旅の終わり
フェルタクスの発動まで、残り3分を切った。
フェルタクスの前にフレス達が並び、その後ろにそれぞれのパートナーが付き添っていた。
「……ウェイル、離れていて」
魔力回路内に無理矢理侵入するためには、フレス達の魔力をぶつけて、回路を損傷させないとならない。
近くにいたら、その影響を受けてしまって危険だ。
だからウェイル達は、少しだけ距離を取った。
「いくよ……!!」
龍達四人が、一斉に魔力を放ち、フェルタクスにぶつけた。
フェルタクスは音を立てて震え、魔力の結界を張って抵抗する。
「……くっ、硬いね……!!」
連戦を終えたばかりのフレス達に、フェルタクスの結界を払い除ける力は、もうあまり残されてはいない。
急がねば、フェルタクスは起動してしまう。
そんな時だった。
「見てられないなぁ、フレス?」
「ティア!?」
フレスの手に、そっと手を添えてきたのは、まさかのティアであった。
「どうしてティアが!?」
「……話、全部聞こえちゃったもん。ケルキューレに突き刺されて、ニーちゃんみたいに変な心が破壊されたのかな? なんだかフレスを手伝うことが正しい気がするんだ!」
「ティア……!! うん、手伝って欲しいな、君に」
「ティア、役に立てる?」
「勿論だよ! 手伝って!」
「うん!」
フレスにお願いされた時のティアの顔は、本当に嬉しそうで、優しい笑顔をしていた。
ティアは、本当は優しい子なのだ。
ウェイルはその表情を見ただけで、そう確信できてしまった。
「開いた!」
テメレイアがアテナを用いて、フェルタクスのコントロールをしているおかげで、魔力回路の損傷を確認できた。
これもティアの力が加わったことが大きい。
彼女のおかげで、フェルタクス内部への穴をこじ開けることが出来た。
「ティア、先に入っているから」
ティアは我先にと、こじ開けた穴へ手を置く。
するとティアの身体は光り輝き、フェルタクス内へ吸い込まれていった。
ゴゴゴゴゴと、フェルタクスが唸る。
残り時間まで、残り2分。
「イレイズ、行くよ」
「はい。必ず帰ってきてください」
「当たり前だ。約束を忘れたら……焼き尽くすぞ」
「心配無用です。貴方の為に可愛いドレスを百着以上用意してお待ちしていますよ」
「ふん、いいよ、着てやる」
そしてサラーは穴へと手を当てた。
彼女の身体が光り輝いていき、そして。
「またな、イレイズ」
そう呟いて、サラーはフェルタクスの中へ入っていった。
「サラー……お待ちしています。いつまでも……!!」
イレイズはそう呟くと、腰が抜けたように座り込み、そして腕で目を覆った。
「フロリア」
「うん、いってらっしゃい」
ニーズヘッグはそれだけ言って、フェルタクスの中へ吸い込まれていく。
言葉数は少ない。
でも、それだけで全て判ってしまう。
「いつでも帰ってきなよ。……目、痒いなぁ」
気丈に振舞っていたフロリアも、ニーズヘッグが見えなくなったと同時に、そんな幼稚な嘘をつきながら、手で目を擦っていた。
「レイア」
「ミル!!」
「わらわはレイアに会えて幸せじゃった。レイアに会えねば、こうも人間を好きになることなぞ出来んかった。願わくは、もっと早く会いたかった……!!」
「僕だって、もっと早く君と会いたかったよ! もっとずっと一緒にいたかった……!!」
「大丈夫。次会う時はずっと一緒じゃ。だから待っていてくれ。そうじゃ、レイアはずっとウェイルに惚れておったな。次会う時は、レイアの子供が見たい」
「なっ!? ミル、何を言って!?」
「ナハハ、冗談じゃ! ……じゃあの」
ミルは大声で笑い、そして光り輝き、吸い込まれていく。
「ミル!! ……ありがとう……!!」
テメレイアは両手で顔を覆いながら、止まらぬ涙を抑えていた。
――そして最後の残ったのは。
「ウェイル」
「……なんだ?」
「浮気はダメなんだからね!!」
「ちょっ、お前一体何を!?」
「ウェイルはボクのものなんだから! そこんとこ、ちゃんと覚えておいてよね。さっき伝えたでしょ!? ボクの気持ち!」
「……ああ、しっかり伝わったよ」
「でも、ボクがいない間は寂しいだろうからさ。まあミルもああ言っていたことだし、ちょっとくらいはいいよ。レイアさんとかテリアさんとかなら、ボクも安心してウェイルを任せられるし。……ステさんはダメだよ!」
「何なんだ、その基準は……」
「確かにボクもウェイルの子供は見たいと思うしさ……。でも! 一番はこのボクだかんね!」
「心配し過ぎだ。それに俺は、お前以外と一緒になる気はない。お前だけだよ」
「本当!? エヘヘ、嬉しいなぁ。だったら一刻も早く戻ってこなくちゃね」
「戻ってこい! そしてまた旅をしよう! 次はもっと楽しい旅だ!」
「勿論だよ! ウェイルとの旅はどこに行っても楽しいけどさ!」
フレスが穴に手を置いた。
魔力を込めると、フレスの身体は輝いていく。
「フレス!」
ウェイルは堪らず叫んだ。
――そして。
「愛しているぞ!!」
その言葉に、フレスは一瞬涙で顔を歪ませたが、次の瞬間には。
「ボクも……愛してる!!」
今まで見てきたフレスの笑顔の中でも、最高の笑顔を見せて、それに応えて。
――そしてフェルタクスの中へ吸い込まれていった。
ゴゴゴゴゴと、フェルタクスが振動を強める。
だが、その揺れは次第と収まってき、そして。
――フェルタクスは完全に機能を停止させた。
この瞬間、芸術大陸アレクアテナは、滅びの運命を回避し。
――龍と鑑定士の長い旅は、終わりを告げた。




