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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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ルミエール美術館

「おお、よくぞ来てくださいました、ウェイルさん!」


 フレスの大暴走により、予定時間より大幅に遅れた昼下がり。

 ウェイル達はようやくルミエール美術館へと辿りついていた。


「お久しぶりだな、シルグルさん。最近はどうだ?」

「それが最近は客足が減っていまして……。ま、それはいいのです。ささ、こちらへどうぞ」


 二人は美術品倉庫へ案内される。


「今回ウェイルさんに鑑定していただくのはこれなんです」


 シルグルは大きな額縁を金庫から取り出すと、ウェイルの前に晒した。


「――これは……! 新発見のセルクの絵画か!?」

「その通り。セルクナンバー227。仰る通り、新発見の絵画です」

「確かにセルクっぽい画風だな……。よし、詳しく鑑定しよう」

「よろしくお願いします」


 暇を持て余すフレスの相手をシルグルに任せて、ウェイルは三時間以上も費やして鑑定を行った。

 そうして導き出された鑑定結果は――。


「セルク・マルセーラの作品に間違いない。本物だ」


 作風・年代・癖・素材・セルクナンバー。

 その全てにおいてセルクの作品に間違いないと確信し、公式鑑定書に自身のサインを施した。

 鑑定が終わったのと同じくらいに、館内を見学して回ったフレスと、付き添いのシルグルが帰ってくる。


「ウェイルー!! 美術館の中、凄かったよ! どれも綺麗な絵画ばっかりだったし神器もたくさんあった!」

「鑑定書だ。本物で間違いない」


 はしゃぐフレスを対照的に、鑑定書を受け取ったシルグルは肩を落としていた。


「……そうですか。やはりこれも本物でしたか……」


 シルグルの反応に違和感を覚えた。

 本来なら本物だと判った以上、喜ぶべきところのはずだ。

 しかしシルグルのこの落ち込み様。明らかに普通じゃない。


「なぁ、館長さん。どうして俺に鑑定を依頼したんだ?」


 ウェイルはずっと抱いていた疑問をシルグルにぶつける。


「正直な話、お前は俺よりセルクについて詳しいはずだろ。今までにも俺の数倍以上セルク作品の鑑定をしてきたはずだ。なのにどうしてこの作品は自分で鑑定しなかったんだ? 俺なんかに頼む必要などなかったはずだろ?」


 ルミエール美術館の館長ともなれば、その鑑定力はプロ鑑定士と同レベル――いや、セルクに限って言えばそれ以上のはずだ。

 おそらく館長のシルグルは、この大陸で最も数多くのセルクの作品を見てきて、そして鑑定してきたはずだ。正直に言えば、ウェイルなんかよりよっぽど詳しいだろう。

 それなのにシルグルは、敢えてウェイルに鑑定を任せてきた。

 このことをウェイルは疑問に思っていた。


「……実は私も鑑定は行ったのです。そしてこれは間違いなく本物だという確信があります」

「だったら何故俺に頼んだんだ?」

「…………」


 しばらく沈黙していたシルグルだったが、やがて決心したのか、ぽつぽつと語り始めた。


「信じたくなかったのです。これが本物だということを」

「……どういうことだ……?」


 ウェイルにはシルグルの言葉の意味が理解できなかった。


「言葉の通り、信じたくはなかったのです。何故ならこの作品通りにまた事件が起こってしまうから……」

「事件……?」


 事件と聞いてピンと来た。ステイリィが話していた連続殺人事件。

 もしかしてその事件と、何か関係しているのではないかと。


「この頃、ヴェクトルビアでは連続して殺人事件が発生しているのです」


 ウェイルの予想は的中していた。

 だがその事件とこの絵画には、一体どんな関連性があるというのか。


「ウェイルさん。『セルク・オリジン』というのはご存知ですか?」

「ああ。当然知っている」

「ねーねー、ウェイル。『セルク・オリジン』ってなに?」

「『セルク・オリジン』っていうのはな。『セルク・マルセーラ』という稀代の天才画家が、画家活動を始めた最初期に描いたとされる七枚組の絵画のことだ。俺ですら現存する全ての作品を見たことはない」

「七枚? 最初に七枚も描いたの?」

「『セルク・オリジン』は七枚で一つの作品と言われているのですよ」


 首を傾げるフレスに、シルグルが詳しく説明を始めた。


 ――『セルク・オリジン』。

 ウェイルの説明した通り、セルク・マルセーラが最初期に描いた七枚のことで、他の作品と画風が一風変わっていることからこう呼ばれている。

 そして『セルク・オリジン』にはもう一つ、他作品とは全く異なる特徴がある。

 ――それは物語性である。

 最近の研究から、『セルク・オリジン』の七枚は連作となっていて、全ての絵画を合わせて一つの物語が完成することが判っている。

 現在プロ鑑定士協会が把握している『セルク・オリジン』は全部で六作。

 後一つで全ての物語が完成するところまで来ている。

 そして今、目の前にあるこの絵画こそが、最後の一枚であるというわけだ。


「へー、物語があるなんて、面白いね!」


 フレスはウンウンと頷いてはいたものの、説明中は頭に?マークをつけていたり、目を点にしていたりと、理解できているかは非常に怪しい。

 フレスの台詞にシルグルが嘆息した。


「面白い、であればどれほど良かったことか。今、事態は芳しくないのです」

「シルグルさんよ。『セルク・オリジン』と殺人事件、一体どういう関連性があるんだ?」


 しびれを切らしたウェイルが踏み入って尋ねた。


「ウェイルさんは、殺人事件についてどの程度ご存知ですか?」

「新聞などの資料で見た程度だ。王宮でバラバラになった死体が発見されたとか、井戸に毒が撒かれた、とか。だがこれら事件の関連性はよく判らなかった」

「そうでしょう。一般の方がこの一連の事件の関連性に気づくわけがない。ですが、私は気づいてしまったんです」


 シルグルは大きく嘆息した後、言い放った。


「一連の殺人事件。それは全て『セルク・オリジン』の物語通りになっているということを――」

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