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東京マダーストーリー  作者: 真論久利須丁
1/1

作家志望男の目から鱗のチャンス

親にも見放されているにもかかわらず、作家志望をあきらめきれず公募を何度も繰り返し挑戦。そんな男に天からのチャンスなのか、居酒屋で偶然隣に座った紳士からある大学ノートを譲られた。

その大学ノートにはとんでもない犯罪歴書だった。

-犯人の犯罪(殺人)動機ー二度と会いたくなかった男を見かけたことでひしひしと殺意が目覚め、殺人計画を立てる。刑事コロンボなどを見てボロを出さないよう綿密に計画練りに練るー


刑事コロンボや古畑任三郎とは趣向を変えて現在ではなく過去のデータ事件簿をノートで読む形式にしました。

Ⅰ  大学ノート(犯罪記録)反省1

手記


あれだけ練りに練った慎重かつ細心の注意を払って実行した

畑山の抹殺大計画だったはずなのに小さなミス…

いや大胆なミスをしてしまった。

敗因は気候の時機、

    そして完全な油断だ。

油断禁物と頭に叩き込んでいたはずなのに…


「ピンポン」

朝早くチャイムが鳴った。無視した。

音楽のボリュームを上げて聴いていた。

マンションでは響くのでその苦情だろう、たぶん

だが、違っていた。

今度はドアを強く叩いて

「警察です。鳴海さん。開けてください」

〝警察!〟どうして

しつこく叩いてきた。居ることがばれていた。

ドアを開けるとそこには身体が小さい猿顔男、チビザルと

後でぼっと立っていた巨人男、ウドの大木がいた。

俺の住むマンションに尋ねてきた最初の二人の刑事だった。

こんな連中に負けるわけない。楽勝も楽勝だ。

笑うのを必死で堪えていた。

見た目で判断してしまったのだ。

それでも・・・どうして!なぜ?こんな奴らが・・

その言葉しか頭に浮かんでこなかった

畑山との繋がり(接点)には細心の注意をしていた。

それなのに見つけられたということなのだ。

この時点で終わり、ピリオドを打たれていたのかもしれない。

・・・・・


****************************

ここまで読んで大きな息継ぎをした。

自分の部屋で一冊のA4サイズの大学ノートを手にして中身を読んでいた。

 このノートは、ある居酒屋である紳士から貰った。

その居酒屋で俺は酔いつぶれていた。

小説家を目指していた僕は就職していた会社を親に黙って辞めた。

夢を諦め切れなかった。集中して公募に挑むためだ。公募に明け暮れていた。

もう三年以上だ。何度出しても報われることはなかった。両親も呆れて見放されていた。

そんな僕の隣にはスーツをきちんと着こなした中年紳士

見るからに実直で真面目そうだ。静かに一人でコップ酒を味わっていた。

テーブルの上で両腕の中に顔をうずめながらも〝こんな紳士でも居酒屋来るのか〟

と酔いつぶれたぼっとした上目でながめた。

「そんなに酔ってどうかされたのですか」

その紳士が僕に話しかけてきた。

声は渋い低音だ。話し方も丁寧だ。

酔いつぶれていた僕は訳もわからずついすがりたい、悩みを聞いてほしい気持ちになってしまったのか

「小説家になる夢を捨てられなくて会社まで辞めて公募し続けているのに全然実らず、報われません。基本が出来ていないのか、ありきたりで斬新さがないのか、結局全部含めて才能がないだけなのか。情けなくて」

溜まっていた本音をぶちまけた。

「そうですか」

といいながらコップ酒を飲み干すと

「これを差し上げましょうか。小説にするにはいい参考になるかもしれません」

A4サイズ大学ノートだ。古くもないが、真新しいわけでもない。

「これですか?」

紳士は中を開いた。

中は字がぎっしり埋まっていた。

口に人差し指を当てた。それから左右を見渡して側に寄り小声で

「私は刑務官です。ここだけの話として聞いてください。今日、一人の囚人が自殺しました。入って一年目でした。まだ三十過ぎたばかりでした。反省もしていたようだし、模範囚でうまくいけば刑も軽くなり早く出られたかもしれない。やり直しがいくらでも出来る年齢でした。ひもをどこから手に入れたのか首を吊って・・・やりきれません」

