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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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『氷龍王の牙』の限界

 氷の剣と聖なる剣が向かい合う。

 互いが息を呑み、緊張の糸がピンと張る。

 そんな空気を断ち切ったのは、メルフィナの嘆息だった。


「ふぅ、いくら僕でも、三人同時に相手をするのは難しいね。一人は三種の神器の使い手であるわけだし」

「ならどうするんだ?」

「こいつを使わせてもらうよ!」

「……やっぱりお前が持っていたか……!!」


 メルフィナが取り出したのは、死者を操る最凶の神器『無限地獄の風穴コキュートス・ホールゲート』。


「出ておいで!」


 『無限地獄の風穴』から、悲鳴や慟哭といった叫び声が轟く。

 その音は徐々に大きくなり、神器の穴から冥府の風が漏れ出してくる。

 鼻を突く異臭と共に、三体のゾンビ化したデーモンが這い出て来た。


「さて、イドゥが来るまでもう少し。このデーモン達にはあちらの二人の相手をしてもらおう。僕は君と遊んで暇つぶしだ」

「暇つぶしでそのままくたばらないとも限らないぞ?」

「ケルキューレを見てもそんな減らず口を叩けるなんて、やっぱりウェイルは凄いね!」


 メルフィナは(ケルキューレ)を握り、同時に仮面を輝かせた。

 直後メルフィナの身体は風に乗って、ふわりと宙に浮いた。


「最初の演目は定番のこいつから。風の仮面『見送りの風(センド・ウィンド)』!!」


 緑色の仮面から、暴風が吹き荒れた。

 暴風はメルフィナの盾となり、そして足になる。

 風によって宙に浮いたメルフィナは、一度天井近くを旋回すると、勢いをつけてケルキューレを振り下ろしてきた。


「……クッ!」

「無駄だ!!」


 ウェイルが避けようとステップを踏もうとするも、風が強すぎて簡単には移動できなかった。

 どうやらメルフィナがウェイルの背中側にも暴風を送り込んでいるようだ。


「避けずに真正面からやろうってか!?」

「そうそう、逃げる選択肢なんか止めてさ! 愚直にやろうってこと!」


 避けられないのなら、もう剣と剣でぶつかるしかない。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


 ウェイルは声を上げて、氷の剣に魔力を込める。

 氷の剣が、ケルキューレに負けてしまわぬように、全力で。


 そして氷の剣とケルキューレは、激しくぶつかりあった。

 その衝撃で周囲にバチバチと魔力が弾ける。


「アハハハ! やるねぇ、その剣も!」

「当たり前だ! こいつだってそんじゃそこらの剣ではないからな!!」


 二人は一旦離れ、再度ぶつかり合う。

 あまりにも巨大な魔力同士のぶつかり合いに、剣を振るう腕やテクニックすら関係ないと思えてくる。

 互いにスラリとした刀身にも関わらず、一撃一撃が超巨大な剣を振っているかのような音が轟く。

 激しい剣撃の応酬であったが、傍から見る分では巧みな剣捌きが披露されているわけではなかった。

 だが戦っている本人同士にとっては、実に巧妙かつ繊細な鍔迫り合いが行われていたのだ。


「……邪魔な風だ、全く!!」

「ウェイル、君はやっぱり凄い。風を使わなければ、僕の方が不利だと感じてしまうほどにね!」

「不利? 馬鹿言うな。そっちの一撃一撃は、俺にとっては全て即死級の攻撃なんだぞ?」


 ケルキューレに一太刀でも斬られた瞬間、ウェイルは敗北を期す。その一太刀で魂は一刀両断されてしまうからだ。

 だから慎重に、丁寧に、それでいて全力で立ち向かわなければならないのだから、その神経は磨り減るというレベルじゃないほど消耗する。


「そろそろ仮面を変えさせてもらうよ! 氷には火! 演目は『紅蓮地獄(パイロゼーション)』!! 溶けてしまいなよ!!」


 緑の仮面を脱ぎ、今度は真っ赤に染まった仮面を被る。

 その直後、メルフィナの背後から巨大な炎が上がった。

 立ち込める炎は、壁にある灯り用に流れている油の小水路に引火し、部屋全体をさらに明るくした。

 じりじりと室温も上昇し、氷の剣から水滴が流れてきたのが判った。


「また炎を使う仮面か、厄介な……!!」

「僕も全力でやってるからね。さ、続きをやろう?」


 メルフィナは、ケルキューレに炎を纏わせ、再び剣を振るってきた。

