魔族、家族に苦悩する
不定期ですみません。
ボクの家は町外れの森の中にある。
森の中ということもあり比較的低級の魔物だが生息している。
魔物とは動物や植物、個々の特性は変わらず他との個体と比べ、より多くの魔力を保有している個体が、稀にその魔力と本来の特性が混ざり合って新たな特性を形成することで、新たな種へ進化した個体である。
生物全てはある程度魔力を保有している。
それは、ヒト族も種に差はあるが例外ではない。
ヒト族は5種族に別れている。
まずボク達、人族。それから、妖精族、矮人族、獣人族、龍人族が存在する。
妖精族が特に魔力の保有量が多く、次に人族、矮人族、獣人族、龍人族と個体差も存在するが種による差は大きいものである。
冒険者はその魔物の討伐依頼なども受け付けている。
ボクも低級魔物を相手にした経験は何度かある、しかしその全てが待ち伏せでの不意打ちである。
つまり、まともに対峙したことがないのだ。
そのことを考えると冒険者になるのだから、これからは対峙する状況など日常的に遭遇することになるのだ。学舎では対人の戦闘訓練はあるものの魔物との戦闘訓練はなく、座学での講習のみだった。
魔物との戦闘訓練はしないのかと聞いたことがあるが、先生曰く、対人戦闘で力量を計測ているそうで、ある一定以上の力量を示せなければ卒業できないとのことだそうだ。
しかし一度だけでも経験しとくべきではないかと思案していると、いつの間に日は傾き、空は茜色に染り、家の前にたどり着いていた。
家の扉の鍵は開いていた。
家に入ると中はいい匂いで満たされており、一人の女性が台所に立ち料理の最中だった。
「ただいまローラさん。」
と声をかけるとローラさんは振り返り満面の笑みで駆け寄って抱きついてきた。
「おかえりールキー!」
ローラさんはボクの唯一の家族である。
しかし血縁関係はない。
ボクは一度家族を亡くしている。
身寄りのないボクは孤児になるはずだったが、ローラさんが引き取ってくれた。
ローラさんは当時駆け出しの冒険者でボクを引き取る余裕などなかったはずだが、今までそんな素振りは一切見せなかった。
ローラさんが冒険者だったということもボクが冒険者になるきっかけの一つである。
ボクはローラさんの抱擁を受けていた。
こうして抱きつかれるとやはりこの年頃としては意識してしまい恥ずかしいが、この暖かさは心地良くもあった。
ローラさんはしばらく抱きついた後満足したのだろうボクを放し一つ咳払いして、いつもの調子で話し始めた。
「おかえり、無ことに卒業できたの?」
「バッチリだよ、明日にはギルドで正式に登録して来るんだ。」
と自慢げに話すボクを見て、ローラさんは微笑んでいた。
「それじゃあ今日はお祝いね、料理の準備は出来ているから、先にお風呂入って来なさい。」
食卓を見るとそこには多種大量の料理が並べられてあった。
「すっごい量だね、この量二人じゃ食べきれないよ。」
「何言ってるの男の子でしょ、このぐらいペロッと平らげないとダメよ。」
もう成人なんだけど、ローラさんの中ではまだ子供のままなのだろうか?
「うっ…頑張る。」
完食は無理でも限界まで詰め込めるだけ詰め込もう。漢を見せようじゃないか。
「じゃあ先お風呂入るね。」
その前にお風呂が先である。
湯船にお湯が張ってあるのを確認し、服を脱ぎ、身体を洗い流してからお湯に浸かった。
「ふー、きもちぃー」
その時、浴室のドアが開いた。
するとローラさんが一糸まとわぬ姿で入ってきた。
「な、ななっ…」
リラックスして油断していた。
ボクは突然の出来ことに動揺しながらもどうにか顔を背けることに成功した。
しかし一瞬視界で捉えたローラさんのスレンダーでありながら女性らしさ溢れる姿が脳裏に焼きつき離れない。
「い、いきなりどうしたの⁉︎」
「一緒に入ろうと思って。」
「それは聞かなくてもわかるよ!」
既に入ってきているのだからそうなんだろう。
「ルキは私と入るのは嫌なの?」
「もうボクも子供じゃないんだよ⁉︎」
「なになに、もしかしてルキ意識しちゃってるの?もう、可愛い奴めー。」
そう言ってまた抱きついて来ようとしたので水の中に潜って逃げた。
いくら家族だからと言って血縁関係があるわけでもないし、そこまで歳も離れてないのだから意識しないなんてできるはずがない。
ローラさんが機嫌良さそうにしている側でチラチラ視界に入ってくるローラさんの姿に終始どぎまぎさせられ、リラックスできる時間が一変し、落ち着かない入浴となった。
お風呂から上がり、ローラさんと二人で食事を済ませた。
それからボクは明日の準備をしていた。
「ねぇルキ、明日私も一緒に行ってもいい?」
ギルドへ行くのはこれが初めてではないが、確かに一人で行くのは少し不安ではあった。今も現役の冒険者であるローラさんが居てくれるのはとてもありがたい話である。
実はこちらから頼もうと思っていた。
「うん、いいよ。」
そう答えるとローラさんは嬉しそうな様子で準備を始めた。
そんなに何が嬉しいのかボクには見当もつかなかったがローラさんが嬉しそうにしているのを見ているとボクも嬉しくなる。
ボクは準備を終え、明日も早いので寝ることにした。
「じゃあボク先に寝るね、おやすみ。」
そう言い残して自室へ入った。
「おやすみ。」
と閉ったドア越しにローラさんの返事が聞こえた。