第59話 プロ見習いは初戦に臨む
オープニングイベントを終えたあと、少し時間があった。
オレとプラムはいったん会場を出て、森果と合流する。
「……お前、なんで鼻にティッシュ詰めてんの」
「気にひないで」
逆に男にその顔見せるの気にしねーのかと言いたくなった。
座れる場所に移動して、オープニングイベントで発表されたトーナメント表について考察を始める。
《RISE》本戦はシングル・エリミネーション・トーナメント。
要するに普通のトーナメント戦で、1回でも負けたらそこでおしまいだ。
出場者は32人。
つまり、5連勝で優勝ってことになる。
「オレとプラムは両方後半のグループか。3回戦――ベスト8で当たるな」
「勝ち上がれば、ですけどね……」
プラムは自分の名前の少し横にある名前に視線を移す。
……ケージ。
プラムがオレと3回戦で当たるためには、ケージを2回戦で破らなければならない。
「そんな終わったような顔すんなって。いずれどこかでは当たるだろ」
「でも……またジンケさんと当たったらいいなって思ってたのに……」
「……またジンケと試合でイチャつきたいの?」
森果が極寒の声で言った。
「だ、だからイチャついてなんかいませんって! イチャつくっていうのは普段のお二人みたいなのを言うんです!」
「えっ? まだプロになってねーから自重してるんだが」
「あれでですか!?」
ともあれ、オレの目標は優勝だ。
トーナメントの組み合わせがどうだろうが、全部勝つ以外の道はない―――
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『さあ! ついに始まります! 《RISE》MAO部門本戦トーナメント! 実況はわたくし、eスポーツキャスターの星空るるがお送りします! そいて解説はこの方!』
『はい、また私だ。ExPlayerS所属のプロゲーマー、コノメタだよ。どうぞよろしく』
観客席に着ていたオレたちは、解説席に座っている女を見て驚いた。
「コノメタ……あいつ、何にも言ってなかったのに……」
「コノメタさんのリアル、生で初めて見ました……」
森果は興味なさそうだった。
知ってたんだろうか。
『いやぁコノメタさん。この間の予選ではホコノ選手に来ていただきまして―――』
『……その話はナシで』
『しっつれいしましたー!』
本当にあのサムライとどういう関係だよ……。
謎が深まりつつも、試合が始まった。
後半のブロックであるオレとプラムは、それを観戦しながら今回の大会の環境を読む。
「《ダンマシ》いないな」
「予選のとき、勝率微妙だったらしいですから」
「やっぱりセルフバフ環境か……」
「安定しますし、《ブログ》相手に強いですからね」
「さすがに《トラップモンク》真似してる奴はいねーな」
「無理ですよ、あんなの……。使える気がしません。代わりに《バインドプリースト》がちょこっといるみたいですね」
「嫌だー。アレだろ。オレが旅してる間にゴッズ1位取った新型」
「ですです。殴り勝てるような形にもなってて、ちょっと《トラップモンク》風なんですよね。デバフでセルフバフも相殺できますし、試合時間が長いとはいえ行けると判断されたんだと」
「当たりたくねーなー。ここだけの話、《トラップモンク》って《バイプリ》に相性最悪なんだよ」
「あー……ほとんど動かなくていいですし、トラップあんまり意味ありませんよね……」
「ルール的に出てこねーと思ってたんだけどなあ……」
その他、《ブロークングングニル》も数を減らしているように見えた。
前回は流行ってから間もなかったから結構いたんだが、本来、あのスタイルは扱いが難しい。
近接戦闘をこなしながら、体技魔法の使用回数やMP残量にまで気を払わないといけないからな。
プレイミスを恐れてか、多くの選手が扱いの簡単なセルフバフ系統に乗り換えていた。
そして、そうなるのも多くの選手の予想するところだったようだ。
セルフバフが増えると推測して、そのメタとなるスタイルを持ち込んでいる奴が結構いる。
具体的には、《コンボツインセイバー》や《ミナハ型最速拳闘士》。
手数の多さでバフ魔法を使う間を作らせないことができるスタイルだ。
この2種類が、環境の中心と言っていいだろう。
「どうですか、ジンケさん?」
「追い風かもな」
セルフバフ環境になったことで《ブロークングングニル》へのマークが外れた。
《トラップモンク》も、苦手な《バインドプリースト》にさえ気を付ければ活躍できる。
