お買い物
翌日、朝から王都の高級店が並ぶ貴族街にやって来ており、今日の買い物メンバーは、私とお爺様、マリアとカルロスだ。
まずは、仕立て屋さんで採寸をし、店主にこっそりと「胸に詰め物を入れておきますか?」と聞かれて、赤くなりながら、「お願いします...」と頼むという罰ゲームをし、次に装飾品を買うために宝石店に入り、マリアとたくさんの装飾品を見比べながら購入した。
最後に今日一番の買い物である家を買いに、不動産屋さんを訪れた。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用事で御座いましょうか。」
上質な服に身を包んだ人当たりの良さそうな商人が現れ、家を探していることを告げた。
「それならば色んな物件が揃っていますよ。どれくらいの規模が欲しいですか?」
「人を招いてパーティーをすることもあると思うので、大きな部屋や控え室があって、地下に倉庫があると助かります。後は住み込みの使用人達の部屋があったり、パーティーのできる庭があっても良いかもしれません。」
「なるほど、なるほど。では、かなり大きな屋敷が必要となりますな。今、その条件に該当する屋敷は少なくて、この3件になります。」
屋敷の情報が書かれた紙が3枚並べられ、どんな設備があるとか、いつ作られたのか、誰が住んでいたのか、値段はいくらなのか等、びっしりと書かれていた。
「物件数も少ないですし、ここからそう遠くありませんから、3件共、ご覧になってみますか?」
「はい。是非、お願いします。」
不動産屋が用意した馬車で物件に向かうと、とても大きなレンガ造りの屋敷で、見た感じは最近まで使われていた様子で、直ぐにでも住めそうな感じがする。
「こちらの物件はワックナー公爵様の親戚の方が最近まで使われていたお屋敷で、中には家具や生活に必要なものは全て残っていますので、オススメで御座います!」
まさかの知り合いの親戚が住んでいた家と聞いて、安心して中に入ると、生活感が残っており、確かにすぐ住めそうなのだが、何だか屋敷の中はヒンヤリとしていて、空気もどことなく重く感じて、嫌な予感がしてくる。
「あ、あの、この屋敷を手放した理由はわかりますか?」
「えっとですね。何でも継承権の問題で前のご当主様と子供達が揉めて、刃傷沙汰になってしまって、全員亡くなったそうです。さらに、使用人を普段から地下に監禁して殺してしまったりと中々に問題が多かったようですね~、まあ、不動産屋としてはよくある話なので、お気になさらず。」
とんでもない事実を笑顔で暴露しといて、お気になさらずとはなんですか!?無理ですよ!無理!すぐ出ます!
その次に案内された屋敷も似たような理由で売られたそうで、幽霊が出るという。それも、殺されたメイドが包丁を持って、歩き回るそうだ...撤収!撤収!死ぬ!死んじゃう!
「ここが条件に合う最後の屋敷です。いや、屋敷というか離宮と言いますか。」
そこに建っていたのは、真っ白な高価な石材をたっぷりと使った屋敷どころか離宮くらい大きな建物で、見るからに立派だとわかる。ここまで大きいと公爵家でも簡単には手が出せない。
「こ、今度は殺人とか幽霊はないですよね!?」
「はい。こちらはタンデヴィシュ皇国の先々代皇帝陛下の王弟殿下がお作りになられた白玉宮という離宮になります。経緯としては、作ったはいいものの、お金がかかりすぎたため、管理できず、未使用のまま放置するしかなかったという感じです。」
ようするに、タンデヴィシュ皇国ほどの大国が持て余したため、売りに出てると...経費が気になる!
「え、えっと、部屋数はどれくらいですか?」
「約3000部屋御座います。舞踏会場が10ヶ所、庭園が30ヶ所、使用人棟が20棟です。」
もはや、屋敷でも離宮でもないよ!もう、ちょっとした町だよ!
「そ、それで、お値段は?」
「はい。白金貨1枚となります。」
「え!?こんなに規模が大きいのに1枚ですか!?」
「ええ。本当はこの100倍はかかるようですが、売れないので、値崩れしてしまって。でも、あの資産家のリバーサイド家のお方なら維持も出来るのでは?」
「ま、まあ、できる気がしますね。それはそれで異常ですが。」
「まあ、リバーサイド家ですから、私は納得できますよ?」
その後は広大な離宮を見学し、頑丈に作られているお陰か、掃除さえすれば住めそうな様子だった。ただ、とんでもない人数の使用人が必要だが。
いざとなれば、離宮の一部を使用して、少しずつ使用区画を広げるという方法があるので、購入することにした。
なにより、ここ以外だと曰くつきなので、買いたくなかった。
とんでもないものを買ってしまったが、後悔はしていない!いや、少しはしています。