超超超エリート
突如生じた爆発。
そちらに視線を奪われた、刹那の一瞬。
「…………えっ…………?」
メルフィナは、たった今自分の身に起きたことを理解出来ないでいた。
強烈な痛みが、肩から湧き上がってきている。
「な、何が……!?」
とっさに突風を起こして、ウェイルとの距離を取る。
肩に手を当てると生暖かい。ぬちゃぬちゃとした血の感触が、べっとりと手に残る。
そして改めてウェイルを見た。
「氷の剣が――復活している……!?」
この血は、つまりあの氷の剣で肩を斬られたという証なのだろう。
腕に力が入らない、というほどではないので、傷はさほど深くはないのだろうが、気が遠くなりそうなほどの痛みだった。
「くっ……!! どうして剣が……!? い、今にも砕けそうだったじゃないか!?」
ほんの数十秒前まで、あの氷の剣は限界を迎えていたはず。
それなのに、氷の剣は爛々と魔力で輝き、凍てつく冷気を放ち続けている。
「そうさ。お前の言う通り砕ける寸前だった。だが忘れるなよ? 『三種の神器』を使っているのはお前だけじゃない」
「……まさか……!!」
その言葉の意味に、心当たりがある。
爆発によって生じた煙の中から、輝く本を持ったテメレイアが現れる。
「間に合ったようだね、ウェイル」
「ああ、助かったよ」
「……『アテナ』で、氷の剣に魔力を注いだっていうこと……!?」
「そういうことさ。君だけが三種の神器を使うなんて卑怯だろ?」
「ゾンビ達は……!?」
「メルフィナ、君はこの僕を甘く見過ぎだよ? 自分で言うのは気は引けるけど、僕はプロ鑑定士協会でも屈指のエリートだよ?」
「それも頭に超が三つくらいつくレベルのエリートだ」
ジャラリと手に持ったガラス玉を転がして、メルフィナに向かって放り投げる。
テメレイアが何かを口ずさんだと思ったら、直後に爆発が起きた。
「けほ、けほ……、爆弾を使うのか……!!」
「リサーチ不足だよ? アテナを所有しているということは、これくらいも出来るということを予想しておかないとね」
煙が消え、爆発のあった場所が鮮明になる。
そこには爆発によって粉々になったデーモン型ゾンビの破片が散らばっていた。
「形勢逆転だな」
テメレイアがウェイルの傍に付き、ウェイルは剣先をメルフィナへ向ける。
――だが。
「逆転? あは、あははははははははは!! 何言ってんだよ、ウェイル! 最初に言ったはずでしょ!? これは全部暇つぶしなんだってね!!」
突如大声で笑い始めたメルフィナ。
肩から流れる血を手で拭って舐めながら笑うその姿は、不気味を通り越して異様といえた。
「あー、痛い。ま、これくらいの傷ならすぐに治るし、時間を稼ぐための必要経費だと思うことにするよ」
「時間稼ぎ……?」
「そうさ。最初に言ったじゃないか。準備をするってさ! そして今、最後の準備が終わったみたいだよ!?」
メルフィナがそう叫んだ直後、バンッと扉が開かれた。
「待たせたな、リーダー」
「イドゥ、お疲れ様。ティアは?」
「一緒におるぞ」
イドゥの背中に背負われていたのは、金色の髪を携えた少女。
光の龍、ティマイアに違いない。
「光の龍がいるということは……!!」
「まさか二人は……!!」
フレスとミルは、一体どうなったのか。
その答えは、すぐに判った。
イドゥと共に現れた、二体のデーモン。
そのデーモンの姿には見覚えがある。
「龍殺しだと……!?」
「ウェイル! 龍殺しがミル達を!!」
龍殺しは、それぞれフレスとミルを掴んでいる。
龍殺しの能力で力が抜けているのか、二人の目に光はなく、表情も虚ろになっていた。
「フレス!! ミル!! 今助ける!」
「ウェイル、駄目だ!! 今はまだ待つんだ!」
今すぐにでも走り出そうとしていたウェイルを、テメレイアが引き留める。
「何言っている!? 龍殺しは龍の天敵だ! あいつらをどうにかしないとフレス達は!!」
「その龍殺しは今、二人を掴んでいるんだ! ウェイルがあいつらを殺すのと、あいつらが二人を握り潰すのは、どちらが早いか君なら判るだろう!!」
「……クッ……!!」
すでに二人は龍殺しの手の中だ。
どちらが先に命を奪うことが出来るか、誰が見ても明白だ。
「様子を窺うんだ……!! 助けるチャンスは絶対に来る……!!」
「――チャンスは来ないと思うよ!」
テメレイアの台詞を聞いて、メルフィナは笑った。