そこまで言うとまたコップに酒を酌みぐいっと一気飲み

飲まずには話せない感じだった。


「その囚人に反省文でも書くようにと渡したこの大学ノートに彼は犯罪を行った経緯や計画、刑事とのやりとり、失敗の訳などを綴った記録を残しています。彼には遺体を引き取ってくれる身内も居ません。これは遺留品の一つですが、渡す相手もいないので私が黙って持ってきてしまいました。

 それであなたに押し付けようと思ったわけではありません。あなたの話を聞いて彼が最後に残したこの手記をあなたが小説としてうまく活かしてくれたらと思いまして。いらないなら彼の棺の中に入れて火葬したいと思います。どうしますか?」

差し出されたノート。その表紙には鳴海祐二という名前が書かれていた。

“この男、鳴海祐二の犯罪、A病院の外科助教授畑山典弘殺人(一見複雑で難しい時間のかかりそうな事件)は、一年前にニュース、メディアでも話題になっていました。覚えていませんか。”聞かれた。“薄っすら程度は”とぼかして答えた。

“それが意外に早く解決して彼は逮捕されました。これはあくまでも参考にするだけでフィクション小説にしてほしい”というのが条件として出された。この人の正体、話のウソ、ほんとなど問題ではない。

頭を抱えていた僕にとってネタ・アイディアは喉から手が出るほどほしかった。

まさに天の助けだった。酔いが醒めた。

でもまだ夢のような話で頬を思い切りつねってみた。

痛かった。夢ではないのか?

「見ず知らずのこんな私にこんな貴重な物を・・・ありがとうございます。ありがたく頂きます。うまく活かせられるかどうかわかりませんが、期待に添えられるように頑張って書いてみます」

そのノートを両手に持って深々頭を下げた。

早く読みたい抑えられない気持ちが高まってきて代金払い店を出た。


それから家に戻り、ここまで読み終えた。

すでに午前二時を回っていた。

もう寝よう。

ノートを枕元に置いた。

眠ってしまったら朝になった時に

〝夢に決まっているだろう。いい加減目を覚ませ。喝〟と

冷静で客観的なもう一人の自分自身から怒鳴られているのでは・・・また、寝ぼけていたのかと消えて無くなっているのが怖かった。

側において置きたかったのだ。

狐に化かされていませんようにと願った。

翌朝、目覚めたとき枕の横にはノートが存在していた。

良かった、夢でなくて。

続きを読もう。

****************************


Ⅱ 奴との過去・因縁の再会

-


俺も一昔前は東邦日報社の社会部記者だった。トップ記者として名が通っていた時期もあったのだ。その頃調子に乗り過ぎていた俺は強引な取材をしていた。或日、取材から戻ると俺を見たキャップの目が血走っていた。

どうやら社に俺の取材先からクレームのような電話が何本も掛ってきたらしいのだ。キャップに怒鳴られながらそうなった事情を説明した。けれど、わかってはもらえなかった。

その後もキャップとは折り合いが合わず、社をやめた。フリーでやっていくつもりでいたが、世間は甘くなかった。強引な取材は他社にも知れ渡っていたため、俺の記事を受け付けてくれるところは少なかった。しばらくぶりに回ってきた仕事を済ませ、いい気分で銀座に行ってみた。はしご2軒目を終えていた。ふらふらしながら酔い覚ましに歩いていた。

いつのまにか繁華街から外れた細い道に入っていた。一軒の小さなスナック酔夢の前に来ると懐かしい曲が流れてきた。

亡き恋人との思い出の歌。

“何から伝えれいいのかわからないまま時は流れて…”

戸外から少し離れた場所で聴き惚れていた。

さびの

“あの日、あの時、あの場所で君に会えなかったら・・・”

