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オフライン最強の第六闘神 <伝説の格ゲーマー、VRMMOで再び最強を目指す>  作者: 紙城境介
《RISE》激戦編――最強こそが試される

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第51話 プロ見習いは考察する


「――はい鈍ったー!」


「うごっ!?」


 一瞬の硬直の間に、ニゲラの短い足に蹴り飛ばされる。

 オレはトレーニングルームの床に寝転がったまま、自分の拳を見つめた。


「……くそっ」


 それを床に叩きつけると、ニゲラが上から覗き込んでくる。


「だいぶ慣れてきたようなのだわ。硬直するのは10回に1回ってところかしら」


「それでも致命的だろ……。通常攻撃が10回に1回硬直するキャラなんて、どこの誰が使うんだ?」


「ま、それもそうね。でも、10回に1回が0回になるかどうかはアナタの心の持ちようなのだから、せいぜい気張ることなのだわ」


 休憩にしましょう、と言って、ニゲラはトレーニングルームを出ていく。

 オレは一人、無機質な天井を見上げた。


 ……かつて、ミナハの歯を折ってしまったトラウマで、オレは仮想空間でさえ人に拳を向けることができない。

 特に女子を相手にしたときが顕著だった。

 振りかぶった拳が、ガキンと歯車が食い違ったかのように硬直するのだ。


 しかし、《拳闘士》というクラスが、オレに最も合ったクラスであることは間違いなかった。

 2年前――いや、もう3年近く前になるか。オレが285連勝を達成したときに使っていたのは、拳を主体に闘うキャラだったからだ。

 槍よりも、もちろんトラップよりも、よほど強力に使いこなせるはずだった……。


「……PKを倒したときは、大丈夫だったんだけどな……」


 男だったからか、それともキレてたからか。

 いずれにせよ、このままじゃ使いものにならない。

 だからニゲラに練習相手になってもらって、トラウマの克服に臨んでいるのだった。


 効果は上がっている。

 暴露療法ってのがあるらしいが、それと似たようなもんだろうか。

 身体が硬直する回数は、明らかに減ってきていた。

 この調子なら、本戦までに完全回復できるかもしれない。


「そろそろスタイル構成も考えないとな……」


 トラウマの方は、最悪、本戦当日に治っていればいいわけだが、スタイル構成は事前登録制だ、早めに決めなきゃならない。

 つっても、まともに試せもしないこの状態で、どうやって決めたものか。


 ティアー・ランキングにある《拳闘士》クラス採用のスタイルには《ミナハ型最速拳闘士》があるが、あれはその名の通りミナハのスタイルの完全コピーだ。

 心理的にも抵抗があるし、性能的にもかなりピーキーで、今のオレに使いこなせるとも限らない。

 とりあえず試してみるくらいなら悪くないんだろうが……。


「……うーん……」


「なに悩んでるの、ジンケ」


 寝転がったままうんうん唸っていたら、ひょいっとリリィが覗き込んできた。

 そして、


「えい」


「うひょわっ!?」


 冷たいドリンクを首筋に押しつけてくる。

 思わず飛び起きると、リリィはぴとっと肩を寄り添わせながら、ドリンクを渡してきた。


「サンキュー。……でも首筋はビビるからやめてくれ」


「どうしよっかな」


 無表情の裏に無限のいたずら心を持ってるな、コイツは。


「……それで、何を悩んでたの?」


「ちょっと、スタイル構成についてな」


 耳元で囁くように訊いてくるリリィに、オレも囁くような声で返した。


「そろそろビルドだのスキルだの決めていかないとマズい。せっかく《拳闘士》を使えるようになっても、肝心のスタイルがヘボいんじゃあな……」


「《ミナハ型》はイヤ?」


「うーん……まあ、イヤはイヤなんだが、そもそも、あそこまでスピード一辺倒なのは好みじゃねーんだよな」


 オレはブラウザを開くと、《ミナハ型最速拳闘士》について解説したページを開いた。


「合計補正値8.5以下のクラスで最大のAGI補正を活かすために、AGIに目一杯ポイントを振る……って考え自体はわかる。

 ……わかるんだが、そのために《限界突破》まで使うってのは、ちょっと本末転倒なんじゃねーかって気がするんだよな……」


《ミナハ型最速拳闘士》最大の特徴は、圧倒的なAGIの高さにある。

 それを実現しているのが、1.3倍ものAGI補正と、《限界突破》スキルによるポイントの《全振り》だ。


 通常、ステータス・ポイントは、1種類のステータスに振ることができる上限が決まっている。

 いわゆる《極振り上限》というものだ。

