表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
87/763

『燃え盛る都市』

 煙の立ち込めた城下町へ駆けつけた三人は、その光景に驚愕を隠しきれなかった。


「……なんてことだ……!!」

「本当に再現されているだなんて……!!」


 その光景はまさに『セルク・オリジン』四作目『燃え盛る都市』そのものだった。

 都市のあちらこちらから火の手が上がり、現場は悲鳴や泣き叫ぶ声で阿鼻叫喚だ。

 勇敢な市民や兵達が、バケツリレーで消火活動に従事していた。

 

「くっ、間に合わなかった……!! せっかくアレス様はこうなることを予想して準備していたのに……!」


 フロリアが舌打ちする。

 アレスは一連の事件が絵画の再現だと気づいてから、予め火災の予防や対策をフロリアに命じていた。

 加えて不審人物がいないか警備もしていたのだが、その監視の目を掻い潜って発生したこの火災。

 アレス達はまんまと敵に出し抜かれてしまったのだ。


「ウェイル! あの辺りの火事が酷いよ!!」


 フレスが指差した場所は、こともあろうに治安局ヴェクトルビア支部のある地区であった。

 周辺の建物全てに火の手が回り、消火活動も間に合っていない状況だ。


「ウェイルさん! どうしますか!?」


 フロリアの問いは省略されているが、具体的には『今すぐ消火活動を手伝う』か『犯人を探索するか』の二択である。


「フロリア、お前は犯人を追え! 俺達も消火活動を終えたらすぐに向かう!」

「了解しました!」


 ここで時間を食うわけにはいかない。

 二手に回って行動する方が効率的だ。

 フロリアは目にも留まらぬ速さで走り、火の手の上がる城下町へ消えていった。


「バケツの水程度じゃ間に合わないな……!」


 火の回りは予想を超えて早かった。

 市民の懸命な消火活動も、次々と上がる火の手の多さに押されつつある。

 このままでは全てが灰になるのも時間の問題だ。

 バケツに汲んだ水程度ではびくともしない炎の壁を前に、数人の市民が戦っていた。


「くそ……消えない……!!」

「水を早く汲むんだ!! 急げ!!」


 決死の消火活動もむなしく、炎は吹き抜ける風を受け、勢いを増す一方。


「フレス、やるぞ」

「うん!」


 そんな炎の壁を前に、ウェイルとフレスが立つ。


「あ、アンタら、邪魔をしないでくれ! 急がないと俺達は全てを失うんだ!」

「だからこそ退いてくれ。早く避難するんだ」

「な、何を言っているんだ!? ここを放っておけと!? 消火しなければ全てを失うと言っただろう!?」

「判ってる! ここは俺達に任せろって言っているんだ!! いいからさっさと避難しろ!!」

「ひ、ひぃー!!」

 

 ウェイルの剣幕に、一斉に市民は逃げていく。

 それでも心配なのか、遠距離からこっそりとこちらを見ているようだ。


「ウェイルってば、ちょっと酷くない?」

「お前の力を見せびらかすような真似をしたくはなかったからな」


 フレスが龍であることは、どのような状況でも隠したい。

 近くに人の気配が消えたことを確認して、ウェイルは命じた。


「フレス! 頼む!」

「任せておいて!!」


 フレスが両腕に魔力を込めると、腕は次第に青白い光に包まれた。

 青白い光は、その辺り一帯を急激に冷却させていく。


「皆を避難させて正解だね。ウェイルも危ないから少し下がってて!」


 フレスが両腕を火に向かって突き出した。


「――えい!!」


 青白い光は空を切ると、それは大量の水となり、火を飲み込んでいく。

 水は一瞬にして炎の壁を飲み込み、鎮火させた。

 後には煙だけが立ち込めていた。


「フレス! この調子で他の場所も頼む! 俺は治安局の援護に向かう!」

「了解!」


 遠くでこっそりと見守っていた、さっきの住民を含む野次馬らの驚き喜ぶ姿を無視しつつ、この場をフレスに任せると、ウェイルは治安局へと向かった。


「おい、ステイリィ! いるか!?」

「ええ!? ウェイルさん!?」


 局員への指示対応で忙しそうなステイリィが目を丸くさせて、突然現れたウェイルを見た。


「よかった、無事か。被害状況は!?」

「今のところ死者はいません! ただ全焼した建物が四棟、半焼が十八棟あり、いまだ消火活動の最中です!」

「分かった。消火活動は俺に任せろ! 火の手の上がった場所を教えてくれ!」

「……え? それを知って一体何を?」

「いいから教えろ」


 ステイリィはフレスの力を知らない。

 それでもウェイルを信頼して、地図に火災現場を書き入れてくれた。


「未だ火の手が上がっている場所にチェックをつけました! ウェイルさん、どうかお願いします!」

「ああ。そうだ、ステイリィ。局員の何人かに指示を与えてくれないか?」

「何を、ですか?」

「この火災現場に、ハルマーチ公の姿を見たかという聞き込み、そして本人がいたらすぐに連絡。この二点だ」

「……ハルマーチって、あの大貴族の? それは今回の事件に関係があるんですね……?」

「ああ。間違いなくな」


 ウェイルは即座に頷いた。

 この事件には治安局にも協力してもらう必要がある。


「分かりました。必ずハルマーチを探してみせますから」


 二人は一瞬だけ視線を合わせ頷きあうと、そしてそれぞれの任務に戻った。


「上官! 今の男は一体……?」

「今の人は私の命の恩人で、私に生き甲斐を与えてくれた人だ。このアレクアテナ大陸の誰よりも信頼できる。そんなことよりさっさと仕事に戻れ!」

「す、すみませんでした!!」

「……はぁ……」


 ステイリィは部下を怒鳴った後、ウェイルが出て行った扉を見つめ、ため息をついた。


「あの人はどうしていつも事件の中心にいるんだろ……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