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ステータスが表示されないのは僕だけですか  作者: サイケデリックを君に
2話 存在するまでの可能性とやら。
12/13

廃墟に棲む未来

 シイナは、目が覚めた。いや、醒めたのだ、完全なる少女として、椎名として。

 自らのやるべきことを思いだした先日の夜。お月様の光を雨と共に目一杯浴びた暗夜。彼女はようやく思いだした。澄み渡った審美眼を辺りに回し、心理を掴んだ。その第一歩としてイルミネイトと共に戦闘する。それから、少女の未来は始まった


 その日は荒廃したビルだらけのステージで、どうやら戦後の様子を現していた。シイナは、辺りに香る火薬のにおいを感じていた。そんなこともお構いなしに、窓ガラスの割れたビルは静かに佇む。そして彼等を見る敵を、潜めていた。


『地雷でも埋まってそうね』

『えっ、そんなことあるんですか?』

『こういう戦地だった場所は、ありがちなのよ』

『起爆させてみましょうか』


 イルミネイトが自慢のマシンガンで、それでも離れている場所に放火すると辺り一面は焼け野原と化した。煙が舞い散り、巻き込まれた瓦礫の山が倒壊する。シイナは冷静に判断した。異常なほどの薬香だ、ランダムに撃って暴発が起きたのだからよっぽどの数が埋まっていると。彼の腕前を鍛えられないのは非常に残念だが、反射で巻き込まれなんてくらってしまっては元も子もない。シイナによる単独戦闘を余儀なくされた。そしてそれは本当に‘災厄’を意味していた。何故ならそこの敵は単騎でも、魔法使いだったのだ。遠距離線を得意とする彼等との戦闘でこのマップでは、一方的にやられる可能性の方が高い。もはやその時点で、二人はゲームオーバーを覚悟し、クリアを期待してはいなかった。

 だがことのほか、攻撃がやってくることは無かった。謎に満ちた静けさを奇妙な、そして独特なにおいと共に二人は目撃したビル――辺りでも突出している――そこへ乗り込んでいった。そこまでに地雷が存在していなかったことも奇跡だが、彼等がこのステージを攻略することもまたそれだろう。だがやはり彼は発砲すべきではないと告げる。


 ところがどうだろう、そこには随分とおしゃべりな女性がいた。


『あー。どうもどうもー。いやーすいません。今、エネミーの代役やっていて、私〈スケイズ〉って言います』


 アメリカライズされた派手衣装を身に包んだ彼女、赤く染まった髪と朱い本。どうやらシイナが以前共闘したシンセロと同じ種のようだった。


『代役とはどういうことだろうか、説明求む』

『ほら知らないの? この前アップデートあったじゃない。でもここの敵情報だけ更新されてなくて、臨時で私がボス役やらないといけないのよ』

『そんなことあるんですね』


 その声の(イルミネイト)の方を向くと、やけにサバサバした口調で語り始める。まるで年下の子を狙う様な、お姉さまだ。


『何々、超可愛い子連れてんじゃん。あっ、えっ? 何? 親子? あれ、でもこの世界に親子関係ないんだった。

親も嘉兵衛子も嘉兵衛ならぬ親も美形子も美形、親美形子美形子美形親美形なんつって』

『よくしゃべる女だ』


 たまらずピックも飛び出す始末だ。余程のべしゃり上級者かもしくはただの雑談野郎ということになる。シイナは若干彼女の事が好きだった。


『ねえ聞いてよー。私この日のためにわざわざ研修所通ってさ、ほらこのでっけー本。一週間も研修やってたんだよ!? ハーベスターの意向で』


 この、何とも言えない中途半端なB級芸人感を、どこか嫌いになれずにいた。だがそこは敵だ。きっぱりと割り切り、シイナは槍を振りかざす。スケイズが手でストップと意思表示をし、戦闘の準備を始めた。シイナが素早くかつ大胆に突っ込んでいった。もちろん左右にスペースがあることを確認し、魔法の範囲次第ではいずれかへの回避も考慮した。だが、そんなことはできなかった。


『えぇーっと、これだ! 〈ドレイクスルー・ブレイズ〉!』


 その一つの詠唱と共に巻き起こった炎網は、シイナのHPをあっという間に0へと陥れ、それはイルミネイトも同じだった。だがそれだけに留まらず、その建物を、そのフィールドほぼ全域を包むかのごとく燃え広がり、爆発の音がする。かつての戦争が再び開幕したかのごとく、辺りは炎で包まれた。


『あっ、ごめーん。これ最終奥義って書いてあるわ。ごめんね! スリルなくて本当にさー、やっぱセンスないのかねー私』

『そうね……あるのはセンスじゃなくて才能かしら……』


 ロビーへと戻ったシイナ等は、ちょうど最後の仕事だったスケイズと共に談笑していた。というより笑うことはできなかった。彼女によると〈ドレイクスルー〉系統は一般魔法使いが使用できる最上級の魔法で、使用するカラーによって効果は変化するらしい。ブレイズ、つまり赤魔の場合、フィールド全域を包むほどの火炎で敵を襲う。イコール死である。


『お詫びと言っちゃなんだけどさ、私だったら機関に呼び出されてないときだったらいつだって戦闘に駆り出されてあげちゃう!』

『スケイズさんはハーベスター員なんですか?』

『いんや? なんか呼び出されたの。「成績優秀の君に、是非とも協力を頼みたい」って。学校一年でさっきの魔法覚えただけで、全然大したことないのにねえ』


 いや、それはガチの天才だという目でシイナは睨んでいた。だが、いつでも戦闘に協力してくれるのは彼女にとって本当にありがたいことだった。ただ巻き込まれを恐れ、次回以降地雷マップだけはマップ対象から外しておこうと決意したそして翌日、早くも彼女を加え4人チームで戦いに挑むことを決めた。もう一人はスケイズの友人を連れてくるらしく、シイナ達は妙にソワソワしていた。ロビーに流れていた音楽は、どこかで聞いたペテン師の声に似ていた。


『あー、どうもどうも。スケイズちゃん登場でござる、ええ。あっ、で、この子〈グレイン〉。うちの学校でも結構優秀だったのよー、まあ私の次だったけど』

『あんたしゃべりすぎ、耳に響くんだけど、やめてよ。あ、初めましてグレインです。』


 なんだこれはと、夫婦漫才か何かかとシイナは笑い、呼応するようにイルミネイトが愛想笑う。シイナの創成から今まで感じたことのない感覚を、耳で楽しんでいた。そしていよいよ彼女の実力を拝む時が来た。

 場は静かな学校の教室で、何故か机がしっかりと並んでいた。シイナ、イルミネイト、スケイズと順次転送が終わり、最後に送られた彼女の姿をおがんだ。現れたのは軽装の和服で、露出した肌が見える。水色と白の対照的な服や蒼い長髪をじっくりと眺めているうちに、それ以上に注目するべきものをシイナは捉えた。それはやけに大型の剣だった。いくら生体といえ、鋭く光る大剣を軽々と振る細い腕を、シイナは恐れるように眺めていた。


『さ、行きましょ』

『こう見えてもなぁ、あいつのステータスは最上級だぜ。私よりも高い』

『すごいですね……僕、自身無くなってきたかも……』


 シイナとスケイズは「君は自信を持て」と言わんばかりに、彼の頭を撫でた。

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