魔族、幼馴染に苦悩する
一騒ぎあったが無事に卒業できた。
学舎を後に帰宅している途中
「おーい、ルーキーー!」
声が聞こえて振り返ると少女が走って近づいて来ていた。
「フィユ?今日は家の手伝いがあるんじゃなかったっけ?」
フィユの家は武器屋でその手伝いがあると聞いていた。
実はフィユが家の手伝いをするきっかけはボクにある。
ボクとフィユは幼馴染であり、ボクが冒険者になる事を知り、
「じゃあさ、ルキの武器は私が作ってあげる。」
と宣言し、家を手伝いながら武器製作の技術を習っている。
「そうだったけど、早めに上がらせてもらった。」
手伝いを済ませて来た事はわかった。
次に理由を聞こうとして口を開こうとしたが、間髪を入れずにフィユがそのまま話を続けた。
「今日学舎卒業するって言ってたじゃない、つまり冒険者になったって事でしょだから、はいこれ」
そして1つの包みを取り出した。
「卒業祝いと就職祝い?まぁ私からのプレゼント。」
フィユには前もって卒業する事を話していたので今日渡しに来てくれたのだろう。
「覚えててくれたんだありがとう!」
包みを受け取り、
中身が何か気になったので聞こうとした時
「開けてみて、私オリジナルの最高傑作よ!」
「フィユの作った物か、想像できないよ。」
本人からの許可も出たので開けてみることにした。
「短剣だ!」
柄や鞘に無駄な装飾はなかったが、
鞘の方にちゃっかり彼女自身の名が彫られてあった。
シンプルで新人のボクが使うにはちょうどいい武器なのかもしれない。
「刀身も見て良い!」
「落ち着け、わざわざ聞くなよ、これはもうルキの物なんだから。」
すぐに剣を鞘から抜いた。
すごい!武器屋で売られてる物と見た目に大きな差はないと思う。
武器屋に行って武器を眺めることはよくあるが、目利きができるような技能を身につけているわけではないので詳しいことはわからないけれど。
「すごく嬉しいよ!。冒険者に武器は必要不可欠だからね、ありがとう!」
「喜んでくれたなら作った甲斐があったってものだ。」
そう言いながらフィユは嬉しそうに表情を綻ばせた。
「おじさんから教えてもらってるのは分かっていたけどこんな短期間で作れるレベルじゃないよねこの剣!」
「ふふん♪父さんも言ってたけど私には才能があるみたいなんだ。」
才能かー、まさか!
「もしかして武器製作系のスキルが発現したんじゃない!」
「それはわからん、スキルの鑑定なんてした事ないからな。」
スキルとは、簡潔に言えば才能である。
しかし、訓練などでスキルを身につけることは可能である。
スキルには熟練度というのがあり、その成長速度に差が生まれる。
故に才能と言う人も多い。
スキルには種類があり、
生まれた時から備わっている先天性スキル、訓練を積み重ねて身につける後天性スキル、また種族などで異なる特有のスキル、
魔物のみに存在するスキル、
などがある。
さらに細かく分けられているらしいが学舎ではスキルについて大雑把にしか教わらなかった。
つまり、フィユは武器製作向きのスキルを身につけたのかもしれないということなのだ。
そうだ!
「冒険者の正式登録しにギルドに行くでしょ、その時一緒に鑑定しに行こうよ!」
フィユは唸りながら少し考えて口を開いた。
「興味はあるけどさ、ルキがなる冒険者と違って保有スキルを知らなくても大差無いと思うし、私には必要ない。」
確かにそうだ。
しかしボク達は今年で15歳で丁度成人なのだ。
タイミング的にも良いのではないか?
フィユは大差無いと思っているが知ってて損はなく得する可能性は高いと思う。
でも本人が必要ないというのなら仕方がない。
「そっか、無理強いはできないしね。」
「おっと、ルキの結果は教えろよ!」
興味があるということは本当らしい。
鑑定結果はあまり言いふらすものではないが
まぁそんなに珍しいスキルが結果として出るとは思えない。
フィユになら教えても良いかな。
「わかった、明日ギルドで登録済ましてからフィユ家に寄ると思うからその時にね。」
するとフィユはニヤリと表情を変えた。
「今ふとルキが身につけてそうなスキルの名前思いついたよ。」
嫌な予感がする。
フィユは、ボクを冷やかすよからぬ考えを思い付いた時によくあの表情をする。
「そのスキル名な…オトコの娘!」
「っな‼︎」
「ルキに、と〜っても合ってると思うね。」
「合ってない‼︎からかわないでよ!」
「あはは、ルキのリアクションが面白くて、ついからかいたくなるんだよ。」
からかわれる側は堪ったもんじゃない。
「次からかったら結果教えてあげないよ!」
「はいはい、もうからかわないって。」
剣を受け取った時のいい空気がこれで台無しだ。
「もうボクお家帰る…」
「拗ねちゃった。」
「拗ねてないよ全然…」
「拗ねてるじゃん完全に。」
フィユは呆れて溜め息をついた後、少し考える素振りを見せた。
そして口を開いた。
「じゃあさ父さんに頼んで店の商品一つあげるからさ許してよ。」
「なんでも?」
「なんでもとは言って…、はあー、……保証できないけどわかった…」
「ん、拗ねてないけど商品貰う。」
拗ねてないよ本当に!
その後少し話して最後にもう一回しっかりお礼を言い、フィユと別れ帰宅した。