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短編集

対の聖女なんてなりたくありません

作者: 樹 泉



 カナリア・シュベーン、私は所謂転生者です。


 転生して気付いた此方の世界は所謂中世ヨーロッパ風の世界で、剣あり魔法ありのファンタジー世界でした。

 私が周りと少し違う事に気付いたのは幼子の時。

 両親に視界の端にチラチラ映るカラフルな光の玉は何か? と聞いた時です。

 両親は舌っ足らずな私の言葉を聞き、戸惑いつつも「そんな物はいないよ」と教えてくれました。

 私はこの言葉を聞き世間一般では見られないものなのだと気付きました。ならば秘密にした方が良いと判断したのです。

 一応私の見間違いでないかとも考えましたし、幻覚を見ているのではないかとも考えましたが、カラフルな光達は明確な意思を持ち私に語りかけて来るのです。

 それに、幻覚では私の部屋を焦がしたりなどは出来ません。


 私は幽霊でも見ているのかと考えましたが、前世では霊感があった訳でもないので判断できません。

 成長するに従いカラフルな光が精霊であると本人(精霊)から聞きました。

 精霊を見る事のできる目を精霊(せいれい)(がん)と呼び、国の中枢や教会の神殿で囲っているそうです。

 更に精霊の声を聞ける者を〝対の聖女〟として教会が探している事を聞き、私は対策を練りました。

 えっ? 聖女にならないのか? ですか。なる訳ないじゃないですか。対の聖女と言ったら王族のお姫様から選ばれる聖女様の対ですよ。そんな七面倒くさい者になる訳ないじゃないですか。チェンジして下さい。

 それでですね、対策というのは精霊達とゲームをしているのです。私が精霊の姿や声を聞こえるのがバレたら負けというルールです。精霊は面白い事や楽しい事が大好きですし、負けず嫌いの者が多いのです。その為この遊びは大変楽しくやってくれています。


 何で私がこんな事を思い返しているかというと、この国には王族・貴族・平民が一緒に学べる学園があるのです。

 前世の分の知識と精霊達の話す知識を吸収した私は平民の学校から推薦を受けてタリスマン国立学園に入学することができました。

 何と学費は平民の場合ただなのです。平民からも学ある者を増やそうという何代か前の国王様の政策のたまものです。

 しかし、学費を払うのが貴族である為か、少なからず平民を見下す貴族が居るのです。その為私はテストでも目立たない様に点数を調整しています。間違って有力貴族より良い点数を取ると絡まれるからです。

 それを学び平民はテストの点数を落として行きます。平民の中で上位の点を取れるのは絡んで来る貴族を気にしない図太さか、大商人の子供位でしょう。生憎私にはそんな物はありません。


 そして、学園に来て一年が過ぎたある日のことです。私は学園のヒエラルキーのトップの王子様から呼び出しを受けたのです。生徒会室に。

 は!? 何で私が? と心の中は荒れに荒れましたが向かわない訳にはいかないでしょう。ああ、私は清く正しく地味に過ごして来たはずなのに。


 生徒会室に居たのは生徒会長であられる第三王子アレックス・フォン・タリスマン様と直ぐ下の妹姫で王族からの聖女様である第二王女マリアベル・フォン・タリスマン様。

 副会長のクリスタル公爵家次男のエリック・フォン・クリスタル様、会計であられるクオーツ侯爵家の三男アルフレット・フォン・クオーツ様

 他に良く生徒指導室や生徒会に呼び出される所謂不良のルチル侯爵家四男のカラナック・フォン・ルチル様、同じく不良のアオライト伯爵家次男のドーベル・フォン・アオライト様が揃っていました。


 え? 何ここ、王族貴族の見本市ですか?

