光と影の最終決戦
フレスの創造せし剣型の旧神器『氷龍王の牙』。
それを右手でゆっくりと握りしめたウェイルは、目の前の敵を静かに睨みながら魔力を込めた。
ピシピシと音を立てて、氷は腕全体に広がって、透き通る刃を出現させた。
冷たく鋭利な氷の剣は、魔力光を反射して、静かに光り輝く。
「イレイズ。メルフィナの剣には絶対に触れるな。心が破壊されるぞ」
「心を破壊、ですか。……ウェイルさん、貴方の敵はいつもいつも厄介すぎますよ」
「それはお互い様だ。いいか、気をつけろ」
「はい。とはいえ私の狙いはあの男ではなく『無限地獄の風穴』。あれは美しきこの大陸に存在してはならない、不浄なる神器。我が故郷はあの神器のせいで大変な目に遭ったのです。許す気はありません」
硬質化した拳を握りしめるイレイズ。
クルパーカー戦争のことを思い出しているのか、拳が震えていた。
ウェイルとイレイズの二人は、目の前に佇む不気味な仮面をつけた男を見据えた。
「火傷しそうなほどの熱視線だねぇ。照れちゃうよ?」
そんな二人に対し、仮面の男――メルフィナは、いつものふざけた雰囲気と何ら変わりなかった。
それは三種の神器という絶対的な力を手にしているという安心感や優越感からか。
……いや、そのどちらでもない。
メルフィナは、生まれながらにして狂人だ。
今この状況を、彼一人だけが心の底から楽しんでいるのだ。
メルフィナは緑色の仮面を外して、その素顔を晒した。
「これはこれはクルパーカーとかいう超二流都市の王子様と、僕の影武者君。そんな二人が協力して僕を倒そうと考えているのかい? 残念だけど、そいつは不可能というものだ。君らは圧倒的に僕の格下だ。剣を交えること自体、光栄だと思って欲しいね」
「お前みたいなイカれた奴にそんなことを言われても、まるで怒りすら感じないぞ。挑発ならお前の手下たちの方が上手かった」
「手下? そういえばウェイル、ダンケルクを殺したんだよね?」
「……ああ、殺した」
「かつての先輩を殺すだなんて、君も十分イカれてるさ。ま、フェルタリア王家は代々狂っていたということさ。お父様もこんなに面白い神器を持っていたというのに、やってることは周辺の掃除だけ。何が楽しくて管理していたんだろうね?」
「フェルタリア王は、フェルタクスを監視していたんだろう。お前みたいな馬鹿が悪用しないためにな」
「あはは、そうだね。でも結局こうなっちゃったんだから、お父様は無能だったのさ。王の器ではなかったんだよ。フェルタリアは滅びて正解だったね。案外僕は良いことをしたのかも?」
アハハハハと笑うメルフィナ。
だが、ウェイルはメルフィナを鼻で笑ってやった。
「フェルタリアが滅びて正解だとは全く思わんが、フェルタリア王家が滅びるのは大正解だな。この俺がここでお前を殺して、フェルタリア王家の歴史に幕を下ろしてやる」
「君に出来ると思う? たかが影の君が」
「出来るさ。フェルタリア王は実の息子ではなく、影である俺を選んだんだ。つまり俺の方が格上ってことさ」
「あはは、言うねぇ」
そんな笑い声をあげつつも、メルフィナの目はギンと鋭くなっていく。
そしてゆっくりと――ラインレピアで使っていた白と黒の傷の入った仮面を装着した。
「ウェイル、僕は今まで君を生かしてあげていた。龍やカラーコイン、アテナといった僕の欲しいものを、君は近くに置いていたからね。でもさ、今の君の周囲には、もはや僕の欲しいものはない。全部手に入れちゃったから。つまりもう僕は君を生かす理由はなくなったってことさ」
「ほう。ならもう影武者としての役目も必要ないってことでいいのか?」
「あはは、そうだね。もう影すら役目御免さ。だから僕は君を殺す」
「ああ、いいぜ。俺としても正式にお前の影じゃなくなってせいせいしたよ。これで俺は誰の贋作でもない。俺自身、ウェイル・フェルタリアという俺自身の本物だと、そう心から思えるようになったよ」
「メルフィナ・フェルタリアとウェイル・フェルタリア。光と影、どちらがこの世界に必要か、はっきりさせよう!」
「望むところだ!」
光と影の最終決戦が、今始まる。




