な限り支援を行うよ。」

「ありがとうございます。それで、この前のお返事ですが」

僕は今一度、深呼吸をした。

「お受けさせて頂きます。」

「私も同じです。副長、受けさせて頂きます。」

僕達の返事にアレス様は僅かに口角を上げた。

「ありがとう。二人の英断に感謝するよ。」

アレス様は立ち上がって、僕達の前まで来た。

背が高い。

それに、服の上からでも分かる。

鍛え抜かれた肉体。

この人は、強い。

「ようこそ、騎士団へ。」

僕は差し出された手を握った。


End

ティア、シオン、アリアの出会い編でした!

次はティアのお話になります。

リィザガロスはキャラが濃いのでどんどんサイドストーリーが浮かんできます。

他の国の人も、書いていきたいですが。

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