に来た時、そこに入っていく一人の男、畑山。なぜ、こんな気分いい時にあんな奴に会わなきゃならない。二度と会いたくなかった男。忘れたかった男。


忘れかけていた男だったのにいやな過去が蘇えってきた。

あの日、あの時、あの町に行かなければあいつと会うこともなかった。

奴、畑山とは同じ市に住んでいただけだ。

奴はこの市に貢献している議員の息子だった。

顔は整っていて小学生にしてはもてていた。

ただ皆に小さいころからちやほやされているせいかわがままで高飛車、天邪鬼、嫌な面が三拍子もそろってしまうほど性格は良くない。

小学校では下級生、同級生はこの息子の言い成りだった。

上級生も腹は立っても何も手出ししない。

それどころか金でゆうこと聞くのもいた。

おまけに神童と呼ばれるほど頭も良かった。

そこへ俺ら家族が後から(中学の時)この市にやってきた。

奴とは違う中学だったが、俺はその頃、結構頭が良かった。

中学校のトップになったこともあったため持ち上げられ市の新聞にも載せられた事があった。


優等生のつもりなど全くなかった。勝手に市がやっただけなのだ。

体が小さく、ひ弱に見えた俺を同じ中学の上級生不良グループ大金を持って来いと脅された。かつあげとわけのわからない暴力。さんざん殴られた。

両親は落ち込んで帰ってきても何も気づかなかった。

そんなことが二年間続いた。両親にも誰もいえぬまま・・・時は過ぎた。

ただ優等生ずらしているのが気にくわないだけの理由だったと後からわかった。

だが、この暴力はもっと裏があった。ずっと後にあの連中を操ってやらした黒幕が判明した。

優等生、神童ともてはなされていたのに注目が俺に傾いてきたことを気にくわなかった畑山だった。それで金で動くあの連中を操ったのだ。

警察に訴えたところで有力者の息子だ。もみ消されていた可能性はあった。

畑山に対してもう一つ疑惑があった。当時、仲良くしていた同じ中学のガールフレンドが不振な自殺をした。遺書もなく理由もないのに自殺とされた。

一度、畑山と一緒にいるところを見た。別な日にはあの連中に囲まれていたのも見たのだ。

彼女にはその事情を聞く前に死なれてしまった。

畑山とあの連中は何か関係しているような気がしてならない。証拠は何もない。単なる直感だ。卒業する頃には不良どもはその市からすでに姿を消していた。

畑山もその市から姿を消していた。

あの連中も許せないが、畑山も絶対許せない。

必ず見つける、絶対見つけてやる。そう心に誓った。

あれから十数年が過ぎた今日、ついに奴と再会できた。

俺はこれから張り巡らす復讐の蜘蛛の巣に必ず奴を追い込んでやるとこの時決心した。この店で流されていたあの名曲が忘れかけていた俺に運命の裏木戸を叩かせてしまったのだ。