 先程のような風はないため、避けることは出来るが、代わりに炎が飛んでくる。


「あつっ!? クソ、面倒すぎるぞ……!!」

「さて、いつまで避けられるかな?」


 避けたところで炎が飛び、剣を溶かしていく。

 ならば、まだ剣が無事なうちに決着をつけてしまうしかない。


「避けても意味がないなら、こうするしかないだろ!?」

「そうこなくちゃね」


 先程と同様に、何度も剣と剣が衝突し、その度に魔力が弾けていく。

 互いに口数は少なくなり、その意識は先に一撃を与えることのみに集中していった。

 突いては躱し、振り下ろしては受け止められ、不意を突こうにも距離を取られる。

 剣の腕だけで見れば、ほぼ互角。

 このまま続けても、今の状況はそう変わらぬであろう。

 つまり決着は、互いの神器の性能に掛かっているといっても過言ではない。


 ――三種の神器『心破剣ケルキューレ』と、フレスベルグが創造した剣『氷龍王の牙(ベルグファング)』。


 一撃で心まで破壊する神の剣ケルキューレは、メルフィナを持ち主と認め、最大のパフォーマンスでウェイルの心を食おうと魔力を放つ伝説の神器だ。

 そんなケルキューレと対等に渡り合う氷龍王の牙(ベルグファング)もまた、伝説級の神器である。

 フレスベルグの牙から創造されたこの剣には、これまで何度も命を救われてきた。

 今もこうして、心を破壊する一撃からウェイルを守ってくれている。

 自分と敵の神器の力は互角だと、そう言いたい。

 だが、ウェイルには判っていた。


「……刀身が細くなっている……!!」


 仮面の炎に晒され、神なる剣の斬撃を浴びせられた氷の剣の限界は、すでに近いということを。

 メルフィナだって、戦いながらそれをある程度察知している。刀身が細くなっていくのは目に見えて判るし、何より衝突時に弾ける魔力量が減っているのだ。

 手応えから考えても、氷龍王の牙はケルキューレの圧倒的な力に押され続けている。


「ウェイル、そろそろ限界なんじゃないのかい?」

「……喧しい。仮に限界が近くても、限界を迎える前にお前をぶった斬ればいいだけの話だ」

「さて、果たしてそんな細い剣で、僕を斬れるのかな?」


 もう一度衝突した時、今度はミシミシと氷の剣から音が鳴った。


「おやおや、限界はもう目の前なんじゃないのかい?」

「黙れ!!」


 メルフィナの嘲笑を孕んだ言葉に、腹は立つが、それは事実でもある。

 後数回ぶつかれば、フレスの牙は折れてしまうだろう。

 ならば出来る限り剣同士の打ち合いは避けたいところだが、それはメルフィナが許してくれない。


「逃がさないよ! ほらほらほらほらほらほらほらほらっ!!」


 連続突きは、仮面の炎も同時に飛んでくる。

 炎の方は刀身で受け止めたが、その熱の影響でまた刀身は細くなった。


(……本格的に……――まずい!! ……――――!?)


 ぶわっと、背中から強い力。暴風だ。

 見るとメルフィナの仮面が、また緑色に戻っている。


「……風!? クソッ、避けなければ――」

「無理だってばあああああ!!」


 風に阻まれ、行動が制限される今、目の前で振りかぶられたケルキューレから身を護るためにウェイルが出来ることは。


「どうにか耐えてくれ……!!」


 氷の剣で受け止めることだけだった。

 ケルキューレと氷の剣は、幾度となく衝突を繰り返してきた。

 だが今回の衝突は、今までの衝突とは全く違う。ウェイル側がかなり押される格好だ。

 ミシミシ、ピキピキと音が響く。

 その音は次第に大きくなり、剣に小さな亀裂が入り始めた。


「……ヒビが入ってるよぉ!? これで終わりだねええええええええええッ!!」


 剣の亀裂を見て、メルフィナはチャンスとばかりに魔力を最大まで高めた。

 亀裂は凄まじいスピードで広がっていく。

 もはや剣としての形状を保つことだけで精一杯になっているほどに。


「クッ……!!」


 これ以上は耐えられないことをウェイルが一番よく理解している。

 もう一撃どころか、後ほんの少し押し込まれるだけで、剣は砕け散ってしまいそうだ。


「砕けろおおおおおおおおッ!!」


 後一押し。

 後ほんの僅か魔力と力を込めれば砕ける。

 そうメルフィナが確信し踏み込もうとした時であった。


 ――床全体が振動したかのような爆発音が響き渡る。


 その音の方へ一瞬意識を向けた、その時だった。


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