龍を糧に
「だってさ、今から龍達は、フェルタクス起動の生贄になるんだから。上を見なよ」
メルフィナが指を差したのは、光り輝くフェルタクスの先端。
よく見れば、そこに何かの影がある。
そして気づく。その影の正体。
「……ま、まさかあれは……――サラーじゃないのか!?」
「そそ、正解!」
「サラーに一体何をした!?」
「今はちょっと眠ってもらっているだけだって。もっとも今からは生贄になってもらうんだけどね。君達も見たでしょ? 『セルク・ブログ』。セルクはあの中で、フェルタクスの起動方法をしっかりと記していたんだよ。セルクの詩の中にあった、龍を糧にって意味は、まさにこのこと! 龍の魔力を使って、フェルタクスは完全に目が覚めるんだ! 二十年前の失敗の一つは魔力不足。これでその点はクリアだね!」
「……そのためにサラーを……!!」
「炎の龍だけじゃないよ? 君達のパートナーも同じことになる! 気の毒だけどね!」
「させるかぁあああああ!!」
「ウェイル!!」
ウェイルはテメレイアの制止を振り切って、一気にメルフィナに向かって走り出した。
剣の間合いに入り、思いっきり振り降ろそうとした時。
「――メルフィナに何するの!?」
「――――ッ!?」
輝く閃光が衝撃となってウェイルの身体を吹き飛ばしていた。
「ウェイル!! 無事かい!?」
「な、なんとかな……!!」
吹き飛ばされて思いっきり床に叩きつけられた。
受け身はとったものの、床は石作り。打った箇所は相当痛む。
「酷い奴だね。折角メルフィナがパーティに誘ってくれたっていうのに……」
光を放ったのはティアであった。
まだ龍殺しに傍にいる影響か、かなり辛そうに歩いている。
もしティアが絶好調ならば、今の一撃でウェイルの命は無かったかも知れない。
「大丈夫、メルフィナ……?」
「うん、ありがとね、ティア」
「……あっ! メルフィナ、怪我してる……! ティアが、すぐに治してあげるね……!」
よろよろと辛そうにメルフィナの肩に手を置くティア。
ティアが淡い光を必死な表情で放つと、メルフィナの肩の傷はみるみる塞いで行った。
「……どう? もう痛くない?」
「うん! もう大丈夫だよ! ティア、君は本当に良い子だなぁ」
今ので余っていた魔力を使い果たしたのか、ぺたりと座り込むティアの頭を、メルフィナはナデナデと撫でる。
それが気持ちいいのかくすぐったいのか、ティアはとろんとした顔で笑っていた。
「ティア、僕は君のことが大好きだよ? ティアは?」
「うん、ティアもメルフィナ大好き……!」
「そっか。なら僕の為に、何でもしてくれる?」
「メルフィナはティアをお外の世界に出してくれた。楽しいことも一杯教えてくれた。だからティア、何でもするよ……!」
「そう。ならさ――」
――メルフィナの表情が、スッと暗くなった。
「――君も生贄になってよ」
「――え……?」
突然のことに、ティアは自分自身に何が起こったのか、全く理解出来ないでいた。
そして理解出来ぬまま、ティアはティアでなくなったのだろう。
ティアの身体に、メルフィナはケルキューレを突き刺していたのだ。
「な、な、何をしているんだ、あいつは……!?」
「……龍を糧に。それは仲間の龍すらも生贄にって、そういうことだろうね」
冷静な声でテメレイアは答えていたが、その残虐すぎる光景に顔を背けていた。
何だろうか。ティアは敵だったはずなのに、無性にやるせなく思ってくるのは。
「イドゥ、ありがと。いくらティアとはいえ、ここまで弱っていればやるのは簡単だったね」
「うむ。早くフェルタクスへ送れ」
「任せて~」
メルフィナがケルキューレをティアから引き抜き、天に向かって掲げると、ティアの身体はふわりと浮かんでいく。
そしてその身体はサラーの隣に並び、貼りつけされたような状態となった。
「……胸糞が悪すぎるぞ……!!」
今の光景を見て、ウェイルは心の底から激怒していた。
ここまでの強い感情は、『不完全』を相手にしていた時以上のものだ。
「ウェイル、ごめん。やっぱりさっきの台詞は撤回する。急がないとまずいことになる。敵の目的を考えれば、次はミルとフレスちゃんだ」
――龍を糧に。全ての龍を糧に。
ならばミルもフレスも、このままではティアの様になってしまう。
それだけは、何としても阻止せねばならない。




