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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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変身失敗


 ハルマーチの発した衝撃の一言に、ウェイルは驚愕を隠しきれなかった。


(――何故こいつが龍の存在を知っている!?)


 声に出すまでには至らなかったが、顔には十分表れていたのだろう。

 驚くウェイルの顔を見て、ハルマーチは自慢げに言葉を続けた。


「実はセルクの文献を調べていくうちに、セルク作品には一定の間隔で龍の存在が出てくることに気づいたのだよ。鑑定士の君だって、当然気づいてはいただろう?」

「……ああ」


 確かにセルク作品には『セルク・ラグナロク』を筆頭に、龍の存在が描かれている作品がそれなりに存在する。

 セルクの存命中も、龍は疎まれる存在であったはずなので、作中に登場させるのは、周囲の評価者に対して良い印象を与えなかったはずだ。

 それなのにも関わらず龍の存在を描き続けたのは、なんらかの意図があったのだろうと、今の鑑定士達の間ではそう結論付けられている。


「龍を描いた作品が妙に多いことは、ずっと不思議に思っていたのだ。絵画だけでなく、セルクのデザインした紋章にも描かれている。龍を崇拝するアルカディアル教会の信者でもないのにな。そこでふと思ったのだよ。セルクは存命中、龍に関する研究をしていたのではないかとな」

「セルクが龍の研究を……!?」

「ええ。詳しいことは判りませんがねぇ。ただその文献に出てくる龍の特徴が、そこの彼女にそっくりなのだ。蒼き神龍『フレスベルグ』。青い髪に青い瞳。水や氷を司る神龍だと。彼女の青い翼がその証なのだな?」