Ⅲ 傾向と対策


殺人という大犯罪をするからにはそれなりの準備、心構えが必要だった。


①犯人しか知り得ないよけいなことをべらべらしゃべりすぎないこと。いろいろぼろが出てしまうため。

②だからと言って、肝心なことは聞かなければならない。

皆が自然に刑事に聞くこと、「いつ、死んだのですか」

これを聞かないといつ死んだか知っていると思われる。

知っているはず、知らなきゃおかしい事を知らなかったりすると何かあるのではと疑いの対象にされる。

「刑事コロンボ」「古畑任三郎」で犯人が失敗する例の定番。

二人はこれでよく犯人に罠を掛けたりもする。

③あたりまえだが、証拠は残さない。

指紋、髪の毛には十分注意。

④相手とは争う前に仕留める。つかまれたり(引っかかれたり)、(ボタン、ネクタイピンなど)もぎ取られたり、(キーホルダーなどを)落としたりしないため。

⑤携帯電話や自宅の電話は禁止。着信履歴でばれるため遠くの公衆電話を使用。

それより一番気を付けなければいけないのは殺す相手との繋がり、接点をまず知られないこと。あくまでも第三者、知らない相手だと突き通して白を切る。

意見を曲げないこと。

常に冷静。びくびくしていると不審に思われる。

油断はしないこと。

*①から④までは完璧にこなした。⑤も公衆電話しか使っていない。刑事に対して毅然な態度を執っていたつもりだった。

一人、俺と同じくらい畑山を憎んでいて殺す十分な動機を持つ身代わり犯人を仕立てる必要があった。

 そのためには奴の近況をいろいろ知って予習して措かなければならなかった。

探偵を頼むかどうかずいぶん悩んだ。そこから足が付く恐れがあるからだ。

だからと言って自ら調べるわけにも行かなかった。

それだって足が付くから・・・しかたなく探偵を頼むことにした。

ここからは離れた場所にしなければだめ。頼みに行く時も相当の変装をしなければ・・・用心に用心を重ねた。下手な変装はばれるだろうが、俺であることさえばれなければいいと考えていた。油断はあった。時間が掛かるのは覚悟だった。

信長の様にかっとなってすぐ行動ではなく、家康のようにじっくり時期を待つ。

最初からこれは長期戦だと思っていた。

*事実、奴に再会したのは初夏六月始め、それから計画を練り始めて探偵に頼む決心をしたのは九月中旬初秋、決行は五ヶ月も過ぎた十一月中旬初冬から真冬になりかけた一番肌寒い時季になってしまった。

頼んだ探偵事務所の探偵は尋ねてきた俺を見て妙な顔をした。

元々服のセンスはない。鬘やひげを付けたが、どうみても怪しげになってしまった。

こうなったら奥の手しかない。規定料金にプラスαの現金を目の前の机の上に置いた。

ちゃっかりしていて、現金を見たとたんころりと態度は一変した。結局、みんな金には弱かった。にこにこ顔で

「話を聞きましょう」

畑山の近況を調べてほしい事を告げるといい顔はしなかった。その名前を探偵はどうやら議員の息子である事は知っていたようだ。また渋々顔だった。目の前の現金に負け

「わかりました。お急ぎですか?」

「できたらですが、そちらのペースでかまいません。わかり次第教えていただければそれで結構です。よろしくお願いします」

「連絡はどこに?」

仮住まいアパートはすでに仮名で見つけておいた。そこの住所を言った。

「わかったらここに送ってください。ではお願いします」

だいぶ掛かると思っていたのに意外と早く報告書が送られてきた。

[畑山典弘に関する報告書]

畑山典弘三十歳独身。特定の恋人はいない。

A大学付属病院の外科助教授。手術の腕はいい。だが、性格は最悪で人望はないように思われる。平島助教授と西野教授の後任、次期教授の座を争っていた。平島も同じ位手術の腕はいい。しかし、同じ位性格も悪い。

几帳面で、机上はいつも整理整頓されていた。物の順番や置き方が大雑把に成っていることを非常に嫌っていた。細かいことをしつこく粗探しするよう皆に注意していたので嫌われていた。これでは人望もないように思われる。

それでも金があるせいか、顔が二枚目だからか女に持てていたプレイボーイだった。

付き合っていた看護師(婦)も何人かいて捨てられたあと辞めて行ったり、自殺未遂されたりのスキャンダルな噂もあった。だが、本人否定でムヤムヤになった。畑山は教授に裏でいろいろ根回ししているらしい噂もあった。その分有利になっていたらしい。この二人が険悪なのは病院中(関係者)周囲全員に知れ渡っていた。畑山は平島の妹と知ってか知らずにか以前に付き合っていたことがあった。プレイボーイな畑山はすぐあきてなのか、それとも平島の妹と気づいたからなのかゴミのように捨てた。

平島の妹は自宅の風呂場で手首を切って自殺した。遺書はあった。

〝生きているのがつらい。・・・・・〟

(こっちが知りたかった畑山の敵、ライバルのことを特に頼みもしなかったのに調べてくれていた。お金プラスαをしただけの価値はあった)