 私が動揺して固まっていると王女様微笑み、私の席を指し示してくれた。

 キレー、眼福である。というか種類こそ違えど、貴族には美形が多いのでキラキラしくて私の目が潰れます。

 アレックス王子はザ・王子様ってオーラを纏った金髪碧眼の正統派イケメンであるし、マリアベル様は同じ金髪碧眼だが流れる様な髪に木漏れ日の様な緑系の瞳の美人さん。

 エリック様は王族の血が流れているだけあり煌めく金髪に純度の高いアメジストの様に濃い紫色の瞳、アルフレット様は短めの白金の髪に緑の瞳のがっしりした方。

 不良とは言ったが二人は腐っても貴族。カラナック様は灰色の髪に鋭い青い瞳の少年だし、ドーベル様は青い髪に灰色の瞳の無気力系のフワフワしたイケメンです。

 こんな中で一人平民出身のどこにでもいる茶髪茶眼の小娘が一人、場違いも良い所だ。




「カナリア・シュベーン良く来た。カナリアが座った所で本題だ。本日未明に学園の宝が紛失した。お前達覚えはないか?」


「はっ、そんな物知る訳ねーだろ。そんな事より何で平民が呼ばれてるんだよ」


 いきなり私のフルネームを呼んだアレックス様にカラナック様が咬みついた。え? 王子様にそんな態度で良いの?

 確かに私って何で呼ばれたの? この学園の宝って? 王族の通う学園だものそれなりの宝はあると思うけど。私が疑問符をこれでもかと浮かべているとアレックス様はよく通る声で答えてくれた。


「ああ、カナリアに関してはマリアベルの占いの結果だ。この件に関してカナリアが居た方が良いと出た」


 そうですか、納得です。ってなる訳ないじゃないですか!


【宝は年月を経て精霊化しただけよ。実体を持ったから自分で移動しただけなの。あっちを見て御覧】


 年月を経て実体化って付喪神ですか!?

 私は故意に散らしていた目に魔力を集め精霊を探します。

 小さい頃どうしても精霊に反応してしまうので、精霊を見ない様に出来ないか考えた結果、目に集まる魔力を分散すると精霊を見なくなりました。

 それを利用して普段は精霊を見ない様にしていたのです。

 目に魔力を戻すと子供サイズの精霊が窓の方を指していました。

 え? 猫?

 窓の所から室内を見ていたのは紫色の毛並みの猫でした。


【あの猫が宝よ】


 精霊の言葉に猫を捕まえようかと思いましたが、今私が動くのは不自然過ぎます。

 カタリと音がなり、その方向を見るとエリック様が席を立った所でした。

 エリック様が窓を開けると猫が室内に入って来て、私の元にやって来ました。

 猫を抱き上げると首輪がぴったりとはまっていました。


「その宝珠は!? カナリアその猫を渡してくれ!」


 アレックス様の言葉に私は猫を渡しました。

 フシャー!!

 アレックス様の手を猫が叩き落とし、私の元に戻って来る。

 猫の暴挙に驚く皆様。こう言ってはなんだがカラナック様とドーベル様まで反応するとは意外だ。


【クスクス。その少年達は王子様のお仲間よ】


 え? アレックス様達がカラナック様やドーベル様達を叱咤する姿はよく見かけるわよ? あ! そうか、余りに見かけすぎるんだ。まるで見せつけている様に。

 なるほどね、もしアレックス様達に反抗する様な勢力があった場合カラナック様やドーベル様の元に行くわよね。貴族って怖い。


「カナリア、その猫は君の猫か?」


「いいえ、違います」


 この猫が精霊化した宝なら、結構な力を持った宝なのかもしれない。

 産まれたての精霊は力が弱く一般的に目視する事は出来ない。目視できるようになるにはそれなりの力、魔力が必要だもの。


「その猫が首にかけているのは学園の宝だ。カナリア、君が盗ったのか?」


「ち、違います。私ではありません」


 じっと見つめて来るアレックス様に私は身が竦む思いがした。


「待って下さい、アレックス」


 そう言ってアレックス様と私の間に立ってくれたのはエリック様だった。

 私は少し息を吐くと身体の力を抜く。


「その猫、精霊ですよ。学園の宝はかなり魔力を持っていましたから精霊化してもおかしくありません。……しかし、その猫の精霊の居場所を教えたのは別の精霊でした。カナリア、貴女は精霊眼を持っていますね」


「……!」


 何で私が精霊眼を持っている事を? いえ、精霊が教えてくれた様に窓を見たのだから同じ精霊眼を持った人には分かるかも。もしかしてエリック様は……!


