爪とダイヤ
――イレイズにとってルシャブテは、かつての仲間であった。
イレイズが『不完全』に属することになってから、事あるごとに二人は組まされていた。
仲が良かったわけでも、能力の相性が良かったわけでも決してない。
ただ単に偶然だ。偶然一緒になって行動することが多かっただけの話だ。
とはいえ、組むことが多かった以上、二人の話す機会は多かった。
ルシャブテは『不完全』内でも、その趣味の悪さから周囲から距離を置かれ、同時に恐れられてもいた。
それ故にルシャブテに近づく物好きは、イレイズと、そしてスメラギくらいなものであった。
ルシャブテとしても普通に会話をすることが出来るイレイズという存在は貴重で、仲が良いとはいかないまでも、本音を吐くことの出来る数少ない人間であった。
正直言えば、イレイズはいつもルシャブテと組まされることに不満を持っていた。
彼の近くにいれば、血を見る回数が必ず増える。
パートナーであるサラーも、ルシャブテのことを嫌っていたし、出来ることならば組みたくはなかった。
しかしながら二人が組んだ時は、作戦はいつも成功を収めていたので、上層部からは更なる期待と一緒に、次のタッグも内定されてしまっていたのである。
――●○●○●○――
そういうわけで、イレイズはいつも任務の度にルシャブテの神器を間近で見てきていた。
――彼の持つ神器は二つ。
付け爪の装備系神器『蛇龍の爪』。
マント型の転移系神器『透明世界の黒羽』。
前者の『蛇龍の爪』自体は、厄介ではあるが、割とどうとでもなる神器だ。
無限に伸び、無限に復活する爪は、鋭利なナイフのような切れ味を持つものの、その強度は高いとは言えない。
アムステリアのキックやイレイズの拳でも、十分に砕ける程度の強度だ。
問題なのは、後者だ。
この神器について、イレイズはあまり詳しくはない。
ただ知っているのは、何でも転移させることが可能なこと。
転移する際は、わずかに時空が歪んで見え、また転移先にも同様な現象が起こる。
つまり注意深く観察していれば、どのタイミングでどこに移動するのか予測可能だ。
判らないのは、転移の有効範囲と、そして転移の条件。
どれほど転移可能かは判らないが、そもそも転移術はさほど長距離を移動できないはず。
せいぜいこの王宮内くらいしか転移できないだろう。
そして転移術は膨大な魔力を用いる。その使用には何らかの制限があるはずだ。
それらを突き止めることが、ルシャブテを倒す近道となる。
「とりあえず一度転移させましょう!!」
アムステリアの投げた勢いのまま、イレイズはダイヤで出来た隕石にでもなった気分でルシャブテへと突っ込んでみる。
当然、ルシャブテがこのままやられるわけも無く、彼の姿の背後に歪みが生まれ、そして姿を消した。
(どこへ……?)
「え、えっと、イレイズさんだっけ、上、上!!」
ギルパーニャが天井に指差し叫び、イレイズもそれを確認する。
「貴様の目も抉ってやる……!!」
空間の歪みが消えた瞬間にルシャブテの姿が現れ、彼は『蛇龍の爪』を発動させた。
「なんの!!」
低空飛行移動中のイレイズが次にとった行動は、己の拳を床に叩きつけることだった。
ズゴンという音と共に、火花を散らせながら床を砕き、減速していく。
「今です!!」
今にも壁に衝突しそうというその瞬間、イレイズはダイヤとなった指を床に食い込ませた。
減速しているとはいえ、それなりのスピードが出た身体に、突如急ブレーキが掛かったのだから、一瞬身体がふわりと浮かぶ。
そこでイレイズは身体を回転させて、壁の方へ足を向けた。
壁にぶつかった瞬間、壁キックの要領で再びルシャブテへと突っ込んでいく。
「全身貫いてやる!!」
「その程度の爪であれば、私のダイヤで砕いてしまいますよ!!」
飛び掛ってくる爪を、イレイズのダイヤの拳は全て叩き砕いていく。
何本か叩き落せず身体を掠ったが、所詮掠っただけでは減速もしない。
「今度はこっちの番です!!」
壁キックによるスピードは思いの他速く、ルシャブテが爪を発射した二秒後には、もう二人は互いの拳の届く距離まで接近していた。
「何……!? ――――ぐぼぉっ!!」
驚くルシャブテの顔に、イレイズ渾身の一発がクリーンヒット。
ダイヤの拳を顔にめり込ませたまま、イレイズは拳を振り切ってルシャブテを床に叩きつけた。