 氷の冷気が収まり、フレスの姿が現れた時。

 もう我慢ならなかったのか、背中には光り輝く翼が出現していた。


「そうだよ。ボクがフレスベルグだ。君は龍であるボクを怒らせたんだ。どうなっても知らないよ……?」


 翼を隠そうともせず、またも冷気を両手に集め始めるフレス。


「先程効かなかったのが、理解出来ないのかね?」

「だったら効くまで撃ち続けるだけだよ!!」

「――そうはさせん。行け」


 ハルマーチの命令を受けたデーモンは、目を真っ赤に光らせながら、フレスに襲い掛かる。

 フレスはそれに対し、カウンターを合わせるように氷塊を撃ち放った。

 狙いは的中し、氷塊はデーモンの顎を直撃。

 鋭く伸びたツララは、デーモンの身体に深々と突き刺さり、断末魔が上がる――――はずだった。


「――う、うわあああぁぁぁぁ!!」


 聞こえてきたのは甲高い声。それは決してデーモンの断末魔などではない。

 ――フレスの悲鳴だった。

 フレスの身体は弾き飛ばされ、壁に叩きつけられていた。その小さな身体からは鮮血が飛び、ぐったりと床に崩れ落ちる。


「フレス!?」


 弟子の敗北する姿を見たウェイルの身体は、無意識のうちに動いていた。


「腐れ魔獣が……!」


 愛用の短剣『氷龍王の牙(ベルグファング)』で腕を氷の刃と融合させる。

 渾身の力でデーモンに刃を振り下ろすが、その肌は強靭で、簡単に弾き返された。

 それどころか氷の刃を掴まれて、そのまま握り潰される。

 流石に刃を折られるとは思わなかったウェイルは、一瞬たじろいでしまう。

 その隙を、デーモンに狙われた。


「――グオオオオオオオッ!!!」

「ちっ……!! もう一度……!!」


 咄嗟に再度氷の剣を覚醒させ、間一髪のところでデーモンの腕を受け止めた。


「やはり魔獣の腕力、異常に強い……!!」


 敵の攻撃を受け流し、一旦距離をとる。

 追撃してこないことを確認して、急いでフレスの元へと駆け寄り、安否を確かめた。


「おい、大丈夫か!? フレス!! 意識はあるか!?」

「……う、うん。ボクは、大丈夫……だよ……!」


 口の中を切ったのか、血の滲む唾を吐きだした後、無理やり笑顔を作ったフレス。

 本人は大丈夫だと言っているが、誰がどう見たって重傷だ。


「無理するな、フレス!」

「……何、言ってんの……。今ここで、無理しないと……、一体ボクは、どこで無理すれば……いいんだよ……!」


 こちらの攻撃は効かず、フレスは重症。

 こんな状況だ。フレスの言う通り、多少無理してでも打開策を講じねば、命を失いかねない。

 だが消耗の激しいフレスが、これ以上敵に嬲られるところを見続けるなんて、ウェイルには耐えられない。

 悔しそうに視線を背けるウェイルに、フレスは小さな声で、とある提案する。


「ねぇ、ウェイル。もう最後の手段しかないよ……!!」


 ――最後の手段。

 それはフレス本来の姿である神龍『フレスベルグ』に戻ること。

 この状況では、それしか助かる道は思い浮かばない。


「ああ、判った……! いくぞ、フレス」

「……うん……!!」


 ウェイルはフレスを優しく抱きかかえ、そっとキスをした。

 フレスの身体が輝き、龍の姿へと――


 ――戻らなかった。


「……龍の姿にならない!? 何故だ!?」

「うう……、やっぱりおかしいよ……。全然身体に力が入らない……。さっき奴と衝突した時、なんだか魔力を吸われたみたいだったよ……」


(……魔力が吸われている……? 龍であるフレスが……!? もしや――!!)


 想定外の出来事に固まる二人の前に、デーモンは容赦なく二人の前に立ち塞がった。


「ハハハハハ!! いやはや、この状態でキスをするとは!! 若く熱いことだな、お二人とも!!」


 ハルマーチは腹を抱えて笑う。

 そして腕を上げ、デーモンに指揮した。


「少し待つのだ、我が下僕どもよ。その二人を殺すことは許さんぞ。一人は天才鑑定士、もう一人は貴重な龍だ。まだまだこいつらには価値がある。我がコレクションになるのにふさわしい価値がな!!」

「心底下種な奴だ……!!」

「だから……そうだな、ほどよく痛めつけてやれ」


 そしてハルマーチはアレスの方へ向き直り、高らかと叫んだ。


「これこそが『セルク・オリジン』のメインテーマ『革命』だ! ついに私が冠をいただく時が来た!!」


 デーモンの一体が傷だらけのアレスを摘み上げ、ハルマーチの前にぶらりと吊り下げた。


「さあ、アレス王。あの龍と鑑定士、そしてメイドのことを想うなら、さっさと残りの『セルク・オリジン』の保管場所を吐くがよい。何、心配しなくても結構。どちらにしても貴公は最終的に殺します。私は『セルク・オリジン』のストーリーを完全再現するつもりなのでね。ただ貴方の態度次第で、三人への対応が変わるだけです」


 ハルマーチの狂った脅迫であったが、アレスにたじろぐ様子は無かった。

 恐怖するどころか、むしろ侮蔑を込めた視線を送り、鼻で笑う。


「フン。セルクは悲しんでいるだろうよ。貴様のような下種な馬鹿がファンを名乗っていることにな」


 アレスの言葉にハルマーチの顔が露骨に歪む。


「アレス王よ。あまりよろしくない態度ですね。傷だらけの鑑定士に、そしてメイドをどうするのかね? 貴様の態度次第だと言ったはずだ」

「そのメイド、今はどこにいるんだ……?」


 そうハルマーチに指摘して、アレスはしてやったりと笑ってやる。


「……何!?」


 ハルマーチは部屋中を見回した。

 しかし、部屋のどこにもメイドの姿はなかった。


「……逃げたのか?」

「そういうことだ。メイドを人質の取れなくて残念だったな。あいつは貴様のような下種には勿体ない女だよ」

「……そうですか。私、いささか気分を害しましたぞ?」

「そうか。俺は大変に気分が良い――ガハッ!!」


 ハルマーチがアレスを殴りつける。


「今の自分の立場をお考えください。暫定王よ。次期王に向かってその態度はいただけません」


 ハルマーチは殴る手を止めない。

 だがアレスも意識を途切れさせること無く、耐えていた。

 ――そして信じていた。


「……頼むぞ、フロリア……!」


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