石油確保!
「ーー以上が、石油に関する報告です。」
今、目の前で石油に関する事を報告し終えた青年は、ビルツハイム伯爵の三男のセボン・ビルツハイムです。彼は、リバーサイド鉱業商会の新規事業開拓の責任者で、自力で築いた人脈をフルに使い、多くの事業を支えてくれる優秀な社員です。
「わかりました。では、現地での事業は冒険者のアルさんと、当商会の者が共同で行って、進めていくのですね。」
「はい。コスタ国に詳しい者を集めて、人選は終えましたので、後は会頭の命令書を頂くだけです。」
「わかりました。後で用意しておきます。」
「はい。お願いします。では、失礼いたします。」
青年が執務室を出ていくと、フィナは椅子の背にもたれ掛かり、「ふぅ~」と息を吐き出すと、天井をしばらく眺めてから、机へと視線を戻す。
石油の確保は出来ましたから、後は精製工場の建設と重油エンジンの開発、石油から生まれる他の製品の考案、輸送方法の計画ですか...やることが多いですね。またセボンさんに任せようかな。それか、アルさんみたいに外部に任せてもいいかな。
そんな事を考えてる時も、石油の生産計画は貴族子弟の社員を中心に貴族達へと情報が流れ、翌日には誘致の誘いに商会前へ貴族達が押し寄せてくるとは、この時は思いもしなかった。
「はぁ...疲れました.....」
「お疲れ様です。お嬢様。」
「皆さん、利益が欲しいのは分かりますが、あそこまで必死だと凄く困りますね...」
実際、商会の1階の受付には貴族達が朝から大挙して押し寄せ、混沌とした状況になっていた。
しかし、実は既に石油関連の工場や重油エンジンの工場の建設予定地は決定しており、貴族達へ説明して納得してもらうのに4時間ほど掛かった。
因みに、石油の精製工場はコスタ国の湾岸地区と、タンデヴィシュ皇国より南のシガルタ王国の東に位置する獣人の国である『クルメール王国』に建設予定となっている。
コスタ国とは今後、石油による大規模な貿易路が生まれる為、コスタ国の政府と相談した結果、工場を設置して、石油の供給販売を依頼された。
クルメール王国に関しては大陸を横断する運河の南の外洋に繋がる始点のため、原油をクルメール王国で精製して、タンデヴィシュ皇国に輸送した方が良いためでる。
他にも運河を航行する船舶数が増えすぎてるため、なるべく運河の船舶交通量を増やさないようにする対策という面もある。
「現状の運河の許容量では一杯ですし、何か考えないといけませんね。」
「お~い、フィナよ。今、少しよいか?」
「どうぞ、お爺様。」
「仕事中にすまんな。実は、ワックナー公爵と先程、公爵邸で話してたのだが、運河が限界を迎えて、近いうちに皇帝陛下の勅命で規制するそうだ。」
え!?規制されると不味いです!皇室にコネなんてありませんから、確実に規制の影響を受けちゃう!
「まあ、そんな死にそうな顔をせんでよい。ちゃんと、対策は立ててある。」
「本当ですか?どんな対策でしょうか?」
「それはなーー」
得意げに話し始めた元侯爵の老人が提案した策は、前代未聞の大規模な事業であった。




