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第4話 伝説は真価を見せる


「通りすがりの初心者だ」


 オレは槍を構え直しながら言った。

 PKの男は眉根を寄せる。


「通りすがりだぁ? なんで俺たちの邪魔をする!?」


初狩(しょが)りする奴が嫌いなんだ、どんなゲームでも。理由はそれで充分じゃねーか?」


「チッ……! PKKかよ。レッドになる度胸もねえ卑怯もんが……!!」


 ピーケーケーって言葉は知らねーけど、卑怯もんってのは盛大に自分を棚に上げた発言だな。


 男は完全にオレへターゲットを移し、片手剣と盾を構えた。

 まったく戦えない奴の構えじゃない。


「そこの二人! さっさと逃げろ!! 死んでる奴も!!」


 狙われていた男女は戸惑っている様子だったが、


「あ……ありがとうっ!!」

「ありがとうございます!!」


 お礼を言い残すと、森の向こうに逃げていった。

 人魂も消える。

 街に死に戻りってやつをしたんだろう。


 PKの男は忌々しげに表情を歪めたが、オレの持っている槍を見るなり、ぽかんとした顔になった。


「なんだそりゃあ? 《ウインド・スピア》じゃねえか!! 初心者装備もいいとこだぜ!?」


「初心者だって言ったろ」


「ふん! なるほどな。他のVRMMOの経験がありゃあ、不意打ちでクリティカル出すくらいはできるぜ。紙装甲のウィザードを倒すくらいのこともな!!」


 ゲーム経験まで丁寧に明かしてやる必要はない。

 オレは黙って隙を窺った。


「だが! 《ウインド・スピア》を使ってるような雑魚レベルで、レベル58の俺を倒せるわきゃあねえ! 1ダメージだって通るわけ――」


 隙だらけだった。

 瞬時に間合いを詰め、喉元を狙って刺突する。


「うごっ!?」


 チッ。

 ずらされた。

 槍の穂先は鎧に守られた肩に当たり、ガンッと硬質な音が鳴る。

 ダメージなし。


「この野郎ッ……!!」


 男が片手剣を振り下ろしてくる。

 全然なっちゃいない。

 オレは余裕を持って、槍の柄で受けた。

 しかし。


「んっ……!?」


 予想以上の衝撃が、柄を握る両手に走る。

 とても保持してはいられなかった。

 槍が手を離れる。

 何メートルも離れた地面に突き立った。


「当然だ、雑魚野郎がッ!!」


 眼前で、PKの男が笑った。

 嗜虐心を隠しもせず、再び剣を振り下ろす。


 ミスった……!

 レベル差を甘く見ていた!


 武器がない。

 防ぐ手段がない。

 どうする?

 どうするって!

 ―――こうするしかないだろ。






 男の懐に踏み込んで、顎にフックを入れた。






「がっ……!?」


 男は目を白黒させて、5歩ほども後ずさる。


「な……なんだ?」


 顎をさすりながらオレを見た。

 握り締めた拳を見つめているオレを。


「……んだよ、びっくりさせやがって! 苦し紛れに殴っただけか! 効かねえよ、武器もない攻撃なんざ!」


 そうだ。

 殴った。

 オレは。

 人間を。


「…………よくも…………」


 オレは男を睨みつける。


「…………オレに…………」


 感触が残る右拳を、


「…………人を…………!!」


 左手で覆い、


「――――殴らせたッ――――!!」


 直後。




「――――――なァァァァァァァァアアアアアアアアあぁアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」




 喉が炸裂する。

 空が震える。

 木々がざわめく。


 頭の中のリミッターが外れた。


「……ジンケ」


 目の前に小さなウインドウが現れた。


【スキル《拳闘》を会得しました。装備しますか?】


 全身が煮えたぎるようなのに、頭の中は清々しいくらいクールだ。

 だから即答する。


「――――Yes」


 オレは地面を蹴った。

 両の拳を胸の前に構えながら――

 細かくジグザグに動いて、相手の視線を振り切る。


「なっ、なっ……!?」


 PKの男が戸惑った様子を見せた。

 この《視線攪乱》は、慣れてない奴にはよく効く。


 間合いに踏み込むのは簡単だった。

 ようやく男の視線がオレに追いつくが、もう遅い。


「スッ―――!」


 強めに力を込めた中パンチ(・・・・)を顔面に入れる。


【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】


「うがっ……!?」


 大体の人間は、顔面を殴られると思考が止まる。

 たとえ痛くなくてもだ。

 その思考の空白を使い、オレは小パン(・・・)中足(・・)強パンチ(・・・)とコンボを繋げた。


【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】


「痛っ……く、ねえんだよっ!!」


 力任せに振られた片手剣を落ち着いて避け、オレはいったん間合いを取る。

 すると、案の定。

 PKの男は熱くなって、オレを追うべく無防備に足を踏み出した。


 その10フレームがあれば、小足(・・)を入れるのはたやすい。


【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が1ポイントアップ!】


 堅実に打撃を重ねていく。

 男の強引な反撃を回避しながら。


「鬱陶しいッ……!! 何度やったって効かねえって――――ッ!?」


【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】


 初めて手応えがあった。

 顎に中パンが入ったとき、バシィッ!! と音がしたのだ。

 なぜか知らないが、0ダメージだったのが5ダメージ程度にはなったらしい。


「なんでッ……!?」


【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】


 ノックバックが発生するようになって、ますます攻撃を入れやすくなった。


【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が2ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が3ポイントアップ!】


