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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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二度と裏切りたくない人のために

 ズゥン……と、王宮全体が揺れたかと思えば、今度はガラスが砕け散った音が響き渡る。

 皆がとっさに廊下まで身を引くと、天井から落ちてきたステンドグラスの破片が、謁見の間に散らばった。

 その様子をこの場にいるほぼ全ての者が驚いていたが、ウェイルと、そして玉座の上に立ったティアだけが、眉一つ動かさずに互いの敵だけを見ていた。


「はあ~い、皆、お待たせー! ……ケホ、ケホ、何これ、埃っぽすぎ!!」


 ステンドグラスの崩壊によって舞い散ったガラス片や埃の中から聞こえてきたのは、聞き覚えのある呑気な声。

 黒と白のゴシックロリータ風のメイド服を着て、紫色の少女を背後に引き連れた女は、文句を垂れつつイドゥの方へと歩いていく。


「やっほ、調子はどう?」

「フロリアか。何しに来た?」

「何しにって、イドゥさん、酷くない? 私一応『異端児(イレギュラー)』に所属していたんだけど!」

「所属していた(・・)、か。実にお前らしい言葉選びだよ。素直に裏切ったと言えばいいものを」

「いやー、流石に裏切った張本人の前では照れちゃって言えないでしょ?」

「照れるよりまず悪びれる方が先だ。ま、我々としてもお前の裏切り行為は昔からずっと見てきているわけだからな。今更どうこう言う気はない」

「あらら、私って信頼されちゃってるのね!」

「単刀直入に聞く。フロリア、お前は今、『異端児』の敵か、味方か?」


 イドゥの眼光が鋭く光る。

 それに対してフロリアも、その眼光も負けまいと睨み返した。


「その問いに答える前に一ついい? こっちも単刀直入に聞くよ? ヴェクトルビアのアレス王の『セルク・ラグナロク』を盗み出したのは、イドゥだよね?」

「さてな、誰に頼んだか忘れたよ。だが間違いなく本物は我々の元にある」

「そう。じゃあさ、今返してよ。あれはアレス王のモノだからさ」

「今返すつもりは毛頭ない。あれに全ての答えが書いてあり、あれがなければこれからの計画に支障が出るからな」

「そんなこと知らないよ。今すぐ返してくれるのか、くれないのか、それだけが聞きたいな」

「今は無理だ」

「そっかぁ、無理かぁ――」


 フロリアは、一旦ふぅと嘆息して、改めて顔を上げた。

 その目は、あの『セルク・オリジン』事件の時に見せた、人を殺すことに一切の躊躇いの無い目になっていた。

 そしてその目は、イドゥに一直線に向いている。


「――なら私はイドゥの敵ってことになる」

「左様か。本当に悲しいことだ。我が愛娘をこの手で殺さねばならないのだからな」


 重苦しい雰囲気を放ちながら、イドゥは右手を横へと伸ばす。

 すると何もないはずの空間から、煌めく長槍が姿を現し、イドゥはそれをがっしりと掴んだ。


「でたね、イドゥの神器……!! 厄介なんだよなぁ、あれ!」


 フロリアは、一度イドゥから距離を取り、ウェイル達の近くまでやって来た。


「ウェイル、遅れちゃってごめんね。ここは私に任せて、先に行ってよ」

「お前、何を言ってるんだ!?」

「イドゥの神器は厄介だよ。私はあれをよく知っているから対策も出来る。それより君達三人は先に行くべきだよ? 多分リーダーがお待ちかねだから」

「い、いいのかい? 任せちゃっても」


 三人、というのはウェイルとテメレイア、シュラディンの事だろう。

 改めてテメレイアが確認を取った。


「いいから行ってってば。私さ、今までずっと誰かを裏切って生きてきたけど、唯一裏切ることが辛かった人がいるんだ」

「アレスのことか」

「……うん。あの人って、王様だから偉いはずの癖に子供っぽいところがあってさ。それが私と合っちゃったのかな、一緒にいて凄く楽しかったんだよね。だからアレスを裏切った時、心の底から胸が痛かった。それにね、ヴェクトルビア乗っ取り事件の時に久々に再会したらさ。アレスってば、泣いて喜んでいてさ。私、本当に嬉しかったんだ。それで思ったんだよ。これからはアレスの為に行動しようって。都合よく『不完全』も潰れちゃったわけだしさ。だから私はここに来た。アレスの大切な宝物を取り戻すためにね! ウェイル達にもやることがあるはず。ここで時間を食うわけにはいかないでしょ? 任せてよ。イドゥをぶっ倒して、後でニーちゃんと助けに行ってあげるからさ!」


 ニコッと微笑むフロリアの顔は、これまで見たこともないほど晴れ晴れとしていて、そして堂々とした表情だった。

 今のフロリアなら、心から信頼できると、そう思えるほどに。


「……レイア、行くぞ」

「……うん」

「フレス! ミル! 後は頼む!」

「任せて! ボクとミルでティアを止める!!」

「早く行くのじゃ!」


 ウェイルとテメレイアは互いに顔を見合わせると、一度頷いてフロリアに言った。


「……フロリア、死ぬなよ」

「あったりまえじゃん! そっちこそ死なないでよね」

「あたりまえだ!」


 そんなやり取りの後、ウェイルとテメレイアは互いの龍とフロリアに任せて、シュラディンを先頭にその場を離れた。


「話はまとまったか? フロリアが相手してくれるのだろう? ……なるほどな」


 何故か満足げに顎を掻くイドゥを前にして、フロリアはニーズヘッグに告げる。


「ニーちゃん、イドゥは私がやる。だからニーちゃんはフレス達を手伝ってあげて」

「……フロリア……大丈夫……なの……?」

「大丈夫だって。だって相手は老いぼれ一人だよ? それよりもまずいのはあっちのティア。龍の相手はニーちゃん達にしか出来ないからさ」

「でも……心配なの……!!」

「あはは、ありがと! でも、ニーちゃんはフレスを手伝ってあげてよ」


 ニーズヘッグに心配してもらえるなんて、正直驚いたし、何より嬉しかった。

 出来ることならニーズヘッグの援助は欲しい。

 だがもう片方の敵は最凶の龍、ティアだ。

 例えフレスとミルの二人がかりで相手したとしても、勝てるかどうかは判らない。

 最もまずい敵に最大限の戦力を割かねば、この場は切り抜けることは出来ないだろう。


「フロリア……」

「ならさ、早くそっちを片づけてよ。そしたら一緒にイドゥを倒せばいいんじゃない?」


 フロリアはそう高らかに宣言した後のこと。

 これはイドゥに気付かれないように、こっそりと音を出さずに唇を動かした。


「………………うん……判ったの……!! 任せるの……!!」

「よーし、じゃあ、やっちゃおうか! お互いにね!」

「うん、なの……!!」


 消極的な性格のニーズヘッグにしては、珍しく強めの返事をしてくれた。

 少し心配げにこちらをチラチラと見て来ながらも、ニーズヘッグはフレス達の方へと向かっていった。



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