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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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若きメイド長、フロリア


「ここがアレス様のコレクションルームです。今鍵を開けますので」

「おい、お前さん、足が速すぎないか……?」

「いえ、普通です」

「……お前、案内するつもりないだろ……?」

「決してそんなことは。どうぞ、お入りください」


 フロリアが部屋のカギを開け、二人は中に通された。


「おお、流石だな……!!」

「ウェイル! 絵画がたくさんあるよ!?」


 二人は驚愕して足を止めた。

 何せ部屋のどこを見渡しても、所狭しと絵画が展示されてあり、そのどれもが有名な画家による作品であったからだ。


「すごいな……!! こっち側の絵画なんて大半がセルク作品じゃないか……!!」


 アレスはセルクマニアとして有名である。

 だが、まさかこれほどのコレクションを所持しているとは予想の範疇を超えていた。


「うわー!! 綺麗な風景画!!」


 これ以上ないほど最高級の絵画に囲まれ、フレスは感嘆の声を上げていた。


「おい、フレス。あまり騒ぐな。翼が出るだろ?」

「あ。そうだね。気を付けるよ。それよりも、ウェイルは一体何をしてるの?」


 先程からウェイルは、いそいそとメモ帳を取り出して何かをしていた。


「セルクナンバーをメモしているんだ。ここにある奴はおそらく本部に登録済みだろうが、一応な。職業病みたいなもんだ」

「へー。鑑定士って大変だね!」

「……お前、鑑定士になりたいんじゃないのか……?」

「お二人とも!! ちょっといいですか!?」


 声を荒らげたのは、メイドのフロリア。

 扉を閉めて、険しい顔で二人に近づいてきた。


(なんか怒ってないか……?)

(どうだろう……? ボク達、何か悪いことしたかな……?)

(強いて言えばお前がはしゃいだくらいか……?)

(でも、まだ何も壊してないよ!?)

(壊すこと前提かよ……)


 しばしの間、フロリアは顔を険しくしていたが、こそこそ話し合う二人を見て、堰を切ったかのように笑い始めた。


「あははははは!! お二人とも、とっても面白い人達ですねぇ!!」


 突如豹変したフロリアに、ウェイルとフレスは思わず顔を見合わせた。


「あはははは!! あ、失礼しました。ちゃんとした自己紹介はまだでしたね。私、この王宮でメイド長を務めております、フロリアと申します」

「プロ鑑定士のウェイルだ」

「ボク、フレスって言います」


 あっけにとられた二人を余所に、フロリアは続ける。


「お二人とも! さっきの謁見の間での態度は何なんですか!? アレス様にも平然とタメ口でしたし! 大臣達の視線はナイフよりも鋭くなっていましたよ!? 私まで息が詰まりそうでしたもん! そのせいで少し早足になっちゃいました」

「いや、早足どころじゃなかったがな。悪かったよ」

「別にいいですけどね。私も大臣達の手前、お二人にはふてぶてしくしてしまいました。すみません!」

「はぁ」

「……ウェイル、この人、さっきの人と本当に同じ人?」


 ぺこりと愛想よく頭を下げたフロリア。

 その笑顔は人懐っこく、とてもメイド長というかしこまった役職をしているとは思えないほどである。


「なぁ、フロリア。君は本当にメイド長なのか? 少し若すぎる気がするが……」

「その質問には余が答えようぞ、ウェイル」

「アレス様!」


 途端にフロリアが跪く。

 勇ましい声と共に扉から入ってきたのは、アレス王本人だった。


「さっきは済まぬな、ウェイル。あそこではどうにも大臣らの目が厳しいもんでな。こっちに移動してもらったよ」

「何、いいさ。俺としてもこっちの方が色々と都合が良い」


 ウェイルは普段あまり敬語は使わないし、アレスも友人に敬語を使われることを嫌がる。

 だが相手は一都市の王なのである。

 家臣の者からいい顔はされないだろう。


「それで今の続きだが、確かにフロリアは若い。何せまだ22歳だからな」

「22歳!?」

「ちょっとアレス様! 女の子の年齢をばらすものじゃありませんよ! それにメイド長って言ったって大したことじゃありません! 普通です!」

「いや、普通じゃないだろう」


 フロリアは謙遜して見せたが、アレスのツッコミ通り、それは普通のことではない。

 一都市の、それも王へ直に仕えるメイドの長を務めるだなんて、それこそベテランのメイドにしかできないことだ。

 フロリアはそれを22歳という若さでやっていることになる。


「いいや、凄いことだろう、それは」


 ウェイルは素直に感嘆していた。


「まあな。そしてフロリアは腹黒いぞ? だからこそメイド長になれたわけだからな」

「ちょっとアレス様! 女の子のことを腹黒いとか言うものじゃありません! それに女の子が腹黒いのは普通です!」

「いや、普通じゃないだろう」


 アレスとフロリアは身分の違いなど感じさせない程、互いに楽しそうに会話していた。


「フロリアはな、出世するために余に近付いてきたのだよ。なぁ? フロリア」

「出世だなんて、そんなことは考えていません! ただ王様と仲良くなればいいことがあるかなーっとか、お給料たくさん貰えるかなーっとか、それくらいしか考えていません。これって普通ですよね?」

「それが腹黒いというんだ。それでな、こいつは俺に近付きたいが為に芸術について勉強したんだと」

「……ああ。そういうことか」


 アレスと仲良くなるための一番の近道を、フロリアは辿った。

 コレクターとは常に二つのものを欲している。

 それは珍しいコレクションと、それを自慢できる理解者だ。

 王であるアレスは前者を得るのは容易とはいえ、後者を得るのは非常に難しい。

 誰もが王の権力や財力を目当てに近づき、媚びへつらってくる。

 そういう輩は、内心何を考えているか知れたものじゃない。ましてや趣味について語り合うことなど不可能だ。

 心の底から対等に、趣味について語り合える仲間をアレスは欲しており、そこにフロリアは入り込んだわけだ。


「もう、アレス様ってば酷いことばっかり言いますね。でもその通りなんですけどね! プロ鑑定士の資格を取れるくらい知識を蓄えましたから!」

「余としてもその心意気を買っていてな。メイド長に任命したわけよ。近くに置く者は、趣味が合う者の方が面白い。無論仕事もキチンとやっているから文句はない」

「えへへ、王様にそう言われると素直に嬉しいです!」


 照れを隠すことなく笑顔を浮かべるフロリアは、まさしく年相応の女性であった。


「王宮に仕え始めたばかりの頃やメイド長に任命されたばかりの頃は、周りのメイドさんからいじめられましたけどね! それもこれも全部出世の為に耐え抜いたんですよ!! ……よくよく考えてみると私って普通じゃないかも……?」

「ああ、普通じゃないと思うぞ。素晴らしいことだ」


 己が目的のために、嫌なことを耐え抜くという精神力は、生半可なことでは身につかない。

 ウェイルは素直にフロリアへと賞賛を送った。


「さて、ウェイル。今日お前が尋ねて来たのは、フロリアを褒める為ではあるまい?」


 少しばかり険しい表情をして、アレスは本題を切り出した。


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