 これはレベルの上昇に伴って上がっていくもので、レベル50の場合は500までとなっている。


 この上限をなくしてしまうのが、《限界突破》というスキルだ。

 持ちうる限りのステータス・ポイントを、1種類のステータスにすべて振ることができるようになる。

 レベル50の場合は1080だ。


 例えばSTRに振れば通常攻撃が必殺技級の化け物ができあがるし、VITに振ればいくら斬りつけてもビクともしない要塞ができあがる。

 とはいえ、強力さに相応の代償もあって―――


「……スロットを3枠も使うのがネックすぎるよな」


 レベル50に許されたスキルスロット7枠のうち、3枠。

 実に半数近くを、《限界突破》のみに捧げる必要があるのだ。


「他のスキルを3つ着けるより、AGIを500以上振れるようにした方が強いとは、正直あんまり思えねー」


 STRやVITならともかく、AGIだからな。

 AGIはアバターの動きを全体的に速くするステータスだが、他のステータスとは違って、高ければ高いほどいいってもんじゃない。

 普通の自動車しか運転したことのない人間が、いきなりスポーツカーに乗ったところで、スペック通りの速さなんてとても出せないのと同じだ。


 いくらアバターのスピードが上がっても、感覚がついてこなければ意味がない。


 理論上は、AGIを上げまくれば漫画みたいな超スピードバトルだって可能になるが、そんな速さについていける反射神経の持ち主はそうそういないのだ。

 自分のスピードに振り回されて終わり――あるいはそれを避けて、結局スペック通りのスピードを出せないまま終わり。

 大抵は、そんなお寒いオチが待っている。


「これはミナハだからこそ使えるスタイルだろ。他人が真似したところで、劣化にすらならないんじゃねーか?」


「レベル80とか90とか、100オーバーとかの廃人勢でも、AGIはあんまり上げないって聞いたことある。実数値で1000くらいが常人の限界とか……」


「だよなあ」


 それを主観時間加速の《受け流し》すら使わずに使いこなしていたミナハの奴がおかしいのだ。

 例の発生2Fパンチだって、スタイルだけ真似れば使えるってもんでもない。


 同じ脚力の陸上選手でも、フォームなんかでタイムに大きな違いが出てくるのと同じだ。

 これはVRゲームである。

 ステータスだけ同じ数字にしても、それを使いこなすアバター操作力がなければ同じプレイはできないのだ。


「でも、ジンケなら使いこなせる」


 妙に自信たっぷりに、リリィが言った。


「……いや、まあ、できねーとは言わねーけど」


 それでもせいぜい、実数値で1300くらいがまともに操縦できる限界じゃねーか?

 ……《アレ》を使えばもうちょっと上がるかもしんねーけど。


 ちなみに、《拳闘士》クラスで《限界突破》使ってAGI全振りにすると、その実数値は1755となる。

 たぶん、全力で動いたら宇宙飛行士の訓練みたいになるだろうな。


「仮にできても頭が疲れすぎるだろ。決勝にはもうフラフラになってると思うぜ」


「じゃあ、《限界突破》はやめる?」


「同じAGIを上げるのでも《縮地》を入れるとか他に手はあるし、《ミナハ型》以外で試してみたい」


《縮地》はAGIを1.1倍にするスキルで、ショートカットに入れて能動的(アクティブ)スキルとして使用すると、一時的にAGIが2倍になるという代物だ。

 それまでノロかった奴がいきなり速くなったりして、たまに使われるとビビる。


「でも、AGIを活かさないとなると、他のクラスの劣化になりそうなのがな……」


 オレは《拳闘士》のクラス性能をまとめたページを開いた。

 クラス補正は以下のようになっている。


 STR、AGIに1.3倍。

 VITに1.2倍。

 MP、MAT、MDFに0.9倍。

 HPとDEXは等倍。

 合計補正値8.5。


 筋力、頑丈さ、敏捷性といったフィジカル面が大きく上がる代わりに、魔法関連のステータスが下がるわけだ。

 他にも、このスタイルには重要な特徴があって――


「――全クラス中最短のリーチをカバーするためにAGIを上げる……って理屈はすげーわかるんだが」


 武器を持てない。

 すなわち、リーチが短い。


 一応、装備としては、手袋とかメリケンサックとか《拳闘士》用のものがあって、その点では不利はないんだが、リーチだけは如何ともしがたいものがあった。


「でも、両手使えるのはメリット」


 リリィがぽつりと言う。


「だな。手数に関しちゃ全クラス中最強だろう。STRも上がるから、相手が両手剣とかじゃなきゃ打ち負けるってこともあんまねーと思うし……片手剣なんかは圧倒できるだろ。セルフバフされてなきゃの話だが」


