商人ギルド
船は運河を進み、翌朝には皇国へ入り、昼前に皇国の王都の船着き場に到着した。
フィナをはじめとする一行は、とりあえず宿を借り、荷物を整理すると、フィナは、カルロスとセバスを連れて、タンデヴィシュ皇国の王都にある商人ギルド本部へ向かった。
ギルドに着くと、たくさんの商人でごった返しており、あちこちで商談が行われており、たくさん並ぶギルドカウンターには多くの商人達が様々な用件で並んでおり、特にギルドへの加入申請カウンターには長蛇の列が出来ている。
「では、私が列に並びますので、お嬢様は2階のカフェでお待ちください。」
「いえ、セバス1人に任せるのはなんだか悪いわ。」
「お気になさらず。それに、待ち時間の間に顔を広げてこられた方が効率がよろしいかと。」
「なるほど。では、セバスには悪いですが、お願いしてもよろしいですか?」
「はい。畏まりました。」
セバスと別れてカルロスと2人で2階のカフェスペースへ向かうとこちらも商人達が休憩のために利用しており、商談などではなく、くつろいだ様子で談笑したり、お茶を楽しんだりしており、フィナも空いてる席に座り、カルロスにも座るように言い、2人で紅茶を注文して、2階のテラスから1階の様子を眺めていると、1人の商人が近づいてきて。
「突然で失礼ですが、もしかして、リバーサイド侯爵令嬢様では御座いませんか?」
「はいそうですが、正確には、もう侯爵令嬢ではありません。」
「え!?」
「詳しい話はそちらの席にお座りになって、お聞き下さいませ。」
「は、はあ。あ、私の事、覚えていらっしゃいませんか?」
商人はロッド紡績商会の会頭、ロッド・ハリソンと名乗り、以前に私と会ったと話し。
「ロッド紡績商会...確か、昔にドレスを作ったときにロッド紡績商会の生地を使ったことがあったと思います。ですが、失礼ながらお顔までは...」
「いえいえ、あの時は仕事の奪い合いでたくさんの生地屋が集まっていましたから、覚えていらっしゃらなくて当然ですよ。ですが、商品を覚えてもらえていて良かったですよ。」
「そうです。確か、あの後、今後も生地の納入をお願いしようとしたら、既に他国へ拠点を移された後で、残念だったのです!今もあの時のドレスは記念に残しているのですよ!」
「それは!とても嬉しいですね!そんなに気に入って頂けたのなら、何時でもお呼びください!このタンデヴィシュ皇国に骨を埋めるつもりなので!それに、あの時のお代で、何とかタンデヴィシュ皇国へ拠点を移せましたので!」
「まあ!でも、残念ながらそんなに利用できそうにはありません。」
「どうしてですか?先程も侯爵令嬢では無いと仰られていましたし、それに、何故、お嬢様がわざわざ、タンデヴィシュ皇国の商人ギルドに?」
「実は.....」
ロッドに没落したことや商人としてやり直すために皇国へ移住し、商人ギルドに登録して商売を始めることを話した。
「なんと!それは大変でしたでしょう。お力になれることがあれば、何でも言ってください。何時でも力を貸しますから。」
「ありがとうございます。」
その後も談笑を続け、カルロスがそろそろ登録の順番が回ってくると声をかけ、ロッドと別れて、登録カウンターへと向かい。
「商人ギルドへの登録手続きをお願いします。」
「畏まりました。では、こちらの書類へ記入をお願いします。」
渡された書類には、名前、年齢、性別、種族、活動内容、経歴などを書く場所があり、書類の裏には規定などが書かれている。
商会の開設手続きは別のようで、今は商人ギルドへは個人で商売を行うつもりなので、商会の開設手続きは行わなかった。
そして、商人登録手続き用の申請用紙に、お爺様からもらった印璽と別に、普段から使う家紋の印璽を申請用紙に蝋を垂らして、印を押して提出すると、カウンターの受付の女性が固まってしまい。
「あ、ああの!も、もしかして、リバーサイドとはあの『ゴールドリバー』のリバーサイド家ですか!?」
受付の女性の驚愕の声に周りの商人やギルド員も固まり、ギルドが静寂に包まれてしまい。
「はい。そうです。手続きは完了ですか?」
「あ、は、はい!こちらが商人ギルドの会員証となります。再発行は致しかねますので、お気をつけください!」
「わかりました。ありがとうございます。」
静まり返った商人ギルドを後にして、宿屋へ戻る。
そして、その日のうちに王都中の商人に、『あのゴールドリバーが帰ってきた。』という噂が広まり、多くの商人が食い潰されないようにどうするべきか頭を悩ました。