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ステータスが表示されないのは僕だけですか  作者: サイケデリックを君に
1章 シイナ 1話 忘れることのない出会いと別れ
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イルミネイト

 抜刀して太刀を振りかざす。太陽光に照らされ、黒鉄の刀身が不気味に光る。草原ゾーンに生える雑草を振りさばく。あくまで想像上の植物で数時間後にリセットされるのだろうけれど、面白いくらいに切れていた。全身1メートル強のバズをしまい、ターゲットを確認した。


 マップ名〈ララバイ〉目標〈太陽光に照らされる一つだけの命〉。


 ずいぶんと詩的な名前だ、イシイ作であるまいしとシイナは思う。だがそれだけの余裕はなかった。それまでの槍と違い、手に馴染んでない太刀を振り回して戦闘を行うのかと思うと、あっという間に冷や汗をかいてしまいそうだったと感じていた。


 ……だがいくら進んでも、辺りには進入禁止エリアの表示と草木の繁る情景だけだった。西洋風の鉄製鎧は太陽光の影響と、槍専属時期の一撃必殺スタイルを確立できないと考え、シイナは軽装鎧へと変更した。多少のリスクを犯してでも、そのアテンポを崩すべきではないと考慮していた。


『マスター、ちょっといいかい』


 突然現れた〈ピック〉は、静かに話し始めた。


『このターゲッティングなんだがね、どうやら公式ミッションではないようなんだ』

『どういうこと? ハーベスター以外から配信されることなんてあるのかしら』

『ああ、それはない。どうやら〈バグ〉のようだ。これよりマスターのデータ保護を開始する』


 そういうと姿を消した。

 しばらく歩いていると、浜辺に出た。だがピックの言う通りなのか〈シイナ〉の脳内がその情景を思い出すことは無く、明らかに初見の鳥が、見たこともないブルーライトが輝いていた。まるで初めて電子パネルを触った時の様な感覚が、彼女の視覚と聴覚を支配していた。

 そして、シイナの瞳には〈太陽光に照らされる一つだけの命〉が映っていた。

 照らされていたのは少年だった。全身を砂浜に打ち付けている。だが生体としては幼すぎる彼の体は、シイナ一人で担いでしまうことのできるほどで、陽炎な舞台からしたら異質な存在だった。


『なぜこんなところに……ハーベスターに連絡を』

『言い忘れたが、異界と思われる場に入った時点で我々は本部と連絡が途絶えている。可能性のある少年のステータスメニューから通報してくれないか?』


 少年のステータスメニューを開くと、だがそこには基礎能力表――所謂HPや、魔法をつかさどる物ならMPなど――が書かれておらず、ただ『転生を確認しました。ご希望のお名前をお書きください』とだけかかれたメッセージがあるだけだった。


『仮の名前でいい、その先からエマージェンシー通報ができる』

『変更が利くの?』

『後で本部に名称変更チケットくらいもらってやる。

だがおかしいな、名称は我々ピックがこの世界の事を説明した後に行う事なんだが……』


 シイナは一先ず〈イルミネイト〉と記入し、自らにもセンスが無いということを再確認した。



 イルミネイトを通報した後に、シイナは無事バグを取り除き帰還することができた。だが再びジョイントへシイナが帰ってきても、機関から連絡が来ることは無かった。受け付けのすぐ近くにあるドリンクコーナーで清涼飲料を飲みながら、二人は話し合っていた。


『どこかの病院で預かっているのだろう、気にするな。私も把握している訳だからな』

『そうね……だけど、よくあの海から抜け出せたものね』

『ああ。少年を通報して現実に転送された後、辺りが暗がりに』

『ゼロとイチで埋め尽くされて、今思い返しても恐ろしいわ、アレ』


 そうやっていると、奥から大人の男性がドリンクコーナーへと入ってきた。西洋風の顔立ちで、本を一つ携えていた。


『ん、ああシイナさんか。こんばんは』

『こんばんは』

『スヴェート殿か、本日もお疲れのようだ』

『いや、お二人ほどではないよ。バグに巻き込まれたんだって? うわさで聞いたよ』


 スヴェートはお茶を頼み、シイナの隣へと腰かけた。厚い生地の服を脱ぎ、隣へ置いた。シイナがよくよく考えると、年がら年中その服を愛用していた。何着もあるのかと疑うくらいに。


『ニュースにはなっていないんですか?』

『いいや。チームのピックがたまたま君の事を見たと言っていてね、それで何かあったんじゃないかと思たら「バグ」なんて文字が見えたらしくて。その世界では何があったんだい?』


 シイナとピックは顔を見合わせ、スヴェートの誠実さを確認し合った。どれだけ小さな情報だとしても、それが有害に働いてしまったらと考えていた。だけれど絶対的信頼を置いている彼に、二人は教える許可を出した。もちろん、範囲を決めて。


『辺りにゼロとイチが、暗闇を包み込んでいました。ピックが居なければ帰ってこれなかったかもしれません』

『二進数というやつか。それだけかい?』


 ピックは軽い体を耳まで持っていき、「それだけだ」と伝えるように急かした。いや、そうしなければいけないとシイナ自身解っていたはずだが、「それだけか」と聞かれると真実を話してしまいそうだった。バグの範囲では確かに二進数の世界は「バグ」かもしれないが、あのマップ自体正規ではなかったのだ。それも要因となり、心を引っ掛けた。


『はい、それだけです』


 スヴェートはにっこり笑った。


『そうか、君らが無事ならそれでいい』


 やはり彼は清人だったと二人して安堵を顔に浮かべ、スヴェートと別れ部屋へ向かった。

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