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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

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第68話 プロ見習いは怒りを殺す


 メインスタイルである《ブロークングングニル》で敗北を喫したプラムは、その後、ケージに為す術もなく敗北した――

 試合後、ステージ上でのインタビューで、ケージはこう語った。


「あー……作戦考えてくれた奴がいて……今回勝てたのは、そいつのおかげだと思います」




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 そのインタビューを聞いたその瞬間、会場の隅にいたミナハの脳裏に閃光が走った。


「マリミネ―――真理峰―――真理峰(まりみね)(さくら)!」


 ミナハは、その名前を知っていた。

 それは、大昔にほんの一瞬だけ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で話題をさらった人物の名前だった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 観客席を離れたオレと森果は、ひと気のない廊下でプラムを出迎えた。

 とぼとぼとした足取りでゆっくり歩いていたプラムは、オレの顔を見るなり、にへらと笑う。


「ああ、ジンケさん……ごめんなさい」


 そして、表情を笑みの形にしたままに――

 ぽろぽろと、黒縁眼鏡の内側で、涙をこぼし始めるのだ。


「…………3回戦、いけませんでした…………」


 浮かべた笑みは、きっと自衛だ。

 ならば溢れた涙は、それでも守りきれなかった彼女の心の傷。

 それは、プラムが全力で闘った証だった……。


「……森果」


「うん」


「これは……浮気じゃ、ないよな?」


 森果は無言で頷いた。

 それを確認してから、オレはゆっくりと、泣きじゃくるプラムの背中をさすってやった……。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




 ひとしきり泣いて、プラムが落ち着き始めたところで、オレはいったんその場を森果に任せた。

 あれだけ泣いたら喉も乾くだろう。

 飲み物を買ってやるべく、自動販売機を探して館内を歩き始めた。


「……仇、取ってやらねーとな」


 プラムを下したケージの3回戦の相手は、このオレだ。

 しかし、あのスタイル……。

 実況解説は《オールラウンダー》と呼んでいたが、そのうちコノメタは、きっとわかっていたんだろう。


《ブロークングングニル》狙い撃ちのステータスビルド。

 いや――あれは、特定のスタイルを狙っているわけじゃない。

 人間だ。

 狙われたのは、《ブロークングングニル》というスタイルではなく、プラムというプレイヤーなのだ。


 作戦を考えた奴が別にいる。

 ケージはそう語っていた。

 そう――ケージ自身のプレイスタイルと使っているスタイルの印象にちぐはぐさを感じたのは、なんてことはない、スタイルを作ったのは別人だったから。


 ブレインがいるのだ。

 それも、冗談みたいに優秀な。


 そのブレインは、この《RISE》本戦という戦場でケージと互角に闘いうる人間はほんの一握りだと判断した。

 だからそれ以外の対策は最初から捨て、敗北の可能性があるプレイヤーのみに的を絞ったのだ。


 そしてプラムは、その的に含まれていた。

 おそらく彼女の直近の成績から要注意とされたんだろう。

 8月ランク戦での1位争いに、予選での全勝対決――プラムには警戒されてもおかしくない要素がごまんとある。

 それら過去の試合から、《ブロークングングニル》がプラムのメインスタイルだと判断したそいつは、そのスタイルをピンポイントで潰しに行った。

 それも、いざそのときになるまで、誰にも悟られないようにして……。


 ……ならば、当然。

 予選でプラムに勝ったオレも、警戒対象に入っているはずだ。

《ブロークングングニル》を仮想敵とした耐久調整は、オレ相手でも通用する。

 ケージが晒したスタイルは未だに一つきり。

 残りの二つで、《トラップモンク》もメタられている可能性は充分にある――


 ならば、だ。

《トラップモンク》がメタられているとして、どんな手段を使ってくるんだ?

 サタがやったように《バインドプリースト》か。

 それとも……?


「……くそっ」


 思考が止まった。

 わからない。

 読み切れなかった。

 なんなんだ……ケージの後ろにいるこいつは。

 こんな奴、一体どこから出てきたんだ……?


 思考を走らせながら館内を歩き回っていると、ようやく自動販売機を発見した。

 とにかく、プラムに飲み物を持っていってやろう。

 二つ並んだ自販機のうち、片方に小銭を入れた。

 紅茶がいいって言ってたっけ。

 オレはどうしようかな……。


 並んだジュースを眺めて悩んでいると、隣の自販機に誰かが来た。

 何気なくその顔を覗き見て、オレはぎょっとする。


 ケージだった。

 間違いない――ついさっき、ステージでインタビューを受けていたのと同じ顔!


