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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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時空を貫く槍の雨

「我が槍を避けることなど出来ん!」


 イドゥの手にしている槍は、リグラスラムで自分ら姉妹に襲い掛かって来た暴漢を殺した神器。

 槍の先端は時空を超えて、敵をほぼゼロ距離から突き刺すことが可能な代物だ。

 つまりその槍のリーチは無限。

 事前の予測がなければ、避けることは出来ない。


「お前さんのことだ。避けられないなら身体で受けると考えているかも知れんが、そいつは止めておけ。理由は判るか?」

「ええ。持っているのでしょう? 私の『無限龍心(ドラゴン・ハート)』の能力を弱める神器を。その神器には何度も痛い目に遭わされたもの」

封印系神器(シールクラス)星牢獄の宝球(ゾディアスフィア)』。こいつがワシの手元にある限り、お前は普通の人間だ。槍はその身では受けられないし、避けられん。いくら問題児のお前さんでも、今回ばかりは厳しいのではないか?」

「避けられない? ええ、私だけではそうでしょうね。だけど――リル!」

「はい。私の察覚は、僅かですが時空の歪みを検知できます。テリアさん、三歩下がった後、一メートル真上に飛んでください」


 イルアリルマの指示通りに身体を動かす。

 するとイドゥの槍は目の前と、そして足元を通過した。


「へぇ、予想はしてたけど、一本ではないのね?」

「……一発で気づいたか」


 イドゥの槍が次元を超えるのは知っているが、それにしたって現れた矛先の数がおかしい。

 複数本、槍を所持していると考えるのが妥当だった。


「やはりワシの娘の中でも、お前さんは特に優秀で問題児だ。凄まじい洞察力だよ。だがその洞察力を生かすも殺すも、後ろのお嬢さん次第なようだな」


 イドゥの視線がアムステリアから、後ろにいたイルアリルマの方へ向く。

 イルアリルマの周囲の時空が歪む。

 それを察知し、イルアリルマは軽い身のこなしで避けながら、イドゥの方へ迫った。


「お久しぶりですね。もっとも貴方は私のことを覚えているかは判りませんが」

「……申し訳ないが、記憶にない。どこかで出会ったかな?」

「貴方がルシカに視力を与えた時のことを覚えていますか? その時、逆に視力を奪われたのが私です」

「……おお、そう言えばハーフエルフの少女を利用したな。思い出した。なるほど、あの時の少女か」

「思い出していただけましたか?」

「その少女がどうしてここまで来たのか。視力を奪われたことへの復讐か?」

「いいえ、視力については別にいいんです。私は視覚と触覚、この二つを失くしたことで、逆に多くのことを知り、また経験しました。そのおかげでプロの鑑定士さんにもなれちゃいましたし」

「ならば何用だ?」

「二つです」


 指を二本立てて、ニッコリと微笑んだ。


「一つはルシカのこと。私の大切な親友の人生を狂わせたこと。もしかしたら貴方と出会えたことで、ルシカは幸せだったのかも知れません。ですけど貴方と出会わなければ、ルシカはもっと幸せになれたかも知れません。少なくとも最後は親友の手で、ということは無かったと思います」

「……二つ目は?」

「二つ目は、私の母のことです。と言っても、これは貴方一人のせいではありませんけど。私の母は『不完全』に裏切られ、奴隷として売られました。買った男に抱かれ、結果生まれたのが私です。私は母のことが嫌いでしたけど、それでも母に苦しい思いをさせた者を許すことは出来ません。『不完全』の罪を貴方だけに被ってもらうのは酷な話かもしれませんが、その『不完全』を潰したのも貴方でしょう? ですから貴方を倒すことで仇討ちとさせて下さい」

「……よかろう。是非そうしなさい」

「感謝します」


 ぺこりとイルアリルマは頭を下げ、頭を上げた瞬間、すぐさま横へステップを踏む。

 イドゥの槍は、リーチも方向も無限だ。様々な空間から連続して現れた。

 どこから、どの角度で現れるか、それを察するイルアリルマの指示で、アムステリアは槍を避け続けた。


「ほう、やるのう。実は槍を四本使っていたのだ。ワシはこの槍を、全部で十本持っていてな。一本はさっきフロリアに折られてしまったが、残り五本まで追加して使用できる。九本の槍を全て避けるには、当然そこのハーフエルフの指示が必須だろうが、果たして指示が間に合うかな?」


 時空と空気を斬り現れる槍は、現時点で四本。

 これが後五本追加となれば、攻撃の手数は今の倍以上だ。

 到底避けることも、ましてや全てに指示を出すことも不可能だ。

 だが、その事実が目に前にあったとしても、アムステリアとイルアリルマの表情に陰りはない。

 むしろ上等だと言わんばかりの表情を浮かべていた。


「『裂け目隠れの聖槍(パラレル・グングニル)』! 九本全てだ!! 奴らを串刺しにしろ!!」


 ビュンビュンと飛び交う槍の数が倍以上に。

 もはやその様子は、四方八方から集中砲火を受けているようだった。


 ――だが、しかし。


「……当たっておらん……!? どういうことだ!?」


 当たっていない。それどころか掠りもしていない。

 一撃必殺の槍が飛び交う集中砲火の中、二人は一滴の血も流すことなく、ゆっくりとイドゥに近づいてくる。


「な……何故だ!?」


 目の前に迫った二人に、イドゥが狼狽え、一瞬だが槍の雨に隙が出来る。


「今です! テリアさん!!」

「うらああああああああああああああああああああ!!」


 ――ズンッ……!!


 鈍い音がイドゥの身体から響いた。


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