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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第三章 王都ヴェクトルビア編  『セルク・オリジン・ストーリー』
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同情の想い

「――ふわああぁぁぁ~~」

 

 周辺の空気を全て吸ってしまいそうなほどの大きな欠伸が、乗客の少ない汽車内に響き渡った。


「むにゃむにゃ、ねむい~」

「はぁ……」


 フレスのマヌケな声に、その相方であるウェイルは呆れて嘆息する。


「ふわああああああああぁぁ~~」

「大げさな欠伸だな。そんなに眠いのか?」

「だってさっきから同じ景色ばっかりで、飽きちゃったんだもん。うんざりだよ」


 次の目的地まではまだかなりの距離があり、道中は似たような景色が続く。

 それが退屈で仕方ないのだと、何とも理不尽な文句を垂れるフレスは、顔に風を当てるべく窓から顔を出して窓枠に顎を置いた。

 ウェイルとフレスの二人は、競売都市マリアステルでの事件後、一息つく間もなく届けられた出張鑑定依頼のために、次なる都市である『王都ヴェクトルビア』へと向かっていた。

 

 ――王都ヴェクトルビア。


 アレクアテナ大陸の中央に位置する、大陸最大の人口を有する巨大都市である。

 また芸術の都としても『運河都市ラインレピア』並び非常に有名であり、大陸最大の美術館『ルミエール美術館』もこの王都に存在する。

 大陸各地から集められた優れた美術品・芸術品、またセルクを代表とする著名な芸術家の作品を数多く展示・所蔵されている。

 ウェイルに届けられた鑑定依頼もこの美術館からの依頼で、その依頼主はルミエール美術館の館長、シルグル氏であった。


「……ねぇ、ウェイル~。まだ着かないの~?」

「まだまだ先だ。そうだな、明日の朝には到着するだろうな」

「そんなに!? 遠すぎるよおおおおおお!!」

「アレクアテナ大陸は広いからな。途中停車する駅も多いし、どうしてもそれくらいになる」

「ウェイルは暇じゃないの!?」

「もう慣れたよ。汽車の旅は暇との戦いでもある。だから当然暇つぶしだって用意している」

「暇つぶし!? ウェイル、何か持ってきたの!?」

「ああ、旧ヴェクトルビア王朝時代の歴史に関する本を持ってきている。この時代の芸術品について知識を深めておきたくてな。お前も読むか?」

「うえぇ……、ボ、ボク、遠慮しておくよ……」


 活字でびっしり詰まったページを見ただけでフレスはぱたりと寝ころんでしまう。

 その様子を見て苦笑するウェイルであった。


「今のうちにしっかり寝ておけよ。到着したら忙しくなるからな」

「わかったよ~……。おやすみぃ……、……スヤァ……」


 言うが早いかフレスは可愛い寝息を立て始めた。


「…………」


 フレスの寝顔を見ながら、ウェイルはマリアステルでの事件のことを回想していた。


(……王、か)

 

 『不完全』に属し、贋作士として活動していたイレイズ。

 彼の本名はイレイズ=ルミア・クルパーカー。

 違法品『ダイヤモンドヘッド』に翻弄され、今なお危険に晒されている部族都市クルパーカーの王だ。

 『不完全』によって民を人質に捕られ、長い間無理やり忠誠を強いられていた。

 故郷との決別、憎むべき敵への忠誠、不本意な任務の数々。

 そのどれも耐え難い苦痛だったに違いない。

 しかしイレイズはウェイルと出会うことで、状況と心境を一変させた。

 彼は相棒である龍の少女サラーと共に『不完全』へ宣戦布告した。

 自らの命を懸けて、王として民を取り戻すために。


「……あの二人、今頃どうしているんだろうな……?」


 偶然同じ汽車に乗り合わせただけの間柄であったが、いつの間にか他人事には思えなくなっている。

 つい同情の想いを馳せるウェイルだった。


「どうしてるんだろうね……」


 ウェイルの言葉に、寝ていたはずのフレスが返事をする。


「寝ていたんじゃないのか?」

「寝たフリしてたんだよ。ちょっとウェイルの独り言が聞きたくて」

「なんと悪趣味な奴だ」

「あの二人のこと、考えていたんでしょ?」

「ああ。どうも他人事には思えなくてな」

「うん。ボクもだよ」


 マリアステルの事件の中で、ウェイルとフレスは互いに過去をぶつけ合った。

 悲惨な記憶、残酷な現実。

 イレイズの現状は、まさしくウェイルの過去そのものと言える。

 元王族であり、龍のパートナー。

 同じような境遇であるが故に、イレイズの力になりたいと思ったし、フレスも同様の想いを持っていたようだった。


「……あいつら、大丈夫かな。心配だ」

「絶対大丈夫だよ! イレイズさんにはサラーだってついているんだよ! それに二人とも、とっても強かったもん! それは戦ったウェイルもよく知ってるでしょ?」

「ああ、そうだな」


 あの二人は強い。

 戦闘能力もさることながら、その精神力だって生半可な強さじゃない。


「二人なら大丈夫!! ボクが保証しちゃうよ!」

「そうか、なら安心だな。フレスが言うなら間違いない」

「うん!」


 全く根拠のないフレスの保証であるが、自信満々に頷いたその姿を見ただけで、なんだが少しだけ心が軽くなったような気がした。

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