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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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最後の最後に思い浮かんだものは

 突如召喚された魔獣、龍殺し(ドラゴン・キラー)の能力によって、フレス達の魔力と身体の自由は奪われていった。

 その影響は、この闇の龍ですら例外ではない。


「ニーちゃん! しっかり! ニーちゃん!!」

「ち、力が……抜けていくの……!!」


 足に力が入らないのか、ぺたりと床に座り込んだニーズヘッグ。


「そ、そうだ! 龍の姿に戻るってのは!?」

「無理なの……。そのための魔力も、抜けてるの……!!」

「ちぃいっ!! 急いであっちの二人も助けないといけないのに!!」


 龍殺しの前では、龍達は満足に力を奮うことは出来ない。

 イドゥの周囲には両手でも数え切れない数の龍殺しが召喚されていた。

 龍の力に頼っていたこちらとしては、最悪の状況と言えた。


「フロリア、お前が助けたいと願ったのはこいつらのことだな?」


 イドゥがいやらしい笑みを浮かべ、視線を送った先には、二体の龍殺しがいた。

 一体はティアを抱え、残りの一体はフレスとミルを握っている。

 爆発で吹き飛ばされたところを、龍殺し達によって捕獲されたのだろう。


「おお、ティア嬢ちゃん、無事だったか?」


 龍殺しからティアを受け取り、抱きかかえたイドゥ。


「い、イドゥ……、ティア、フレス達を手に入れられなかった……。なんだか力も抜けちゃってるの……」

「そうかそうか。別に構わんよ。予定通りだ。ティア嬢ちゃんも疲れただろ? 嬢ちゃんの役割もこれで全て終わり(・・・)だ。さぁ、一緒にメルフィナの所へ帰ろうか」

「……うん、帰る。……やっぱり、メルフィナやイドゥは優しくて良い人。フレスはやっぱり嘘つきだぁ……」


 ティアは幸せそうに呟くと、力なく項垂れた。


「さて、ワシもそろそろ戻るとする。そこの二体の龍とニーズヘッグも、パーティ会場へと案内しよう。心配するな。殺しはしない」

「ニーちゃんは絶対にいかせないからね!」


 フロリアは脱力しきって、ぺたりと座り込んでいるニーズヘッグを抱き寄せた。


「フロリア、お前一人に何が出来る? 一、二体の龍殺しならば相手は出来ようが、こう数がいては無理だろう。ワシとて娘のお前を殺したくはない。黙ってニーズヘッグを差し出せば、お前の命は助けてやる」

「馬鹿を言うなっ! 誰がニーちゃんを渡すかってんだ! イドゥさ、ちょっと私のこと馬鹿にしすぎだって。いくら私の趣味が裏切りでも、絶対に裏切れない人ってのもいるんだ!」

「その龍の為に死ぬと? 実に馬鹿馬鹿しい」

「私が馬鹿ってことは周知の事実だと思ってたけど?」

「やれやれ、ここまでの馬鹿だとは思わなんだよ」


 呆れたと言わんばかりに盛大に嘆息した後、イドゥは右手を挙げる。

 その命令に龍殺しの三体が我先にと前に出た。


「さあ、フロリア。お別れの時間だ。ワシはティア嬢ちゃん達を連れてメルフィナの所へ戻る。ニーズヘッグは後からこいつらに持ってこさせることにする。精々相手してやってくれ」