Ⅳ 作戦・考案・決行


①身代わり犯人は平島清彦に決まった。

教授に対する根回しや妹のこと。

この事実を平島が知っていたとしたら憎しみありすぎるほどの動機ができた。

②その平島清彦にアリバイを作らせない。どこかに呼び出してひとりにさせる。しかし、呼び出しに応じなければ何にもならない。これはどうするか

③平島が絶対興味を持つこと。

教授戦で争っている畑山は平島にとって邪魔だ。

畑山を失脚させたい。

畑山を失脚させるネタがあるとか妹の死の真相についてといえば興味を持つ。

喰いついてくるに違いないとにらんだ。

*その計画通り、犯行時間、犯行現場付近に平島を呼び出すことは成功した。

一人だけにして待ちぼうけさせた。

呼び出されたことなど言えない筈だった。

言ったところで信用などされはしないとわかっていた。

④どこでやるか。奴のマンション。

俺は奴が住むマンションの部屋がちょうど見える位置の仮住まいアパートの部屋を見つけていた。

平島と逆の手。平島の弱みをつかんだから教えると言えば畑山は必ず乗ってくるはず。

畑山は俺のことを覚えているだろうか?いや憶えてやしない。やられた方は一生忘れないが、やった方はすぐ忘れるものだ。畑山は昔に痛みつけた男とは知らはずもない。スキャンダルを追っているハイエナのようなフリーライタとしか思わないだろう。


*事実、奴は俺のことなど憶えてはいなかった。名前は偽ってフリーのライターとだけ名乗った。平島の弱みを知っていると聞いたら畑山は張り巡らされた蜘蛛の巣に引っかかってくれた。思っていた以上に事はスムーズに進んでいった。

返ってそれが不気味というか、いやな不安、予感が頭の中を過ぎった。


その日は最も冷える寒い夜だった。寒い日だったので手袋をして毛糸の帽子を被っていても別に怪しまれることはなかった。

奴が部屋まで案内してくれた。

途中、同じマンションの住人には誰にも合わなかったので目撃者はいなかった。

今の世の中は〝隣の人は何する人ぞ〟下町はまだ残っているかもしれないが、都会のマンションでは隣に誰がいるのかなんて関係ない、近所付き合いなどしないほぼ皆、無関心な時代だ。万が一会っていたとしてもどうせ顔や服装なども憶えてやしないから犯罪者にとってはいい時代だ。奴は俺を招かれざる客にはせずにすんなりと中に入れてくれた。隙を見て後ろからナイフで刺した。暖房をリモコン専用立てからリモコンを取って一時間タイマーにしておいた。リモコンをテーブルの上に置いた。カーテンを少し開けといた。

俺はアリバイ作りのため死体を暖めて実際の死亡時刻からずれさせた。

実際の死亡時刻から一時間半くらいたってから自分が目撃者になって名前は名乗らずに警察に電話を入れた。見付かっても不自然にならず、あくまでも偶然見たことにするのだ。

指紋も残していない。帽子も頭をすっぽり包むのを被っていたので髪の毛が落ちる心配はない。ポケットには落ちるようなものは入れてきていない。ボタンのないものを極力着た。

