表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
717/763

中央階段の剣姫

 時刻は午後七時半。

 この時期の日の入りは早く、辺りはすでに闇の静寂に包まれている。


 ――フェルタリア王宮、地下用水路。


 正面の巨大門を回避して、その隣にある用水路の小道から王宮へと侵入することにした一行は、フレスとミルの手から放たれる魔力光を頼りに薄暗い道を進んでいた。


「ここだ」


 シュラディンはとあるレンガ造りの壁の前に立つと、そこに右手を当てる。

 少しばかりの魔力光が生じたかと思うと、壁はズズズと音を立てて、横にスライドしていく。


「今でこそフェルタリアは『滅亡都市』と呼ばれているが、元々の二つ名は『神器都市』だった。昔は錬金都市サバティエル以上に神器の生産が盛んだったのだ。当然フェルタリア王宮には、数々の神器による仕掛けが施されている

「ここもその一つということだな」

「これより先は王宮内だ。目的地は王の書斎。場所は三階だ。階段から北西へ進んだ三つの目の部屋だ。おそらくメルフィナは、書斎奥の隠し部屋にいるはず」

「三階か……」


 近づけば近づくほど判る、この王宮の巨大さ。

 規模にして王都ヴェクトルビア宮殿の二倍以上はあるだろうか。


「『異端児(イレギュラー)』の内、すでに三人は倒した。残りのメンバーは何人だ?」

「メルフィナにイドゥ。それに大剣を振るうアノエって女と、ルシャブテね」

「そいつらと光の龍が残っているわけだな」

「もし奴らと遭遇したら、皆で立ち向かう必要はない。何人かで食い止め、他は先に進むばいい」

「問題はティアが現れた場合だよ。龍の相手は同じ龍じゃないと戦えない。だからティアが出てきたらボクとミルが二人がかりでやる。サラーがやっつけてくれていればいいんだけど、それでも万が一を考えないと」


 先に侵入したサラーと、そしてイレイズのことも気になる。


「二人共、無事でいてくれたらいいんだが……」


 何とかしてイレイズを救出したいが、そんな余裕があるかどうかも判らない。


「ウェイル。用水路の行き止まりだ。この真上が蓋になっていて、王宮に繋がっている」


 シュラディンが歩みを止めて、上を見上げる。

 上に続く梯子がついてあり、その先からは若干の風の音が聞こえて来た。


「皆、行くぞ……! 気を引き締めろ……!!」

「「「…………!」」」


 一同、無言で頷いた。

 シュラディンを先頭に梯子を昇り、ついに王宮内へと侵入した。





 ――●○●○●○――





 ――フェルタリア王宮、一階。


「一階から上に昇る階段は中央広間にある。急ぐぞ」


 シュラディンの後に続いて、全員が無言で走る。

 周囲への警戒を怠ることなく、細心の注意を払って走っていたのだが、ウェイルの視線はというと、王宮の廊下全体にあった。

 こんな時に不謹慎かも知れないが、王宮内の光景に懐かしさを覚えていた。


(……そう言えばこんな所だったか……、なんだか自宅へ帰ってきた気分だ)


 幼少期の記憶を辿ると浮かんでくる、王宮の内装。

 かなり風化しているものの、当時の記憶そのままの光景だった。

 フレスとミルの魔力光に照らされて、廊下に飾られた絵画の数々が視界に映る。

 この中には、もしかすればセルク作品すら眠っているのかも知れない。


「あそこだ」


 廊下を抜けると、大きな吹き抜けが現れる。

 その奥には巨大な階段があった。

 廊下は真っ暗であったと言うのに、この吹き抜けだけは、天窓から入る月明かりによって光り輝いていた。


「やっと、来た」

「……おでましだな……!!」


 そんな階段の中二階。

 まるで月明りのスポットライトを浴びるかのように、銀色の大剣を携えた少女が笑う。

 ぎらつく銀色の刃は、月明かりを反射して美しい刀身を艶めかしく曝け出していた。

 銀色の刃と、それを握る女の圧倒的な殺意に、全員が一瞬足が竦んだ。

 月を仰ぐ少女は、ゆっくりと剣を掲げ、そして言葉を紡ぎ出す。


「待ってた。きっとお前達はここに来ると思ってた。イドゥとリーダーの邪魔をしに、ね」


 ゾクッとするほどの、冷たい声。

 大の大人が三人がかりでも担ぐのは困難であろうほどの超巨大な剣を、彼女はスラリと伸びる細い右手で軽々と持ち上げ、それを床に振り下ろした。

 階段全体に地響きが走り、床の砕け、ぴしぴしと亀裂の入る。

 もう一度剣を持ち上げて、彼女は一同の前に立ち塞がった。


「アノエちゃんね? そこをどいてくださるかしら?」


 超巨大な大剣を振るう女、アノエ。

 化け物染みたアノエに対抗できるのは、同じく化け物染みた身体能力を持つアムステリアだけだった。

 アムステリアは不敵な笑みを浮かべて、アノエの剣の間合いに踏み込んでいく。


「貴方は私達にとってはとっても邪魔なの。退いてくれる? それともまたボコボコになりたいのかしら?」

「お前はアムステリア……!! お前は私が絶対に殺す……!!」

「だそうよ、ウェイル。ということでここは私が引き受けるわ」

「誰一人通す気はない。全員ここで死ぬ」

「――来るぞ……!!」


 アノエは剣を握りしめた瞬間、一気に床を蹴り、飛翔して階段から降りてきた。

 その勢いを利用して、剣を思いっきり叩き付ける。

 またもこの場全体が揺れ、爆発音に似た音が轟いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