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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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師匠としての重責

 ウェイルと龍殺しの攻防は、時間にしてわずか数分の出来事だったが、ウェイルの身体はすでに疲労によって支配されていた。

 力の抜けたフレスを背負いながら、敵を攻撃を避けながら時間を稼ぐ。

 極度の緊張感が身体を縛る中での戦闘だ。

 普通の状態でも勘弁願いたい状況であるのに、まして今日は神経を削る鑑定業の後の消火活動、さらに美術館での事件と、立て続けに体力を消費してしまっている。

 如何にウェイルの身体はタフだとはいえ、すでにその体力は限界を超えていた。


「……くっ、まだ、か……?」


 ウェイル達が待っている状況は、未だ訪れない。


「はぁ、はぁ、はぁ……、ウェイル……!! もういいよ、降ろして……。ボクが戦うから……!!」

「無茶を言うな、フレス!! そんな状態で一体どうやって戦うというんだ!?」

「でも、ウェイルだって、もう限界なんでしょ!?」


 確かに限界だ。すでに身体は鉛のように重く感じている。

 だが師匠として弟子に情けない姿を見せるわけにはいかない。

 そんな妙なプライドのおかげで、ウェイルの精神と身体は辛うじて倒れることなく耐えることが出来ていた。


「心配するな! 弟子は師匠を信じて頼っていればいいんだ!」


 ウェイルは、自分がこれほどまでに強がりで意地っ張りであるというを、今回初めて知った。

 龍殺しを目前にし、不思議と落ち着いている自分がいる。

 うるさいほどに聞こえてくる心臓の鼓動、乱れる呼吸、流れる血液。

 身体はもうボロボロで、勝つのは不可能だと判っているのに、不思議と死ぬ気もしなかったのだ。


(――弟子、か)


 考えてみれば、フレスと出会ってから自分は常に守られっぱなしだった。

 そんな自分が師匠と呼ばれることに、無意識のうちに違和感を覚えていたのかも知れない。

 だが今、自分はフレスを守っている。

 その事実に、心地の良い充足感を覚えていた。


(守るものがあれば強くなれる、か)


 歌や小説でよく聞く言葉であるが、自分とは無縁な言葉だと、今まで小馬鹿にしていた。

 しかし、今はこの言葉の意味が理解できる。

 背中に感じるフレスの重み。

 とても軽いフレスだが、ウェイルにはずっしりと重く感じた。

 師匠として背負わねばならない重責。

 それを今、ようやく感じることが出来ている。


「そろそろ、か……」


 フレスから魔力復活の兆しを感じる。

 それは抽象的な感覚ではなく、もっと具体的な何か。

 ――そう、戻ってきた。

 龍殺しはウェイルへ一気に距離を詰め、鋭利な爪を振り下ろしてくる。

 しかしウェイルは、その場から一歩も動じなかった。爪が当たらない事を確信していたからだ。


「よくやった――フロリア!!」

「お待たせしました! アレス様! ウェイルさん!」


 部屋の入り口には、肩で息をするフロリアが立っていた。

 フロリアの指先には、白く光輝く指輪がある。

 その光は真っすぐに、二体の龍殺しへと伸びていた。


「アレス様のコレクションの一つ、神器『封印指輪(シールリング)』!! これで魔獣の力は弱体化します!!」


 リングに装飾された宝石から発せられる白き聖なる光によって、龍殺し達は魔力を吸われ、もがき苦しみ始めた。

 同時に捕まれていたアレスは解放され、そこへすかさずフロリアが駆けつける。


「アレス様! 無事ですか!?」

「……ああ……、よくやった、フロリア。余のコレクションの場所を的確に覚えていたとは、さすが腹黒いだけあるな……」

「アレス様……!!」


 腫れ上がった顔で皮肉を垂れるアレスを、フロリアは目に涙をうかべ、ぎゅっと抱きしめた。


「クソッ!! 一体何が起こったんだ!?」


 突然もがき苦しみ始めた龍殺しに、ハルマーチは焦り、たじろいだ。


「殺せ! そのメイドも殺して構わん! おい、聞いているのか!?」


 ハルマーチの命令に応じようと必死にもがく龍殺しだが、もはやその命令を遂行する力は残されていなかった。次第に龍殺し達の動きは止まっていく。


「フロリアのおかげで助かったよ」

「危なかったね、ウェイル……!」


 間一髪、爪はウェイルに直撃する寸前のところで止まっており、二人は胸を撫で下ろす。


「龍殺しの能力が弱まったようだな。どうだ? フレス、気分は」

「うん。もうバッチリ元通りだよ」


 自力で立ち上がったフレスから、強大な魔力を感じる。これまでに負った傷も、すでに完全に癒えていた。

 ウェイルの目から光が消える。後はこのテロリストに制裁を加えるだけだ。


「ハルマーチよ。楽に死ねると思うなよ……?」

「……ボク。もう許さないから。ウェイル。お願い――」

「――ああ」


 ウェイルとフレスはもう一度唇を重ねた。

 今度こそフレスの身体は光に包まれ、周囲は冷気に包まれる。

 蒼く輝く巨大な神龍フレスベルグが降臨した。


『久々だ。これほどまでに怒りを覚えたのは……』


「……これが本物の龍……!? 本物の龍の姿……!!」


 見る者の心を凍り付かせる、悠々としたフレスベルグの姿に、ハルマーチは腰を抜かして身体を震わせた。


『ハルマーチとやら。貴様、身の丈を超えた事をしでかしたのだ。まさかただで済むとは思っていないだろう?』

「己の欲望のためだけにヴェクトルビアを混乱に陥れ、貴族として守るべき民を虐殺した。当然許される罪ではない」

「ヒ、ヒィ……!! ……お、おい、龍殺し! な、なんとかしろ!!」


 ハルマーチは後ずさりしながら必死に指示を出すが、龍殺しがその命令に従うことはない。

 すでに龍殺し達は、完全に力を封じられ、身動き一つ取れなくなっているのだから。


『ふん。このような醜悪な魔獣など、今ここで消し去ってやる』


 フレスベルグは魔力を溜めて、一気に解き放った。


『無に帰れ――!!』


 絶対零度の光が、龍殺しを瞬間的に凍てつかせ、そして消滅させた。


『次はお前だ。欲深き人間よ――』

「あ……あが……!!」


 頼りの魔獣を失い、龍の果てなき怒りの感情をぶつけられたハルマーチは、フレスベルグの発する威圧と覇気に耐え切れず、ついに泡を吹いて気を失ってしまった。

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