誰にも目撃されていない。ないないづくしで完璧に決行したはずだった。

それなのに俺のところにあの刑事らが来たのは一ヶ月も経たないクリスマス前だった。


=================================================

Ⅴ チビザル刑事とウドの大木刑事との対決


ドアを叩きながらアパート中聞こえるような声を出されたので開けないわけにはいかなかった。何で俺のところに来たのだろうか。

ドアを開けると前にチビザル、後に木偶の坊。

その木偶の坊が高い位置から俺の部屋を覗いていた。

「私は七部署の緒砂おすな りゅうと言います」

チビザルは写真付警察手帳を見せながら挨拶された。

「同じく宇藤大樹うどう たいきと言います」

チビザルとは高さが違う位置から写真付警察手帳を見せて挨拶された。

「玄関では何なので中よろしいですか」

低音で巨人はしゃべった。

「はい、散らかっていますのでちょっと片付けます」

ある程度片付けた後、冷蔵庫に入っていたスタミナドリンクを飲み干した。

〝いよいよ勝負だ!〟と気合を入れた。

「どうぞ」

二人の刑事を中に入れた。チビザルからしゃべりだした。

「このアパートのお向かいのマンションで殺人事件があったのはご存知ですよね。この辺、騒がしかったと思うのですが・・・」

「殺人?あのマンションで、あぁそういえば警察官がうろちょろしていました」

「被害者はA病院の第一外科助教授畑山典弘、ナイフで刺殺されました。次期教授候補でした。ご存知ないですか?おまけに被害者の父は現役国会議員畑山典史です」

「そうなのですか。貧乏暮らしの私にはまったく縁のない世界の人達なので。それでいつあったのですか?」

これは忘れないように聞いた。

木偶の坊はあいかわらず黙り。その代わり部屋の中をじろじろと見回していた。

またチビザルが口を開いた。

「え!ご存じない?十日ほど前なのです。実はこの事件が発覚したのは目撃したと言う密告電話があったからです」

俺が電話したのだから知っているよと笑いを押し殺して

〝へぇ〟と言う顔で驚いて見せた。

「警察官が駆けつけたときにふらふらと近くを歩いていた男がいました。職務質問したところ、その男が逃げ出しました。すぐ追いかけて捕まえました」

平島のことだとわかっていた。

「その男が・・・」

予定通り。ここまでは余裕を持っていた。

「状況的には犯人・・・容疑者になっています。ただ現場には被害者の指紋しかありませんでした。その男は手袋を持っていませんでした。途中の現場付近をこよなく捜索しましたが、手袋は捨ててありませんでした」

あの寒さで手袋をもっていなかったのか。

この寒い時期を選んだのは手袋をするか、持参はしていると睨んでいたからだ。

ここで計算ミスが起きていた。

「後…」

まだ、あるのかと不安が過ぎった。

「これは対したことでは」

といいながら窓のそばによって

「ここからよく見えますね、被害者の部屋」

軽いジャブを打ってきた。

「このアパートの住人に協力を頼んで窓のそばに立たせてもらいました。

その中でもあなたの部屋からが一番よく見えます。もしかして電話を掛けてきたのはあなたですか?」

鋭いストレートが入った。これで俺のところへ来た理由がわかった。

やはり、よけいなことをしてしまったのか。警察に挑戦してみようなどと妙な考え、変な気をおこしてしまったのだ。第三者に徹するはずだったのに馬鹿なまねをした。

「・・・・・」

ここで黙ってしまった。黙まりを通すべきと決めてはいたが、後から考えると逆効果だったかもしれない。

「正直に答えてください。あなたが目撃したことは伏せますから口外されることはありませんので犯人が知りえることはないはずです。念のために、ガードを付けてあなたのことは必ず守りますから」

何をびくついているのだ。これは想定内じゃないか。

目撃者になれば完璧なアリバイがあるということなのだ。

これも後から考えたら、そう思うようにさせた刑事の暗示(罠)に掛かっていたのかもしれない。自信過剰の天狗だった俺は一回白を切りとぼけて徐々に認めていく作戦にしたのだ。

「違いますよ。私じゃありません」

「関わりたくないのはわかりますがね」

一拍おいてから

「今までの会話、このボイスレコーダーで録音させてもらいました」

ボイスレコーダーを右手に持って目の前に出した。

「電話してきた声とあなたの声を比べてもいいのですよ。そうなると警察は何回も足を運ぶことになりますし、あなたにも迷惑だと思います。ここで今、あなたが目撃したことを少しでも教えて頂ければ我々も手間が省けますし、あなたにも迷惑掛けないで済むと思います」

〝ここまでされたら電話を掛けてきたのは俺だとわかるのは時間の問題、これ以上下手な隠し立ては無駄だ〟と言う雰囲気を醸し出した。

この時点では逆に相手を誘導している。完璧なアリバイにはなるし、電話したのが俺だとわかったところで、奴との関係は未だ知られていないと思い込んでいた。

「わかりました。善意に義務だけで一応知らせればそれでいいのかと思っていました。それだけです。いろいろ探られたくないし、事件に関わりたくなかったし、犯人に狙われたくもなかったものですみませんでした。偶然、窓の外を見たときにカーテンのほんの隙間から見えただけで覗こうと思って見ていたわけではありません。倒れていく被害者からの血をチラッと見ただけです」

ここで、へたに人相を言うのは危険だ。まして平島の人相を言うのも返って何か墓穴を掘りそうだった。わからないと答えておいた。何かボロを出しそうなのでよけいなおしゃべりは控えた。さっき窓の側による前、刑事の顔が一瞬〝ニヤ〟としたのだ。

