始まる再現『立ち上がった民』
それからしばらくして、休息室に血相を変えたフロリアとシルグルが入ってきた。
「ウェイルさん、無事でしたか!?」
「ふげぇ!?」
扉近くに立っていたステイリィを吹っ飛ばして、部屋に入るなり我先にと、ウェイルに抱きついてくるフロリア。
「お、おい! 何やってんだフロリア!!」
「だって、心配したんですよ! 無事で良かったです!」
「俺は無事だ。だからその腕を離してくれ! 苦しいだろう!」
「私は心配で心配でもっと苦しかったんですよ!!」
「だからって俺を苦しませる必要はないだろう!?」
抱き着いてきたフロリアは、その華奢な腕からは想像もつかないほどの怪力で、ウェイルはまさに締め上げられるような格好になっていた。
だがそんな苦しむウェイルより必死になっていたのがこの二人。
「ちょっと、だめええええーーーー!!」
「おい、そこの糞メイド! それは私のだ!!」
もう耐えられんと叫びを上げたのはフレスとステイリィである。
「ウェイルさんの胸の中は私の特等席だ! 邪魔者は消えろ!!」
ステイリィはウェイルを抱き絞めているフロリアを、容赦なく蹴り飛ばす。
「うふふ……! これで邪魔者はいない! では早速、いただきま――」
「むむ! させないよ!!」
「ふぎゃ!?」
ぐったりしているウェイルに対し、ステイリィは舌舐めずりしながらダイブ。
その矢先、フレスがステイリィへ足払いをしたため。バランスを崩したステイリィは、勢いよく、床とキスする羽目になってしまった。
起き上がってきたステイリィの顔はまさに般若。
「この糞小娘共~~~!! よくもやってくれやがったな!!」
「それはこっちのセリフです!! 普通に痛かったじゃないですか! それに貴方だって小娘でしょう? この場で一番チビなんですから!」
「クゥオオオオオオーー!! コンプレックスを突き刺された時のこの痛み!! 癖になるほど腹が立つぜえええええ!!」
「ウェイルはボクの師匠なんだから! 誰にもあげないもん!」
「……どうしてこうなるんだ……?」
三つ巴となった三人を見て、ウェイルは思わず嘆息してしまう。
他の治安局員から嫉妬と羨望の鋭い視線を向けられていたことなど、露ほども知らないウェイルであった。
三人が互いに引っ張ったり蹴り合ったりして、ドタバタ騒ぎを繰り広げていた、その時。
「……地震か!?」
外から建物を揺るがす地響きが轟いたと思うと、今度は巨大な爆発音が響き渡った。
「「「――何事!?」」」
我に返った娘三人とウェイルは、すぐさま外へ飛び出した。
そこで見たのは、にわかには信じがたい光景だった。
「お、王宮が……!?」
「くっ、ハルマーチの奴、もう次の手に……!!」
被害を受けていたのは、このヴェクトルビアの象徴である『ヴェクトルビア宮殿』だ。
全面ガラス張りでダイヤモンドの様に美しかった王宮は、跡形もなく粉砕され、見るも無残な姿になっていた。
「――アレス様!!」
フロリアの顔面は蒼白になっていた。
無理もない。フロリアはこの後何が起きるか、おおよその見当がついているからだ。
「『セルク・オリジン』六作目『立ち向かう民』の再現!! こういうことだったのか……!?」
「ウェイル! 急がないと!! このままじゃ王様が死んじゃうよ!!」
たった今『セルク・オリジン』六作目の再現が始まった。
王宮に攻め入る民を描いた絵画。
それが今、現実に起ころうとしている。
そして物語の行き着く先は――『セルクオリジン』七作目『王の最後』。
タイトル通り、アレス王は暗殺される。
ここで手をこまねいている時間はない。
「ステイリィ、お前は市民を王宮に近づけさせないように警備を敷いてくれ! おそらく王宮には魔獣がいる!」
「魔獣が!? ……判りました、お任せください! ウェイルさんはどうなさるつもりですか!?」
「当然王宮へ向かう!! フレス、行くぞ!!」
「うん!!」
フロリアが真っ先に駆け出して、ウェイルとフレスがその後を追ったのだった。
「……早く体制を整えないと……!! 裏もとる必要があるな」
ステイリィは大急ぎで部下達に指示を出し始めた。




