第66話 プロ見習いは待っている
●クラス
《拳闘士》
(補正内訳:
MP↓
STR↑↑↑
VIT↑↑
AGI↑↑↑
MAT↓
MDF↓)
●ステータス(ポイント)
HP:403(3)
MP:240(7)
STR:936(440)
VIT:480(130)
AGI:1001(500)
DEX:286(0)
MAT:252(0)
MDF:234(0)
●スキル構成
《拳闘》
《直感》
《手負いの獣》(2枠)
《魔力武装》
《受け流し》
《虎に翼》
ミナハは、会場の隅でほくそ笑んでいた。
彼女が掛けている眼鏡――バーチャルギアのレンズには、今しがた公開されたジンケのスタイル情報が表示されている。
「《手負いの獣》……」
《拳闘士》クラスのスペシャリストであるミナハをして見たことのない、まったくの新たなスキル。
その効果は、HPが4分の1以下のときに、STRとAGIに1.5倍もの補正をかけるというものだった。
まさに肉を切らせて骨を断つ。
どれだけ追いつめられても、必ずその牙を、爪を敵の喉元に食い込ませる……命の灯火が消えるその瞬間まで、決して潰えることのない戦意……それを象徴するような力。
「……ツルギ……」
ミナハの唇から、熱い吐息が漏れた。
ドキドキと胸が高鳴って止まらない。
帰ってきた、と彼女は感じていた。
帰ってきたのだ。
かつて憧れた彼が――《JINK》が!
「―――ま、HPを4分の1以下にしないよう気を付ければいいだけですね」
怒涛のような感情に打ち震えていたミナハに冷や水をぶっかけるような言葉が、横合いから飛んできた。
殺意すら籠もった視線で声の方向を睨んだミナハだったが、その言葉は彼女に向けられたものではなかった。
「いいだけですね、って……簡単に言うけどお前、結構めんどくさいぞ、それって」
「先輩ならできるでしょう?」
「できないとは言ってないだろ?」
「ならやってください」
「なに目線の命令だよ」
「軍師目線です!」
少し離れた場所で、一組の男女がギアに映した情報を見ながら話している。
(あれって……)
男女のうち、男のほうには見覚えがあった。
ケージ。
ジンケと並んで、この《RISE》MAO部門の優勝候補とされている一人だ。
MAOでも最も有名なプレイヤーであり、PvEでは最強の呼び声も高い……。
(なら、もう一人の女の子がチェリー?)
ケージはチェリーという女性プレイヤーと一緒に行動していることが多いと聞いていた。
改めて見てみると、嫉妬する気も湧かないくらい容姿の整った女の子だ。
ファッションも嫌味ったらしくないセンスの良さで、少し見習いたいくらい。
ケージの、言っては悪いがうだつの上がらない見かけとは、まるで対照的である。
「とにかく、ちょうどいい感じにHPを削れる攻撃の組み合わせについては、3回戦までに計算しておきます」
「了解。2回戦は?」
「変更ナシです」
「もう俺が大会出てるのかお前が出てるのかわかんねえな、マリミネ」
「先輩がナメられないようにするための闘いですよ! シャキッとしてください!」
「はいはい……」
しばらくして、ケージは会場の外に、チェリーは観客席のほうに戻っていった。
(……マリミネ?)
会話の中に出た名前に、ミナハは引っ掛かりを覚える。
聞こえた感じ、チェリーの本名なのだと思われるが――
(……マリミネ……まりみね……どこかで、聞いたことがあるような……?)