心臓の鼓動、バクバクが激しく鳴っていた。部屋に響いたチャイムの鳴った時と同じ位全身に響いてきた。

〝何、動揺している!しっかりしろ!今からこんなんでどうする〟

頬をたたいて渇をいれた。

「その血は、胸か腹だったか、背中だったかわかりませんか」

こんな手にはひっかからなかった。

「わかりません。本当にちらっと倒れていくのを見たので電話しただけですから」

「そうですか。残念です。しかたがないです」

タバコを一本取り出してから

「御協力ありがとうございました」

そう言ってうどの大木もいっしょに立ち上がった。

ドアを出た後に二人は一礼をして帰っていった。

「あ!一つ言い忘れていました」

行きかけてチビザルが振り向いた。

「これは顔見知りの犯行です。被害者に抵抗の後がありませんでした。不意を衝かれて背中を刺されたのです。では、失礼」

また一礼した後、タバコに火をつけて咥えて去っていった。

やはり、さっきの質問が罠だったとわかった。こんなものでは済まないだろうことはわかっていた。平島をまだ起訴していないと言うことは、平島犯人説に納得がいっていないということだ。平島の所持品や髪の毛などを手に入れて現場に置いていくという手もあったが、やりすぎると返って裏目に出ると思ったのでそんな小細工はしなかった。

現場のそばに行かせておいてそこにいたわけを話せない状態にする程度に留めた。

顔見知り。あれは俺に

〝もうあなたと畑山の関係は知っていますよ〟

と言う皮肉なメッセージを送っていたのかもしれない。

いつくるかと待ち構えていた。

思ったより早かった。翌日の夜に来た。

その日の冷えて寒かった。

最寄りの駅からアパートに向かう途中で

「こんばんは、今お帰りですか?我々はこの辺で聞き込みをしていたもので」

チビザルが話しかけてきた。

うそつくな。待ち構えていたくせにわかりきったことして。

思わず声に出しそうだった。

チビザルのほうがめがねをしていた。

昨日はしていなかったのになぜ?

おまけにマスクをしていた。息する度にめがねが白く曇っていた。

これは俺に見せつけるための演出、わざとやった事が後にわかった。

「昨日、顔見知りの犯行と言いましたよね」

今日は珍しく木偶の坊、ウドの大木がしゃべりだした。チビザルは、離れたところでタバコを吸っていた。チビザルの方が上司なのだろうか。

今日はウドの大木にまかせるのだろうか。

「被害者は几帳面で、部屋はきれいに片付けられていて荒らされていませんでした。

ドアノブに被害者以外の指紋がなかったのでおそらく被害者自身が中に入れた事になります。それで顔見知りじゃないかと判断したわけです」

かなりのストレートパンチが跳んできた。平島を現場のそばではなく直接現場に行かせるべきだったか。いや平島が畑山の住むマンションの部屋まで行かせる事は無理だ。

そんなことをさせようとすれば勘ぐられてしまう。おそらく警察は犬猿の仲の平島を畑山が自ら部屋に入れるわけがないので動機はあってもおかしいと思い始めているのだろう。

畑山の部屋にしたのは失敗だった。ホテルや旅館ではリスクが多すぎた。

公園のような場所の方がよかったのか。今更考えても後の祭り。

「もう一つ気になる点があります。エアコンのリモコンです。他のリモコンはきちんと専用のリモコン立てに立てられていました。被害者の性格上これが普通です。

エアコンのリモコンだけが無造作にテーブルの上に置かれていました。

つまり、暖房を付けたのは被害者ではなく、犯人ではないかと考えました」

ボディのパンチが効いてきた。

「畑山は小学生の頃に神童と呼ばれていたそうですが、あなたは彼以上に小さい頃頭が良かったそうじゃないですか」

俺と畑山が同じ市に住んでいた事をつかんでいるというのか。

俺が昔、畑山の指示で不良グループに嫌がらせされていた事も知られているというのか。

まさか、その不良グループだった奴らを見つけたのか。

そんなはずない。ここで動揺など見せたらだめだ。

毅然としていなければいけない。

「あなたの意見、聞かせてもらえませんか。この犯人、どんな人物だと思われますか?指紋、髪の毛など証拠になるものを全く残していない割には今一歩抜けているとこがあります」

この俺を抜けているだと。ふざけるな!