 その手数を活かすのにもAGIが有効だ。

 つまりAGI振り最強。


「……《限界突破》までは使わねーにしろ、AGI極振りまでは確定か……」


「残りの580をどこに振るか?」


「ああ。普通に考えればSTRだが」


 もう一捻り欲しいんだよなあ。


「お邪魔しまーす――――あっ」


「おっ」


 リリィともたれ合って、それとなく指なんか絡ませたりしながら考察していると、トレーニングルームに長い黒髪の女子が入ってきた。

 プラムだ。

 EPSストリーマー部門への所属をほぼほぼ決めたプラムは、今はハウスにも頻繁に出入りしているのだ。


 プラムはオレたちを見るなり、ほんのりと顔を赤くした。


「……お、お邪魔でしたでしょうか……?」


「うん、邪魔」


「ひうぅっ!」


 リリィににべもなく言われると、プラムはびくんっと肩を跳ねさせる。

 予選の日にシメられて以来、プラムはリリィにビビり続けているのだ。


「あんまいじめてやんなよ。プラム、大丈夫だから入ってこい。っつーかオレらが出ていこうか?」


「いっ、いえいえ! ジンケさんの様子を見に来たので!」


「むっ」


 リリィが警戒するようにオレの腕に抱きつき、むにゅっと胸を押しつけた。

 プラムは「あはは……」と取りなすように愛想笑いを浮かべながら、恐る恐る歩み寄ってくる。


「あ、あの……ジンケさん」


「ん?」


「本戦の当日なんですけど、何かご予定とかあったりしますか……?」


「《RISE》の本戦に出る以外の予定はねーけど、なんで?」


「いえ、その、一人で東京まで行くのは初めてで……できれば知ってる人と行動できたらいいなあ、と……」


 ああ、そりゃ確かに心細いだろうな。

《RISE》本戦は全国各地から予選突破者が東京にある会場に集まることになっている。

 交通費も宿泊費も出る太っ腹ぶりだが、学生にとっては新幹線だのホテルだのは修学旅行のときくらいしか縁がねーからな。


「プラムは関西だっけ」


「あ、京都です。新幹線に乗るだけなので、楽といえば楽なんですけど……」


「むしろ駅に降りた後に迷うんじゃねーの。……そうだな、東京駅で合流して一緒に行動しようぜ。シルもいるだろうしさ」


「シルさんって……デジタルカードゲーム部門の方でしたっけ」


「そう。いつもソファーに座ってる青いツナギの奴」


 シルバーフォルテことシルは、《RISE》の別部門に出場するのだ。

 無口な人だが一応先輩だし、東京にだって何度も行ったことがあるだろう。

 迷いそうになったら頼ればいい。


 などと考えていたら、リリィがくいくいとオレの服を引っ張った。


「ジンケ、ジンケ」


「どうした?」


「…………オフパコ」


「ぶっ!」

「んえぇぇっ!?」


 オレは噴き出し、プラムは顔を真っ赤にする。


「ヤる気満々。この女。やっぱり油断ならない」


「そっ、そんなんじゃないですぅっ……!! あ、あたし、ホントに一人じゃ不安だっただけで……!!」


「『一人じゃ不安で……もう少しだけ、一緒にいてくれませんか?』とか言ってホテルの部屋に連れ込もうとする。絶対そう」


「そ、そんなのあたし、できませんよおっ……!!」


「気を付けて、ジンケ。殊勝な態度に騙されないで。夜中に部屋を訪ねてこられても無視して」


 留守番を任される子供か、オレは。


「今そんな風に言うってことは……やっぱりついてこられないのか、リリィ」


「セコンドだって主張したけど、チームから経費が下りなかった」


「まあ、そりゃそうだろうな」


「だから日帰り。普通に応援しに行く。自腹で」


「……いいのか? なんだったらオレが出しても……」


 一応、小遣い程度じゃあるが、チームから活動資金をもらっている。

 リリィ一人分の交通費くらいだったら出せるはずだ。


「大丈夫。……わたしは、いわばジンケのファンとして見に行くだけ。ファンが自分の活動に自分でお金を出すのは当たり前」


「……そうか」


 そこまで言うんだったら、野暮はすまい。

 今度何か奢ってやって相殺しよう。


「だから、会場ではちゃんと見張ってるけど、ホテルは手薄になる……」


 そして、リリィはじっとプラムを見る。

 プラムは赤い顔でぶんぶんと手を振った。


「だ、大丈夫ですっ! ジンケさんの部屋には一歩も立ち入りません!」


「……ホントに? ジンケが有名になってから、『実はあのジンケさんに手出されたことあるんですよね~笑』とかSNSに書いたりしない?」


「しませんっ!!」


 リリィの中で、プラムは一体どんな奴になっているんだろう。

 気になるところだったが、そこでちょうどニゲラが戻ってきて、休憩は終わりになった。


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