そして3つ目。
《ビースト拳闘士》―――
「……ま、あとは見てのお楽しみだ」
そしてしばらくして、オレの試合の番がやってきた。
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控え室からステージに出た。
無数の視線と巨大な歓声。
未だかつて、リアルでこんなにも注目されたことがあっただろうか。
高揚感とも緊張感ともつかない感覚に強ばりながら、ステージの真ん中に進む。
「よろしく」
「……よろしくお願いします」
対戦相手と握手を交わした。
20代くらいの男だ。
彼は別のチームのプロゲーマーらしい。
予選はBグループで、1位こそ逃しているが、経験的には間違いなくオレよりも上―――
格上の相手、と言っても間違いじゃないだろう。
『では両選手、筐体へ!』
ステージの両端に設置された筐体の中へと入る。
中はまるでロボットか何かのコックピットだ。
暗く狭い空間の中に、改造されたリクライニングシートみたいなのが置かれている。
……懐かしいな。
ゲーセンに入り浸っていた頃は、毎日これに横たわっていた。
バーチャルギア発売以前に主流だった、フルダイブ・シートである。
オレはシートに横たわると、半円状のヘッドレストに頭を収めた。
「ふう……―――うしっ!」
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『《RISE》MAO部門本戦第1回戦第10試合! これは注目の一線です! ジンケ選手はExPlayerSの育成強化指定選手であることが明かされており、いわばプロ見習い! 対するレバ選手は、すでにプロとして活躍しているプロゲーマー! プロ見習い対プロゲーマーという構図になります!
さて、解説のコノメタさん!』
『おっ、来たね』
『来ますよ、もちろん! ジンケ選手はコノメタさんにとって後輩に当たるわけですが、交流などはあるのでしょうか?』
『もちろん。というか、彼をスカウトしたのは私だから』
『おっと! いきなり興味深い発言が飛び出しました! ジンケ選手は目立った実績などは見当たらなかったと記憶しているのですが、スカウトの理由を伺っても?』
『それは話が長くなるし、試合の解説からは外れてしまうからやめておこう。ただ、彼について話せる情報が一つだけあるよ』
『それは!?』
『彼はこの大会に、我がEPSへの正式加入を懸けている。この大会に優勝することが、彼が正式にプロになる条件だ』
『おおっとお!? まさに人生を懸けた戦いというわけですね!?』
『まあ、そう言うこともできるかな。あと、プロになったら同級生の女の子に告るらしいよ』
『まっ……眩しい! わたくし、高校生の青春に眩しさを感じる年頃になってしまいました……!
―――あーっと! 会場にひやかしの口笛が響き渡っております!』
囃し立てる観客の中で、一人の少女が何やら嬉しそうに身体をゆらゆら揺らしていたが、誰も気付くことはなかった。
『そろそろ試合の準備が整ったようです! ではコノメタさん、あちらへ参りましょうか!』
『そうしよう』
『会場の皆さん! 試合の模様はもちろんこちらでも中継致しますが、「向こう」にもお席をご用意しております! 入口でお配りしたバーチャルギアを装着し、ぜひ「生」でご観戦ください!』
星空るるが、コノメタが、会場の観客たちが、次々と眼鏡モードのバーチャルギアを装着していく。
バーチャルギアは本体と接続することで初めてフルダイブ・デバイスとなる装置であり、グラス・モードのみでは意識を仮想世界に完全没入させるほどのスペックを持たない。
しかし――フルダイブではなく、ハーフダイブならば話は別だった。
全感覚没入ではなく、視聴覚没入。
意識を現実に置いたまま、臨場感だけを最大に得る、古き良き形のVRだ。
観客たちはヘッドマウント・ディスプレイとなったバーチャルギアを通じて、超満員となった闘技場に没入していった。
ちょっと次回より週刊2話更新を試してみます。
毎週土曜日19時に2話ずつ更新していくスタイルです。
なぜかと言うと、3日ごと更新だと月を跨いだ時に更新日がわからなくなるのと、
『このシーン気合い入れないといけないけど今日疲れてるから適当にこなそう』
みたいなのを、時間に余裕を持たせることで回避するためです。
そういうわけで、次回は来週土曜日の19時、2話同時更新予定です。




