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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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玉座に座る龍

――大階段が崩れた同じ時間。


「ウェイル、凄い音がしたよ!?」

「ああ。だが気にしている余裕はない。俺達は目の前の敵を倒すことだけに集中だ」

「……うん。そういえばイレイズさん、サラーを頼むって言っていたけど、サラー、どうなっちゃったのかな……?」

「サラーはイレイズを助けに行ったんだろ? そのイレイズがここにいて、助けに向かったサラーがいない。そしてイレイズの台詞から、サラーの身に何が起こったのか、ある程度の見当は付けられるだろ」

「サラーは普通の人間に負けるような間抜けでもないし、弱くもないよ。……だからやっぱり関わっているんだと思う――ティアが」


 ――光の龍、ティア。

 炎の龍サラーの実力を上回る者がいるとすれば、それはティア以外にあり得ない。


「サラーはティアに負けたんだ。だからこんなことに……!!」

「フレス、考えるのは後でいい。どうせティアとはぶつかるんだ。その時に答えも分かるはずだ」

「……うん」


 王宮の上の階より感じる龍の気配。

 この階段を昇った先に、ティアはいることを、フレスは感じていた。


「階段を昇れば、書斎はすぐそこだ。……皆、行くぞ」


 この階段を昇れば死闘が始まる。

 そう確信できるほどの禍々しい魔力が、階段の上からドライアイスの様に降りてきていた。

 シュラディンを先頭に、皆無言で、そして覚悟を決めて階段を駆け上がっていった。






 ――●○●○●○―― 






 ――フェルアリア王宮、三階。


 巨大な気配はあるものの、石畳の廊下は一階での戦闘を忘れ去らせてくれるほど静かで、ひんやりと冷たい空気が漂っていた。


「この廊下の先に大きい空間がある。謁見の間だ。書斎は謁見の間の奥、右側の廊下から行ける」

「……この先に、ティアの気配と魔力を感じるよ……!!」


 一歩一歩進む度に感じる、吐き気すら覚える不快な魔力。

 廊下を抜け、視界が一気に広くなる。

 フェルタリア王宮、王への謁見の間。

 中央に備え付けられた豪華な装飾の玉座が、一同を見下ろしてくる。


「来たね、フレス、ミル!」

「ティア……!!」


 玉座に堂々と腰掛け、皆を見下してくるのは、光の龍の少女ティア。

 彼女の放つ光の魔力で、薄暗いはずの謁見の間は、みるみる内に光り輝いていく。

 ティアが部屋の隅々まで光を行き渡らせたおかげで、この間の煌びやかな装飾が、一層際立って見えた。

 天使の姿が描かれたステンドグラスが天窓を彩り、煌びやかなシャンデリアは二十年分の埃や蜘蛛の巣などによる風化や劣化すら隠し通せるほどに光り輝いている。

 部屋の奥に設置された巨大なピアノも、今にも演奏が始まりそうな迫力があった。


「懐かしいな」

「……うん」


 ぽつりと漏らしたウェイルの独り言に、フレスも頷いていた。

 二十年前のあの日から、ようやく戻って来れた謁見の間。

 昔、自分はあの玉座の隣に立っていた。

 それはメルフィナの影としてであったが、それでも確かに自分はそこに存在していたのだ。


「……その玉座はお前のためのものじゃない。退け」

「ウェイル……」


 ウェイルは努めて冷静に言い放ったが、シュラディンやテメレイアは気づいていた。

 ウェイルは今、心の底から怒っていることを。

 フェルタリア王家を継ぐ覚悟を持つ者として、その玉座を犯す者に一切の容赦はしないと、その声から感じ取れた。


「ん~? ティア、ここに座っちゃいけないの? 誰が決めたの?」


 アハハと嘲笑するティアに、ウェイルはさらに冷たく告げた。


「退け。さもなくば力尽くで排除する」

「力尽く? アハハハハ、人間の君が、龍であるティアを!? 無理無理! ね、イドゥ?」

「ああ、不可能だ」


 ティアの横に静かに佇んでいたイドゥと呼ばれた老人が、しわがれた声で同意した。


「あいつがイドゥか……。『異端児(イレギュラー)』という組織を作り、『不完全』を潰した張本人……!!」


 奴こそが仇の仇。

 復讐心に燃えるウェイルにとって、生きる目的ですらあった仇敵を、先に潰した連中の親玉だ。


「鑑定士殿よ、ここまでよくおいでなさった。感謝しなければならないな。我が目的の龍をわざわざ連れてきてくれたことに」

「感謝? おいおい、その言葉の意味を正しく理解しているのか? まさか自分達の計画を潰して欲しいと、そう思っているのか? それなら感謝してくれて構わないな。俺達は最初からそのつもりだからな」

「若造が。調子に乗った口を叩いてくれる。なるほど、生意気なところはメルフィナに似ているな。流石は影といったところか」

「……光と影は一つにはならない。俺は影。光とは正反対の人間だ!!」


 氷の剣を精製し、腕と融合させる。

 剣の切っ先をイドゥに向けて、ウェイルは叫ぶ。


「俺はメルフィナとの因縁に決着をつけに来た! ここは素直に通してもらう!!」

「断ると言ったら?」

「言ったはずだ! 力尽くで、とな!!」

「ふん、それはこっちも同じで気持ちでな。メルフィナと理想の世界のため、お前達を力尽くで排除する。それにな。実の所お前らを許す気は毛頭無いのだ。大切な息子と娘を殺されたのだからな。仇はとらせてもらう!! ティア嬢ちゃん、龍の方は任せる!」

「まっかせてー!」


 ティアが翼を広げ、イドゥが槍を構え、それに応じるようにウェイル達も身構えた。


 ――その時である。


 巨大な音が鳴り響いたと同時に、天井からステンドグラスの破片が落下してきたのだ。


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