 ケージは平然とした顔で自販機に小銭を入れ、カフェオレと緑茶のボタンをぽちりと押した。

 オレに気付いていないのか……それか……。


 取り出し口からカフェオレと緑茶を取ったケージが、そのまま去っていきそうな風だったので、オレは慌てて呼び止める。


「……ケージさんですよね」


「はっ?」


 ケージは驚いた様子で振り返り、初めてオレを見た。

 と思ったら、その目があっちこっちに泳ぐ。


「えー……あー……俺のこと?」


「他に誰がいるんですか」


 面識があるわけでもないので、慣れない敬語を使っていた。

 ちょっとたどたどしい。

 だが、ケージがオレ以上に挙動不審だったので、敬語のたどたどしさなんてどうでもいいように思えた。


 向こうから話を進めてくれそうに思えなかったので、オレのほうからぐんぐん進めていくことにする。

 これはチャンスかもしれない。

 まさか戦略に関わることをぺらぺら喋ってはくれないだろうが、とりあえず当たり障りのなさそうな話題から始めてみよう。


「ケージさんって、今まで対人戦の大会には出てませんでしたよね。どうして今回、いきなり出ようと思ったんですか?」


 オレに限らず、誰もが気になっていることだろう。

 ケージも不審に思った感じはなく、「え、あー……」と目を逸らしながら答えてくれた。


「……友達に言われて仕方なく」


「友達に言われて……?」


「そいつ、なんか知らんけど、勝手に俺のエゴサーチしたらしくて……それで見ちまったらしい。どこの誰とも知らん奴が、『ケージなんて対人戦なら大したことない』みたいに言ってるのをさ。……だから、見返してやれってさ。そういう奴って、自分の言ったこと2秒で忘れてると思うんだけどな、俺は……」


 ……そんな理由だったのか。

 プロ化を賭けてるオレとは大違いだ。

 まあ……そんなもん賭けてるのはオレくらいだけど。


「……対人は苦手だったんだけどさ」


 はあ?

 と、オレが口を滑らせる前に、ケージは淡く笑みを滲ませながら続ける。


「でも、やってるうちに楽しくなってきて……久しぶりだったな、練習とかしたの」


 ……久しぶりだって?

 練習が?

 苦手だって?

 対人戦が?


「……それで、よく勝てますね」


「ん、ああ……作戦立てたのはその友達だし……どうせなら行けるところまで行きたいし……まあ、目的は達成されたと思うから、()()()()()()()()()()()()()()()


 その瞬間――

 頭の中が、熱を持った。


 ―――何ヘラヘラしてんだよ。


 走り出した熱は、もはや止まらない。


 ―――プラムはあんたに負けて泣いてんだぞ。

 ―――なのに、勝ったあんたが、どうして負けてもいいなんて言うんだよ!?

 ―――勝ち誇れよ! 喜べよ! プラムが泣いた分、あんたは喜ばなきゃダメだろうがッ!!


 こらえる。

 押し込む。

 この怒りは理不尽だと、自分でもわかっていた。

 プラムは泣いたんだから、相手も同じくらい本気になれって?

 そんなのはこっちの都合だ。

 こいつには関係ない。

 わかってる。

 わかってるよ……!!


 オレはケージから視線を切って、自販機のボタンを適当に押した。

 取り出し口に落ちてきたジュースを引っ張り出してから――オレは改めて、ケージの顔を見た。


「……あとひとつ、質問いいですか」


「……?」


「オレのこと、知ってますか」


 ケージは――眉間にしわを寄せた。


「……ええっと……」


 ああそう。


「……わかりました。それじゃ」


「あ、おい……」


 オレは背を向けて、ケージから離れていく。

 強豪プレイヤー対策を担当しているのは、あいつの『友達』とやらだ。

 だから、と言うことだってできる。

 でも。

 それでも。


 同じ成績で予選を通過した奴の顔くらい覚えとけ、と思うのは、オレのわがままなのか?


 手の中に、1回戦で倒したプロゲーマー・レバや、2回戦で倒したサタと交わした握手の感触が蘇った。


「……くそっ!」


 オレはそれを拳に握りしめて、横の壁に叩きつけた。



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