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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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反撃の囁き

「あー、ゴミを掃除すると、やっぱりスッキリするな」

「ルシャブテ、キサマぁあああああああああ!!」

「いいねぇ、瞳に怒りの色が灯ってるぜ! こうでなきゃよぉ!!」


 大切な友人から守ってくれと託された少女を、ゴミと罵られ、爪の餌食とされた。

 ギルパーニャを守れなかった自分自身も情けないが、それ以上にルシャブテに対する憎悪が溢れる。

 その憎悪はダイヤの拳となって、ルシャブテの顔面を殴らんと再び振りかぶった。

 しかし、その一撃は虚しく空を切る。


「おいおい、イレイズ、ちょっと熱くなりすぎだぜ? いつもはもっとクールだろうに」

「黙れ!! お前だけは許さない!!」 


 何発も連続で拳を打ち込んだが、ルシャブテは軽い身のこなしで、或いは転移しながら全ての攻撃を躱していく。


「そんな大振りが、この俺に当たるわけがないだろう?」

「…………」


 イレイズはしばし無言で拳を放ち続けた。

 一方的な回避ばかりの中、ルシャブテは余裕気に笑いながら言う。


「俺とお前、よく一緒にタッグ組んでいたよなぁ。実はその頃から思っていたんだが、やはり王族の血の入った人間の瞳というのは、どこか普通の人間の瞳の色とは違うんだ。お前の目からは、滾るような力強さを感じるんだよ。俺はそういう目が大好きでな。もう欲しくて欲しくて、ずっと殺して奪ってやろうと思っていたんだよぉ!!」


 ルシャブテの魔力は『蛇龍の爪(スメイル・ネイル)』へ集中し、爪は一気に鋭さを増して伸びていく。


 ――反撃が来る。


 それは理解出来たものの、イレイズはお構いなしに攻撃の手を緩めなかった。


「お前のダイヤの部分は拳だけだったよな!! 他の部分、例えば顔はどうなってるかなぁ!?」


 爪はイレイズの周囲をぐるぐると取り囲むように伸びていく。

 そして次第にそれは渦巻く円のような形となった。

 円の中心はイレイズだ。

 取り囲んでいた爪は、螺旋を描きながら四方八方からイレイズに向かって伸びてきた。


「好きな爪を砕け。残りは全部お前の身体にくれてやる!」

「…………くっ!!」


 ――そして爪は、一気に中央で交差した。


「……姿が消えた?」


 イレイズの身体が真っ二つになれば、その上半身は爪の上に乗るはず。


「意外に冷静じゃないか」

「…………」


 イレイズは無事だった。

 爪が衝突する寸前、床に寝そべり、爪をやり過ごしたのだ。

 目と鼻の先に爪があるので、本当にギリギリだった。


「だがな、俺がそれを読んでないとでも思っているのか?」


 突如、頭上の爪が消える。

 それどころか、自分が今の今まで見ていた風景すらも変容する。

 身体の体勢もおかしい。

 今、自分は寝そべっていたはずであるのに、何故か立っている。

 そしてついでに――目の前にルシャブテの姿があった。


「いらっしゃい、王子様!!」

「…………グッ!!」

「ちっ、心臓狙ってやったのにな……!」


 ルシャブテの爪が、イレイズの脇腹に突き刺さっている。

 突然の出来事ではあったが、イレイズの身体は何とか反応してくれたようだ。

 そのおかげで、少しだけ身体をひねることが出来て、それが致命傷を避けてくれた。


「やっぱり身体は生身か」

「痛っ……!!」


 腹から血がドクドクと流れ、急激に身体から力が抜けていく。

 だが、そのおかげかどうかは判らぬが、心臓の鼓動の音が大きくなっていくと同時に、頭の回転が速くなっていく気がする。


(……またも転移……!! ギルパーニャさんの時のことを考えても、やはり自分と相手、どちらも自由に転移可能ですか……!! 転移距離は……おそらく奴を中心に半径十メートル前後……!!)


 先程からルシャブテが少しだがイレイズの方へ向かって歩いてきているのも、その距離を保つためか。

 その範囲内でないの、自分の移動も、相手を引き寄せることも出来ないのかも知れない。

 そんなことを考えているうちに、脇腹の痛みが激しさを増していく。


(……動けるので傷はそんなに深くはなさそうですが、痛みがキツイ……!! 早く決着をつけないと動けなくなる……!!)


「ほら、もう一度だ!」


 複数の爪が集まって、一つの巨大な爪となって襲い掛かってくる。


(……今度は転移を使わない……! なるほど、あれにも再使用可能時間(リキャストタイム)が必要なのですね……!! おおよその時間も判りました。くっ……!! ですがこの傷では避けられない……!!)


 脇腹の痛みが激しく、身体が思うように動かない。

 ならば手は一つ。


「これならば……!!」


 ダイヤの腕でクロスガードし、攻撃を受け止めたが、その勢いを踏ん張りきれる力も残ってはいない。


「ググ……、厳しいですね……ッ!! ――うわっ!?」


 衝撃に耐えきれず吹き飛ばされるイレイズ。

 偶然にもその方向は、ギルパーニャがいるところだった。


(ぎ、ギルパーニャさん……!!)


 身体を起こして、チラリとギルパーニャの方を見た――その時。


(……ギルパーニャさん……?)


 ギルパーニャの様子が、少しおかしいことに気付く。

 よく見ると、先程吹き飛ばされた時にはしてなかった(・・・・・・)ものがある。


(まさか……?)


 ギルパーニャへ、よろけるふりをしてさりげなく近づいた。

 そして気づく。ギルパーニャが、何か小さく囁いていることを。


(…………!? ……りょ、了解しました……!!)


「おうおう、二人仲良くお寝んねってか? だがイレイズ、お前はもう少し俺と遊んでもらう!!」


(時間はそろそろ二十秒!! ……一つ試してみましょう……!!)



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