「待て! …………!?」

「グルルルルル…………!!」


 走り出そうとするフロリアの前で、龍殺しが道を塞ぎ、周りを囲ってくる。


「クソ、邪魔過ぎる……!!」

「さよならだ、フロリア」


 イドゥは龍殺しに囲まれたフロリアの様子を見て、満足げな笑みを浮かべた後、背を向けてフレスとミルを担いだ龍殺しと共に姿を消した。


「ふ……フレス……!! 絶対に……助けるの……!!」


 震える手に力を込め、立ち上がろうとするニーズヘッグだが、やはり身体は言うことを聞かない。

 床に激突しそうになるニーズヘッグを、フロリアが支えた。


「ニーちゃん、ちょっと待ってて……!! 不調の原因はすぐに取り除いてあげるから……!!」


 ニーズヘッグを背に、フロリアは神器の斧を展開し、その切っ先を龍殺しの一体へ向ける。


「お前ら全員ぶっ殺す!! ……って、言いたいところだけど、いくらなんでも分が悪すぎるよねぇ……!!」


 フロリアを囲むように、ずらりと並んだ腐臭漂う凶悪な龍殺し達。

 人間に対して一切の情け容赦ないこいつらは、今すぐにでもフロリアを食い殺さんと牙をむいてきそうだ。

 冷たい汗が全身から噴き出してくる。まさに絶体絶命の大ピンチというやつだ。

 だが、助かる方法がないというわけではない。

 この龍殺しの目的は、ニーズヘッグを連れていくこと。

 つまり今ニーズヘッグを見殺しにして、自分だけが逃げ出せば命は助かるだろう。

 今までの自分なら、すぐさまそうしていたはずだ。

 もっと言うなら、イドゥの指示通りニーズヘッグを渡していたはず。


「……フロ、リア……。……逃げて……なの……」


 突っ伏したニーズヘッグが、そんな甘い言葉を語りかけてくる。


「逃げて……!! 早く……!! フロリアが死んじゃうの……!!」

「ニーちゃんを見捨てて逃げられるわけがないでしょ!?」

「でも……相手は龍殺し……!! この数……! ……無理なの!」

「天才メイドに無理も不可能もないの! いいからニーちゃんはそこで休憩してなさい!」


 どうして頑なにニーズヘッグを守ろうとしているのか、正直自分でも判らなかった。

 頭では理解している。ニーズヘッグの言う通り、逃げることが正しいと。

 助かりたいなら、全てを見捨てて逃げるべきだと。

 それでも何故か意地を張り、ニーズヘッグを守ろう、守りたい、守るべきだと、自分の汚れ腐っていたはずの心が、強く叫んでいた。


「「――グガオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」


 龍殺しが一斉に咆哮し、その内の一体がフロリアを食わんと突っ込んできた。


「くそおおおお!!」


 敵の初撃を交わし、斧を振り下ろす。


「絶対に、絶対にニーちゃんは私が守る!! 守ってみせるよ!!」


 黒い返り血を浴びながらも、フロリアは龍殺し相手に果敢に斧を振るっていた。

 だが1:3という数の差は、明確にフロリアを不利な状況へと追い詰めていく。


「……あっ!」


 全てをギリギリで避けつつ反撃を加えていたフロリアに、計算外のことが生じた。

 いつの間にか自分を囲む龍殺しの数が、五体に増えていたのだ。


「卑怯だよね、1:5ってさぁ……!! あっ……!!」


 ――龍殺しの鋭い爪の一撃を避けた。

 そう思ったフロリアに、死角から別の龍殺しの爪が振り下ろされていた。


「ぐうううっ……!!」


 ナイフより鋭利なその爪は、フロリアの右腕を深々と切り裂いた。

 右手に力が入らなくなり、斧を持つことも難しく、ポロリと落としてしまう。


「……ま、まずいねぇ……!! ここらが潮時なのかな……!?」


 斧を拾おうと手を伸ばすも、筋を切られてしまったのか、腕が思うように動かない。

 血がドクドクと流れ出した影響だろうか、意識すらも朦朧としてくる。

 ちらりと、床に伏せるニーズヘッグを見た。

 ニーズヘッグの闇色の瞳には涙が浮かび、此方へ向かって何か呟いて手を必死に伸ばしている。


(ああ、ニーちゃんが何か言ってる……。多分、敵の攻撃が迫ってるってことだよね……)


 攻撃を悟っても、避ける力すら湧いてこない。

 だからフロリアは目を瞑って、ニーズヘッグに呟き返す。


「……ごめんね、ニーちゃん、ついでにウェイル達。私、皆を守れなかったよ」


 そして思い浮かぶはアレス王の顔。


(ごめん、アレス様。私、『セルク・ラグナロク』を取り戻せなかった)


 そう思った時、ふいに自分自身のことが面白くなって、ヘヘっと笑ってしまった。


(私ってば、どうして最後までセルク作品のことなんて考えてるんだろ……? ……うん、考えちゃうのも仕方ないよね。だって、セルク作品は……私とアレス様を繋げてくれたものだもんね……!!)


 ペタリと床に座り込んだフロリアは、龍殺しから見れば格好のサンドバッグ。

 引き裂き、細切れにせんと、一斉に爪が振りかぶられた。



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