『セルク・オリジン』
――セルク・マルセーラ。
アレクアテナ大陸の歴史上、最も有名な画家であり、その作品は持っているだけで多くの人々から尊敬と羨望を集めるという、芸術品の最高傑作だ。
伝説的な画家となったセルクが、画家として活動し始めた最初期に描いたとされる七枚の絵画。
それらは総称して『セルクの起源』と呼ばれている。
セルクは絵画を描く時、必ずその絵画に無作為に番号を付けている。
その番号はセルク・ナンバーと呼ばれており、番号が被ることはない。
無論『セルク・オリジン』にも例外ではなく、それぞれに無作為に番号が振られていた。
そのため、少し前まではこれらの関連性を見つけられず、『セルク・オリジン』は連作ではなく個々の作品として扱われていた。
それが最近の研究により、『セルク・オリジン』は、七作合わせて一つの作品であるとことが発見されたのである。
近年までに『セルク・オリジン』は七枚中六枚まで発見されていた。
正しく言えば七枚全ての存在は発見されてはいたのだが、長い歴史の中で何度も盗難に遭い、紛失されたことで、一度として全てが同時に揃ったことはなかったのである。
そのためプロ鑑定士協会でさえも『セルク・オリジン』についての詳しい情報は保存されておらず、新たに発見されることを待つばかりというのが実態だった。
それが今、ウェイル達の目の前に最後の七枚目が現れたのである。
『セルク・オリジン』で描かれる物語のタイトルは『革命』と言われている。
これはセルクが綴った日記『セルク・ブログ』にて明言されている。
それは『セルク・オリジン』を一つ一つ見ていけば、誰もが納得できるタイトルだった。
~~『セルクの起源 タイトル「革命」』~~
以下『セルク・オリジン』作品についての概要である。
ただし各々のタイトルについては、後から付けられた俗称であり、セルクからの明言はない。
● 一作目 『王の乱心』 セルク・ナンバー 396
赤を基調としたその絵画に描かれているのは、民を踏みつける王と、王に土下座する民。
そしてその民に槍を突き刺さんとする兵士二名の、王宮での出来事である。
赤が基調なのは、地面が血で染まっているからだ。
また王の足元には、四肢が切断されバラバラになっている人間の死体が散乱している。
王の乱心を描いたとされる、物語の邂逅となった絵画である。
● 二作目 『兵の狂気』 セルク・ナンバー 016
一作目とは背景が変わって、城下町。
民を奴隷のように扱う兵士と、槍で民を突き刺している兵士が描かれている。
民の顔は苦痛と悲哀、憎悪で歪み、兵士の顔は狂気を孕み、笑っている。
両者の圧倒的な立場の差、そして両者の表情が印象的な絵画である。
● 三作目 『毒』 セルク・ナンバー 604
井戸の前で人々が苦しんでいる様子が、描き出された作品。
白目をむき、泡と血を吐いて苦しむ人々が、実際に目の前にいるかのようにリアルに感じられる、そんな絵画である。
● 四作目 『燃え盛る都市』 セルク・ナンバー 883
燃え盛る城下町を、王が王宮から眺めている様子を描いた作品である。
町の至る所から煙と火の手が上がり、その様子を眺めながらほくそ笑む貴族の下劣な姿を描いた、セルクにしてはかなり珍しい風景画である。
● 五作目 『召喚』 セルク・ナンバー 743
魔術師が悪魔を召喚している絵画である。
この作品については発見当時から現在まで、様々な憶測が飛び交っている。
「『セルク・オリジン』には関係ないのではないか」とか「いや、間違いなく物語に関係する」という議論が未だに交わされている。
何故なら、この作品には物語の主人公である市民や王が一切登場していないからだ。
描かれているのは一人の魔術師と、七体の悪魔。
暗くて冷たい、そう感じさせる、他の作品とは一風変わった絵画である。
● 六作目 『立ち向かう民』 セルク・ナンバー 227
今回発見されたのは、この絵画である。
奮起した人々が王宮に攻め入っている様子を描いた作品で、勇ましい市民と逃げ惑う兵士の姿を描いた、激しいタッチの作品である。
● 七作目 『王の最後』 セルク・ナンバー 183
物語の最後を飾るこの絵画には、革命に成功した市民が王の首を手に掲げている様子が描かれている。
王の首を持つ青年の足元には、兵士、市民、貴族の死体で山が出来ており、その上で勝利の喜びに浸る市民の表情が特徴的な作品で、『セルク・オリジン』の締め括りである。
王と民の身分の差、壁を自由に表現したこの作品群は、セルクを稀代の画家にのし上げたきっかけとなった作品なのである。
五作目もそうだが、三作目と四作目についても、未だ議論が絶えないのが現状であり、鑑定士を悩ませる作品群なのだ。




