誘致争奪戦
「フィナ嬢!再考をしてくだされ!私は納得できん!」
「ワックナー公爵様!これは妥当な案です!それに、ワックナー公爵領には新技術の工場を建てるとフィナ嬢は仰ってるではありませんか!」
「喧しい!若造がしゃしゃり出るではない!」
現在、リバーサイド鉱業商会の会議室で揉めているのはワックナー公爵とビルツハイム伯爵で、その2人の口喧嘩をうんざりしつつも営業スマイルで聞いているのがリバーサイド鉱業商会会頭のフィナ・リバーサイドである。
何故、こうなったのかと言うと、ワックナー公爵とビルツハイム伯爵がそれぞれ、「新たな工場を我が領に!」と誘致合戦し始めたのが発端で、結果的には良質な石炭が採れ、輸送にあまりコストのかからないビルツハイム伯爵領が選ばれ、そこからワックナー公爵領への運搬を行うことになったのだが、それがワックナー公爵は気に入らないようで、商会に苦情を言いに来たのだが、商会で働くビルツハイム伯爵の三男がビルツハイム伯爵にこの事を知らせたようで、ビルツハイム伯爵までもが商会にやって来て、ワックナー公爵と揉め始めてしまったのだ。
「お二方とも落ち着いてください。もう一度、ご説明致しますので。」
それからも長時間口喧嘩をして、疲れ始めた頃に双方とも矛先を納め、説明できる状況になり。
「まず、ビルツハイム伯爵領にコークスの製造工場を作る理由ですが、良質な石炭が安定して大量に供給してもらえるからと言うことと、運河に面していて、十分な大きさの港があるからです。それに、ワックナー公爵領とも距離が近いので、問題ないと思ったので、今回はビルツハイム伯爵領に作ることにしたのです。」
「それならば、我が公爵領の方が港も大きく、大規模な工業地区があるではないか。石炭もビルツハイム伯爵領から持ってこれる上に、もっと北にある炭坑からも仕入れられる。」
「それもそうなのですが、コークスの製造工場を作ると、ワックナー公爵領付近の運河に船が集まりすぎて、逆に不便になってしまいます。なので、今回は広い土地が確保でき、良質な石炭を安定して大量に供給出来るという条件を満たしているのが、ビルツハイム伯爵領なのです。」
「なるほど。運河の渋滞か。それは考えていなかったな。」
「それに、今後、ワックナー公爵領には軽油エンジンの製造工場を作って、一大拠点とさせて頂く予定なので、周りの工場にも軽油エンジンの工場が建った方が、部品の発注などの仕事が出来て、良いかと思います。」
「ほう。ところで、軽油エンジンとは?」
「現在、コークスを作るときに出る副産物に軽油がありますが、今のところ、ランプ用の油としてしか使っていません。そこで、軽油を使ったエンジンを今、開発しています。蒸気エンジンより小型でパワーもあるので、今後、蒸気エンジンにとって代わる新たな動力源です。」
「「おお!!」」
ワックナー公爵とビルツハイム伯爵が2人とも軽油エンジンに食い付き、『是非、今後の開発状況を定期的に知らせてほしい!』と言われ、軽油エンジンの活用方法について3人で話し合った後、2人の貴族はホクホク顔で帰っていった。
「疲れましたわ...」
そして、会議室で燃え尽きた令嬢が1人、出来上がっていた。