「そう、君と同じ精霊眼を私も持っているんだ。君には注目していたんだよ、精霊達が随分君の周りに群がている。これは何でかな?」


「……確かに私は精霊眼を所持しています。精霊達は見える私にかまって欲しかっただけでは?」


 精霊眼を持っている事がバレただけ。対の聖女とはバレていない。何とか誤魔化さないと。


「私も精霊眼を持っているから言える事だけど、見えるだけじゃ君ほど精霊は集まって来ないよ。もしかして声も聞こえているんじゃない?」


「何の事ですか? 私には分かりませんが」


 精霊の声って聞こえる物なんですか? と首を傾げるとエリック様は艶やかに笑って見せた。


「精霊眼持ちは皆自己申告するものだと思ったけど。それなのに申告が無かったって事は何かを隠していたんじゃないのかな? それにさっき精霊が指を指すより先に君は窓の方を向いていたよ」


「っ! そ、そんな事ありません。精霊が指を指したから私は窓を見たのです」


「そうだったかな? ああ、そうだ。今まで対の聖女が誰か見当が着いていなかったから占えなかっただけで、今なら貴女が対の聖女かどうか占えば良いだけです。そうですよねマリアベル様」


「っ!?」


 私はエリック様のその言葉に身体を強張らせながらマリアベル様を見た。


「……ええ。今占えば真偽がはっきりするわ。だからそこまでその子を追い詰めないの。ねえ、カナリアはそんなに聖女になるのが嫌だったの? もう、直ぐに分かる事だから本当の事を言ってちょうだい」


「……わ、私は、聖女とかそんな事は分かりません。一般市民ですもの。でも貴族や王族の中に入って行きたくはありません」


 そうだ、何故人間が対の聖女を探すのか調べた事はない。世間一般の知識として世を安寧に導くという事だけを知っている。

 もし調べて名乗り出ない事の方が罪だと知りたくなかったから。


「平民の貴女がわたくし達を怖がるのは分からないでもないわ。でも何故対の聖女だと思っているの? 王侯貴族への対応はわたくしがする為に王族から聖女が選ばれるのよ。勿論占い能力がある事が最低条件だけれど。精霊の話を聞ける者は一人だけなのよ」


「でも不思議ですね。精霊眼を持っている事すら分かっていなかったとは。普通精霊が見える事は親が気付く物ではないでしょうか?」


「確かにな。まさか、親ぐるみで隠していたのか?」


 マリアベル様の言葉の後にエリック様が意地悪く言葉を繋げ、アレックス様が疑問を持つ。


「両親は私に精霊眼がある事は知りません。隠していましたから」


「それでも普通気付きませんか? 精霊が悪戯してきたりするのですから」


 何故この人はこんなに意地が悪いのだろう。所謂腹黒って奴か。


「目に集まっている魔力を分散させると見えなくなるんです。私は普段そうして過ごしていますから」


『!?』


 私の言葉に部屋に居る皆様が驚いた気がした。


「精霊を見える事は祝福されど忌避される事はありません。それを見えなくする人が居るとは思いませんでした」


 エリック様の言葉に私はグッと言葉に詰まった。

 精霊達も私が見えなくなるのは余り面白くないのか良く話しかけて来る。


【余りカナリアを虐めないで頂戴、貴方も私達が見えているのでしょう】


 私の前に私を守る様に腕を広げてエリック様を睨む精霊が立ってくれている。


「……。精霊に止められては仕方ありませんね。それにしても良く今まで隠していた物です。国と教会総出で探していたのですよ」


 エリック様は溜息を吐いて私への追及を止めた。


「まあ、父上には俺から話しておく。それより学園の宝は如何する」


「そこはカナリアに戻ってもらう様に説得してもらってわ? あれだけ懐いているのですし」


 アレックス様の言葉にマリアベル様が案を言う。


「精霊さん元の部屋に戻ってくれる?」


 私がそう聞くと猫型の精霊は「ニャー」と鳴くと扉をカリカリと掻き出した。


「私は対の聖女が見つかった事を各部署に伝えて参ります」


 爽やかに言いきったエリック様を見て私はこの人は嫌いだと思った。

 ああ、それにしても対の聖女になんてなりたくなかった。


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