ヴェクトルビア王、アレス
「どうぞ、こちらへ」
王宮から迎えに来た馬車に乗ること二十分。
二人はヴェクトルビア王宮へとやってきていた。
到着してすぐさま、二人は謁見の間に通される。
少し待っているとアレス公本人が姿を現した。
「あれが王様なの?」
「フレス、少し黙ってな」
ヴェクトルビア王――アレス・ヴァン・ヴェクトルビア。
公共事業として井戸を掘ることで、文字通り民を潤し、水不足で悩んでいたヴェクトルビアを救った名君。『水の王』とも呼ばれている。
またセルクマニアとしても有名で、あの『セルク・オリジン』を、七枚中四枚も所持しているほどである。
「久しいな、ウェイル」
「ああ、久しぶりだ。こんな仰々しい場所で会うのは初めてだが」
「そういえばそうだな。いつも会うのはオークションハウスだからな! どうだ? たまには王様らしく見えるか?」
「ああ。その大層な髭が、今日ばかりはよく似合ってるよ」
実のところ、ウェイルとアレスは友人である。
昔アレスがお忍びで参加していたオークションハウスにて偶然知り合い、そこで意気投合。そのまま二人は夜通し飲み明かしたことがある。
それ以降、ウェイルとアレスはちょくちょくオークションハウスで会い、親交を深めていた。
「どうだ? セルクのコレクションの方は」
「おかげさまで順調に集まってるよ。『セルク・オリジン』の最後まで見つかったからな」
「シルグルのとこにあった奴だな」
「そうだ。シルグルに鑑定を依頼していてな」
「……なるほどな」
「それにしてもウェイル。今日は随分と可愛い娘を連れているじゃないか?」
「こいつか? こいつは俺の弟子だよ」
「おお、ついに弟子をとったのか! 珍しいこともあるもんだ! 名を何という?」
「ボク、フレスって言います! よろしくね、王様!」
王相手にも物怖じしない二人の態度に、周囲の者からはコソコソと批判の声が上がる。
「なんだ? あの鑑定士は……。陛下に向かってなんて口の聞き方だ」
「それになんだあの恰好は。陛下にお会いになるというのに、ドレスコードひとつ守れぬか。品のないことだ」
「連れ立っているのは幼女ではないか……。ロリコンか?」
「誰が幼女じゃーー!!」
周囲の囁きにウガーッと憤怒するフレス。
今にも誰かに噛みつきそうだった。
「おい、お前たち、客人に失礼であろうが! すまぬな、お嬢さん」
「全くだよ! ボクは幼女じゃないもん!」
事情を知らぬ者からしたら立派な幼女だよ、とウェイルは心の中で呟き、苦笑した。
「アレス。俺は世間話をするためにここへ来たわけじゃない。シルグルに頼まれて来たんだ」
「……うむ。なるほどな」
アレスは利口な王だ。
ウェイルのそれだけの台詞で、話の内容は大方理解したらしい。
「よし、なら我がコレクションルームに来るがよい。フロリア!」
「はっ!」
アレスが呼ぶと、一人のメイドが機敏な動きでウェイルの前に現れた。
「フロリアよ。客人をコレクションルームまで案内しなさい」
「かしこまりました」
「ではウェイル、また後でな」
「ああ」
そう言うとアレスは謁見の間を去って行った。
残った大臣達の鋭い視線が二人に突き刺さる。
「……ねぇ、ウェイル。ボク達、睨まれてる?」
「睨まれてるな。ま、気にするなよ」
フロリアは王が去った方へ、今一度深々と頭を下げると、二人に向き直った。
「御二方のことは、私メイド長のフロリアがお世話させていただきます。早速ですがコレクションルームへと案内いたしますので、ついてきてください」
フロリアは二人を一瞥後、言うが早いかそそくさと――風のようなスピードで謁見の間から去って行った。
「ウェイル! あのメイドさん、速攻で出て行っちゃったよ!?」
「あのメイド、案内する気あるのか?」
「ウェイル、置いて行かれちゃうよ! 急ごう!」
二人は急いでフロリアの後について行ったのだった。