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
プラムが石像のようになっていた。
「じじじじじじじじゃあ、い、い、い、い、いってきまひゅっ!」
「行けるか。そんな有様で」
控室から出ようとするプラムは、緊張でガチガチだった。
手と足が一緒に出てるとか、そういうレベルじゃない。
どこかで転んでそのままバラバラになっちまうんじゃないかってガチガチぶりだ。
「息を吐け。思いっきり吐け」
「はあああ~~~~~~~~」
「それから吸え。限界まで吸え」
「すううう~~~~~~~~」
「からの変顔」
「ぷはっ! げほげほっげほっ!! ちょ、ちょっと、ジンケさん……!!」
「落ち着いたか?」
「ぷふっ! へ、変顔やめてっ……ぷはははっ!」
落ち着いたようだ。
緊張を解くには変顔が一番だな、うん。
「まあお前は、どうせ本番になれば大丈夫なんだろうけどな」
「本番に強いタイプに見えますか……?」
「今2回戦に行こうとしてるのがその証拠だって思うが……一応、訊いとくか。作戦はあるのか?」
オレの問いに、プラムは俯いた。
昨夜、シルの指摘によって、オレたちはケージの域に達していないことがわかった。
たった一晩で、何が変わるってわけでもない。
しかし、考えることはできる。
今すぐ強くなることはできなくても――勝つための手段を、考えることはできるのだ。
「……下手な小細工は、きっと通用しないと思います」
プラムは勝負師の顔で言った。
「最初から、全力でやります。……骨は拾ってくださいね、ジンケさん」
「馬鹿言え」
オレはあえて軽く笑ってみせる。
「3回戦で待ってるぜ」
◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆
『さあ、やって参りました! 予選Aリーグ2位通過プラム選手! VS! 予選Bリーグ1位通過ケージ選手! この試合を制したほうが、3回戦でジンケ選手と闘うことになります!』
『プラム選手が勝てば、予選Aリーグ1位決定戦の再来。ケージ選手が勝てば、A・B両リーグの1位通過者が激突することになる。見逃せないね』
『見逃せません! 両選手、ログインを終えて、闘技場に姿を現します! ……おおっと、この歓声! セントラル・アリーナが揺れるようです! プラム選手のファンでしょうか!』
『熱いファンがたくさんいるみたいだね。これはケージ選手にとってはアウェイになってしまうかな?』
『両選手、スターティング・スタイルの選択に入ります! 解説のコノメタさん、初手はどう来ると思いますか!?』
『ケージ選手は十中八九、1回戦でも使った《軽剣士》クラスのスタイル――《オールラウンダー》だろう。速度で圧倒する試合を見せておきながら、「AGIが遅すぎてやりにくかった」と言い放ったあの試合は記憶に新しい』
『対人戦では一律レベル50に自動調整されますが、ケージ選手は普段、もっと高いレベルでプレイしているわけですからね! わからなくもありませんが、あの発言にはインタビューしたわたくし自身驚いてしまいました!
では、プラム選手のほうについてはいかがでしょう!』
『プラム選手のメイン・スタイルと言えるものは、彼女自身が完成に導いた《ブロークングングニル》だ。これが彼女にとっては切り札になるだろう。敗北したスタイルは使用不可能になってしまうルールだから、これは後に取っておくかもしれないね。初戦は無難な《セルフバフ》系統で様子を見るんじゃないかな』
『なるほど! ――おっと! 話している間に、スターティング・スタイルの選択が終わったようです! 間もなく試合が開始されまーす!!』
闘技場で距離を開けて対峙する二人の姿が、選択されたスタイルのものに変わっていく。
ケージは片手剣を右手に握り――対するプラムは。
『――おおっと!? プラム選手の手に《獣王牙の槍》が現れたぁ! これは《ブロークングングニル》! プラム選手、メイン・スタイルを初手から投入してきたーっ!!』
『様子見なしでいきなり勝負に来たか……。これは、思いきったね……』
『もしやプラム選手、《ブロークングングニル》で全抜き狙いでしょうか!?』
『有り得ることだと思う。ケージ選手はセオリーから外れたスタイルを使ってくるからね……相性どうこうはもはや関係ないと見て、最も実力を発揮できるスタイルで真っ向勝負に来たのかもしれない。あとは単純に、リーチの問題で、槍は片手剣に対して有利だ』
『1回戦で6ラウンド中5ラウンドがパーフェクトという驚愕の試合を見せたケージ選手に対し、まさかの実力勝負を挑んできたか、プラム選手! 試合が開始されますっ!!』
3カウントが闘技場の上空に描画され、『0』の数字が爆発した。
同時、ケージが砂埃を残して消える。
否、そのように見えただけである――彼は1000を超えるAGIによる超スピードでもって、高速移動を開始したのだ。
単純な速度以上に、その動きの淀みなさが、観客たちの視線を振り払う。
遠い観客席からですら、目で追うのがやっとだった。
いわんや対峙するプラムをや――果たして追いきれているかどうか。
『ケージ選手、得意の超スピードで翻弄―――!! しかしッ!?』
数度の牽制ののちに間合いを詰めたケージを、プラムは槍を振り回して追い払った。
『リーチを活かした動きだ。落ち着いているね』
『プラム選手、冷静な対処です!』
幾度にも渡って攻勢に出るケージを、プラムはことごとく槍で追い返し、自分に有利な間合いを保った。
ケージの武器は、盾すら持たない片手剣。
いかに超人的なスピードをもってしても、リーチで大幅に劣る槍に対しては絶対的に不利なのである。
『ケージ選手、なかなか攻め込めません! どう出る―――!?』
実況の声が聞こえたわけでもあるまいが、ケージが不意に動きを止めた。
プラムは警戒して身構える。
考えるような間があった。
ケージは何かに納得したように浅く頷くと、再び爆発的に走り出す。
しかしその動きは、極めて直線的だった。
まっすぐ。
一直線に、プラムとの間合いを詰めてくる。
『これはぁ―――!? ケージ選手、愚直な突撃ぃぃぃ――――っ!!!』




