コークスと副産物
仮拠点を設けて人材派遣を始めてからは、とても忙しくなった。没落しても元リバーサイド侯爵家という貴族としての知識があることと、資産家としてのリバーサイド家の信頼が高かったため、人材派遣の依頼が殺到した。
主な仕事内容は仕事を教える教官的な内容であったり、急なパーティー等による人手不足を補う等の内容が多く、フィナ自身もパーティーへのお誘いが多く、中には婚約の申し込みもあったりして、お断りする事に多大な労力が必要となった。
そして、専用のオフィスが完成し、拠点を移したところで一旦、人材派遣の仕事を段階的に減らしていき、今後は専門の人材を育ててから再開することとなった。
「では、第一回新拠点での活動方針会議を開きます。」
新たなオフィスは3階建てのレンガ造りのビルは、外観を白く塗り、船着き場からよく見える特徴的な建物となった。
中は地下に倉庫があり、1階は受付ともし何か商品を置くことになってもいいように広いスペースを設け、2階は会議室や食堂、休憩スペースがある。そして、3階は事務スペースとフィナ専用の執務室が置かれている。勿論、全階トイレ完備である。
現在は、2階の会議室で今後の活動方針の説明のため、元使用人一同が集まっている。
「今後の活動ですが、これを商品として活動します。」
テーブルに置いたのは真っ黒な石炭で、石炭そのものは蒸気船や蒸気エンジンを使った機械などが増加傾向にあるので、需要が伸びている物ではあるが、ほとんどの鉱山は国や貴族、大商人に占有されている。なので、新たに石炭の販売に加わりたくても加われない状況となっていた。
「あと、これもです。」
鉄のインゴットも石炭の横にテーブルに置く。
鉄もまた蒸気船や機械、工業製品の材料として需要が伸びており、常に品薄状態となっている。
鉄鉱石は皇国の何処でも採れるため、参入しやすくなっているが、精錬のさいに使用する木炭が深刻なまでに不足しており、生産量が頭打ちとなっている。
因みに、石炭で鉄を精錬すると石炭に含まれる硫黄によって質が著しく低下するため、使用できない。
「ですがお嬢様。石炭を掘る場所がありません。それに、鉄も燃料が足りなくて鉄鉱石を仕入れても、燃料が無いのでは?」
「それはこれを使って解決するのです!」
今度は石炭によく似ているが石炭のような光沢が無く、何やら小さな穴が沢山空いている物をテーブルに置く。
「お嬢様。これはなんですか?石炭とよく似ておりますが...」
「これは、石炭を高温で蒸し焼きにしたコークスという物です。」
そう。ここに置いた物はコークスで、石炭を高温で蒸し焼きにし、硫黄等の不純物を取り除き、炭素の純度を上げたもので、石炭をコークスにすることで、コークスを燃料に鉄鉱石を鉄へ精練することも可能になるのである。
「なるほど。確かに石炭でしたら市場に沢山出回ってますから、コークスを利用して鉄を精錬してもいいですし、コークスを燃料として販売するのもいいですね。」
「でしょ?あと、コークスにする段階で副産物が幾つか出来るのだけれど、直ぐに商品として売れるのはこれくらいかしら?」
今度はテーブルに黄色っぽい液体が入った瓶を置き。
「これは、軽油といって、コークスを作るときに出る油です。これも燃料として使えるので、軽油用エンジンの開発と軽油を使ったランタンの販売をしようと思います。」
「石炭1つでそんなに色んな物が...」
「他の副産物も本当は利用方法があるのですが、私には活用する知識がないので、今はコークスと軽油、あと鉄の販売を中心に行います。」
その後、会議で方針が決まり、執事のカルロスと見習いのセバスは事務スペースで執務を行い、侍女長のマリアはフィナの秘書を、料理人のオルスは2階の社内食堂を担当し、庭師のトマスはオフィスビルの前庭やビル内の鉢植えの植物の世話を担当し、新たに事務員を雇い、ビルの近くに大きな製鉄工場と併設してコークスの製造工場やランタンの工場。品物や原料を保管する倉庫が建てられた。
建設中に商人ギルドには商会設立の申請を行い、原料の仕入れルート確保や工場の労働者を雇ったりした。ここで、以前に人材派遣で出来ていた関係が役に立ち、貴族や豪商に良い人材を紹介してもらえた。
因みに、この時点で残高は白金貨4枚と金貨9010枚となった。日本円にすると、残高490億1000万円となり、出費が100億2800万円となる。
そして、オフィスビルには商会名の書かれた看板が設置された。
「さて、始めましょうか。このリバーサイド鉱業商会を!」