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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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美術館炎上

「フレス! 火災現場はこの先の角を曲がったところだ!」


 ステイリィから火災現場を記した地図を手に入れたウェイルは、フレスと再び合流して消火活動に回っていた。


「ここだ! フレス、頼んだぞ!!」

「うん! うりゃあ!!」


 手のひらから青白く輝く魔力を放出すると、その光は水に変わり、炎を飲み込んでいく。

 炎は見事に鎮火し、消火活動にあたっていた人々からは唖然の表情と喜びの歓声が飛んだ。


「はぁ、はぁ……、これで十三件目だね……!!」

「残りは三箇所だ! フレス、もう少しの辛抱だ。頑張れ!」

「う、うん……! ボク、頑張るよ……!!」


 そう答えるフレスだが、疲労の色は濃い。肩で息をしているほどだ。

 たとえ龍といえども、魔力の連続消費は予想以上に身体に負担をかけている。

 とはいえ、それを考慮しても、今日のフレスはいつも以上に疲れているように見えた。


「はぁ、はぁ、ど、どうしてだろう……? いつもならこれくらいでへばったりしないのになぁ……」


 フレスは自分の手のひらを眺め、首を傾げていた。


「フレス! きついかも知れないが休んでいる暇はない! いくぞ!」

「うん! よ~し! 次もカッコよく消火しちゃうもんね!!」


 フレスは気丈に振舞ってはいたが、やはりいつもと様子がおかしい。


(……フレスの言う通り、何かおかしいぞ。龍であるフレスがこの程度で疲労するのは変だ)


 フレスは龍なのだ。無限の生命力を持つ、神獣の中でも最上位の存在である。

 いくら消火活動に魔力を使ったとはいえ、本来フレスにとって大したことのない魔力量のはず。

 サスデルセルやマリアステルの事件の際も、ここまで疲労したフレスの姿は見たことがなかった。


「……一体フレスに何があったんだ……?」


 フレス本人にも原因が分かっていない。

 ウェイルの不安要素は、また一つ増えたのだった。





 ――●○●○●○――





「フレス、あれが最後の現場だ!」


 ウェイルが指差す先。そこは最悪なことにルミエール美術館だった。


「ちっ、よりもにもよって最後がここだなんてな……!!」


 ルミエール美術館は、他の火災現場から比較的遠い場所に位置している。

 近い順番に進むと、必然的にここが最後になったのだ。


「ウェイル! ボクが消火している間にシルグルさんを探して助けてあげて!」

「ああ!」


 この火災である。もうすでに避難しているかも知れない。


(だがシルグルはここの館長なんだ……!! 恐らくは……!!)


 野次馬を掻き分け、声を上げてシルグルの名を呼ぶ。

 だがやはりと言うべきか、その姿はどこにも見当たらない。


「やっぱりか……!!」


 ウェイルの予想は的中していた。

 シルグルは、未だ火の手の上がる美術館から脱出していない。

 何せ彼はルミエール美術館という、アレクアテナ大陸屈指の美術館の館長なのだ。

 所蔵されてある美術品の価値を知らないはずもない。

 おそらく美術品を守るため、未だ館内で芸術品を外へ運搬する作業をしているのだろう。

 ウェイルはシルグルを捜索する為、消火活動用のバケツを手に取ると、一気に水を被った後、燃え盛る美術館へ突入した。






 ――●○●○●○――






「おい! シルグル! いるか!?」


 館内でシルグルを探すウェイル。

 声を上げて名を呼んでも、返答はない。

 館内はところどころ煙で視界が悪くなっており、ウェイルは極力煙を吸わないように、未だ火が燃え広がっていない場所を選んで移動していた。


「おい、シルグル! どこにいる!? おい――」

「――ウェイルさん!? 私はこっちです!」


 煙の奥に見える扉。

 そこからシルグルの声が聞こえてきた。


「無事か!? 早く脱出しろ!!」

「出来ません! この『セルク・オリジン』六作目と『セルク・ラグナロク』は、私の命に代えても守らなければ!!」


 シルグルのいる部屋には、まだ火の手は上がっていない。

 しかし、燃え盛る炎はいつ襲ってくるか判らない状況だ。

 フレスは外で必死に消火活動を行ってくれている。

 だが疲労しているフレスのこと。いつ魔力の限界を迎えてもおかしくない。

 確実に鎮火できるという状況ではないのだ。

 ウェイルは煙を避けて、シルグルのいる部屋へ入った。


「ウェイルさん! この二枚の絵画です!」


 ウェイルの目に映ったは二枚のセルクの絵画。

 一枚は『セルク・オリジン』の六作目『立ち向かう民』。

 そして二枚目は『セルク・ラグナロク』。セルク最後の作品だ。


「これを燃やすわけにはいかないのです! どうにかして運び出さなければ!」


 シルグルの表情から見て、絵を捨てて逃げろとは言えない状況だ。

 こうなれば彼を手伝う方が話は早い。

 当然ウェイルも鑑定士として、アレクアテナ大陸の至宝であるこの絵画を、見す見す炎の薪にするわけにはいかなかった。


「手伝おう! シルグル、俺はオリジンの方を持つ。お前はラグナロクを持て!」

「はい!」


 ウェイルが『立ち向かう民』を持ち上げ、目の前で絵の内容を見た瞬間。


(――そうか……!!)


 ウェイルは閃くと同時に理解した。

 王宮で覚えた『セルク・オリジン』に対する違和感。

 そしてこの六枚目。


(……この六枚目にもデーモンは描かれていない)


 五枚目に描かれていたデーモンが後の二作に描かれていないなんてあり得るのだろうか。

 いや、やはり何度考えてもあり得ない。

 そう考えると、一つの結論が生まれる。


(こいつが本物であるならば、あの二枚は――)


「――ウェイルさん! 危ない!!」


 ウェイルがそんなことを考えた時、シルグルが叫ぶ。


「――っ!!」


 ウェイルは咄嗟に身を翻し、迫りくるそれ(・・)を避けた。


「ち、しくじったか……。だがセルクの絵が燃えなかったんだ。よしとするか」


 背後では、それ(・・)が直撃した本棚が燃えている。

 ウェイルの前に現れた明確に敵意を向けてくる、一人の影。


 それは――今回の容疑者、ヴェクトルビアの大貴族、ハルマーチ公本人だったのだ。




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