ウドの大木に言われ、頭に血がのぼっていた。険しい顔つきになっていた。

冷静を失うようにさせられていたのだ。いらいらさせるのが手だとわかっていたはずなのに引っ掛かってしまった。完全に俺を疑っていた。

締めにはまたチビザルがしゃしゃり出てきた。

「あなたが犯人ですね。あなたは完璧に動機を持っている犯人と疑われる人物平島を警察に提供した。彼を現場近くにうまい口実を付けて呼び出した。

しかし、その畑山の上辺、畑山に対する恨みの部分だけで性格までは読まなかった。犬猿の仲の二人なのに畑山が平島を自ら招きいれるはずがない。あなたほどの頭の言い方がなぜそこに気づかなかったのか」

胸ポケットからタバコを一本取り出し、口に咥えた。火をつけて一服した。

よくタバコを吸う奴だ。タバコを右手ではずし

「徹底的なのはこれもあなたらしくない失敗です。気づきませんか?あなたに会ったときヒントを与えていました」

ヒント?いったいなんだ。

このチビザルに会った時に白く曇っていためがねを何度も拭いていた・・白くなる、寒い夜、暖房、窓ガラス・・・そうか。

俺はとんだあほな失敗をしていた。目撃者になろうなんて馬鹿な考えを出したばかりに・・・

ひざからくずれた。

「気が付かれましたか。あの日は特に寒くて、暖房にしたら窓ガラスは白く曇ってしまいます。中の様子が見られるはずがないのです。よくはわからないといいながら倒れていくのをチラッと出も見たといいましたからね。目撃談は警察に対する挑戦だったのですか?これがなかったら、リモコンもうっかりしていたのではとも言えるし、部屋の件も被害者が入れたのではなく鍵が開いていてうまく進入できたのではとも言えますからあなたにいくらでも反論されてしまったと思います」

この刑事が言うようにリモコンと部屋の件は確かに反論の余地が多少でもあった。

刑事コロンボで

「魔術師の幻想」

の犯人が逮捕される時

「完全犯罪だと思ったのに」

と言った犯人に対して

「完全犯罪。そんなものありませんよ」

と言い放す怒りのコロンボ。

その通りだ。あのチビザルとウドの大木、二人の刑事を甘く見すぎた。

今考えたら穴だらけのずさんな計画だった。

****************************

一気に読み終えた。

この刑事たちがそれほど優秀だったのか?

犯人の単純なミスじゃないか?

あの程度ならこの二人じゃなくても見つけられていただろう。

古畑なら一日で解決できたのでは?

ドラマの刑事といっしょにしたらかわいそうか。

これがうそ、ほんとなどは関係ない。

天が一つの大チャンスを僕に与えてくれたのだ。

どう小説風にしてせっかくのチャンス生かせるかは僕次第。

文才など全くないが、挑戦してみるか。

(もう一つ加筆修正パターン)

一気に読み終えた。

この刑事たちがそれほど優秀だったのか?

犯人の単純なミスじゃないか?

あの程度ならこの二人じゃなくても見つけられていただろう。

古畑なら一日で解決できたのでは?

ドラマの刑事といっしょにしたらかわいそうか。

後から色々と探ってみるとこの事件の犯人が捕まった記事、形跡が見つからない。

よって犯人が刑務所で自殺したというのも怪しくなってきた。そうなるとあの紳士?はいったい誰だったのだろう。まさか本・・・まさか・・・

これがうそ、ほんとなどは関係ない。

天が一つの大チャンスを僕に与えてくれたのだ。

どう小説風にしてせっかくのチャンス生かせるかは僕次第。

文才など全くないが、挑戦してみるか。





殺人の動機も計画の失敗した理由もいまいちだった。刑事コロンボや古畑任三郎を真似ないようにしたい気持ちが裏目に出てしまったまだまだ未熟な作品になってしまった。

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