 また威力が上がる。

 男が盾で防ごうとし始める。


【《拳闘》の熟練度が3ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が3ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が3ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が4ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が4ポイントアップ!】


 守勢に入ってくれるなら、むしろやりやすい。

 オレはさらに攻撃の回転数をあげた。


【《拳闘》の熟練度が5ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が6ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が7ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が8ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が9ポイントアップ!】


 PK男の表情に焦りが見える。

 ダメだな。

 焦った奴はたいてい負ける。


【《拳闘》の熟練度が10ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が10ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が10ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が10ポイントアップ!】

【《拳闘》の熟練度が10ポイントアップ!】


「……嘘だ……」


 大きく仰け反りながら、PK男が愕然と呻いた。


「こんなレベルの奴にっ……!!」


 再び、オレの目の前に小さなウインドウが出る。


【体技魔法《炎昇拳》を会得しました。第三ショートカットに設定しますか?】


「Yes!」


 答えた直後、PK男が血走った目でオレを睨んだ。


「この雑魚がぁあああッ!!!」


 どれだけ怒っても――

 否、怒れば怒るだけ、技のキレは落ちる。

 たとえうまくいかなくてイラついても、それを動きに込めるべきじゃない。


 格ゲーで勝つための、必須条件だ。


第三ショート(サード・)カット発動(ブロウ)―――!!」


 オレの右拳が炎を纏った。

 アバターがシステムに支配され、勝手に動き始める。

 紅蓮の炎が弧を描いた。


 地から、天へ。

 昇り竜のように。


 拳闘系体技魔法《炎昇拳(えんしょうけん)》。


「があッ……!?」


 炎をまとった拳で顎を打ち上げられ、PK男は足を浮かせた。


「……なんで……」


 力なく吹っ飛びながら、男が小さくつぶやく。


「……素手のほうが、つえーんだよ……」


 地面に落下するのを待たず、男は紫の炎に包まれて死亡した。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




「ジンケ……」


 オレ一人になった森の広場に、リリィが遠慮がちに入ってきた。

 彼女がいたのに初めて気付いて、オレはばつが悪くなる。


「見てたのか……って、当たり前だな。一緒にいたんだから」


「今のって」


「言ったろ。昔取った杵柄だよ」


 視線を外して、それ以上の説明を拒否する。

 恥ずべき過去だ、オレにとっては。


「それより、さっさとここを離れようぜ。人魂になっても意識はあるんだろ?」


 PK2人組の人魂は、今もその場に浮かんでいる。

 こうして話している内容も聞かれているのだ。

 あまり個人情報を渡したくはない連中だ。


「……うん。わかった。行こ」


 リリィはあっさりときびすを返す。

 その物分かりの良さを、オレは心地よく感じた。


「……ありがとな」


「何が?」


「いや」


 そうして、オレのMAO生活1日目は終わった。




◆◆◆―――――――◆◆◆―――――――◆◆◆




288:名無しが時代を作るRPG

 今日、スカノーヴスの森の外れで

 ヤバい奴にPKされたんだが。

 ウインドスピアとか使ってるくせに

 動きがめっちゃ手慣れてた。

 なんとか槍を弾くとこまで行ったんだけど、

 素手でボコられて死んだ。


 有り得ねーだろ。

 俺、レベル58だぞ?

 絶対チーターの副垢だわ。

 誰かあいつ殺すの手伝ってくれ。



297:名無しが時代を作るRPG

 >>288

 お前、なんでスカノーヴスの森なんかにいたの?

 


301:名無しが時代を作るRPG

 >>288

 スレ違い



305:名無しが時代を作るRPG

 >>288

 スカノーヴスの森の外れにいるのは、

 初狩りのPKか道に迷った初心者だけ。

 レベル58は初心者とは言えない。

 つまり、お前は初狩りのPKで、

 いつものように初心者を狩ろうとしたところ、

 返り討ちに遭って死んだ、と。

 しかも素手で。



307:名無しが時代を作るRPG

 >>288

 >>305

 マジだとしたらダサすぎて草を禁じ得ない



308:名無しが時代を作るRPG

 >>288

 >>305

 釣りにしても雑すぎるな

 ウインドスピア使ってるようなレベル帯で、

 レベル58のPKerを素手でボコるとか不可能



310:名無しが時代を作るRPG

 本当だって



314:名無しが時代を作るRPG

 >>310

 まあ元気出せよw

 これに懲りたら初心者狩りとかやめとけ



320:名無しが時代を作るRPG

 >>310

 その話、詳しく聞かせてもらえませんか?

 こちらのアドレスにご連絡ください↓

 xxxxxxxxx@xxxxx.com



次章

『闘技都市訪問編――かくて闘神は産声をあげる』

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