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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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最終決戦の舞台上へ


 ――数分後、テメレイアとイルアリルマは、手に大量の衣服を持って戻ってきた。

 その頃にはミルの治療も終わり、アムステリアはケロッとした顔で意識を取り戻していた。


「なんか複雑よね。二十年も前の衣服が、これほど綺麗な状態で残っているだなんて。まるで時間が止まっていたみたい」


 気に入ったデザインの服があったのか、少し楽しげにスリットの入ったドレスを選んでいた。


「ふぅ、落ち着いた。緑の龍の娘、助かったわ。ありがとう」

「うむ。……しかしお主の身体は一体どうなっておるのじゃ? どれだけ魔力を送っても、容量が一杯になる気がせなんだ。正直全然効いていないと思って焦ったぞ」

「私の身体は普通じゃないから。何せ心臓がないんだもの。代わりに神器が埋め込まれてあるのよ」


 アムステリアは、心臓の代わりに神器『無限龍心(ドラゴン・ハート)』によって生かされている。


「『無限龍心』のおかげで、私の肉体は老けることもなく傷つくこともない。どんな傷でもすぐに治癒されてしまうの。まるで龍みたいでしょ?」


 自慢げにこう言っているが、ある意味でそれは悲しいことであるし、そのことをアムステリアが密かに嘆いていることをウェイルは知っている。


「……スメラギはどうなった?」


「殺した」


 アムステリアは、あっけらかんと答えた。


「何故服がなかったんだい? まあ、スメラギって子の持つ神器の能力を考えれば想像はつくけどさ」

「想像通りよ。全部溶かされちゃったの。私の身体ごと溶かそうとしたみたいだけど、生憎私は身体が如何にドロドロに溶けようともすぐに再生してしまうからね。攻撃を全身で受けつつ、強引に蹴り殺してやったわ。おかげで相当身体に負担が掛かったみたいでね、ちょっと眠っちゃったわ。ギルパーニャが運んでくれたんでしょ? ありがとうね」

「いやぁ、どういたしまして~」


 アムステリアから礼を言われるのは初めてだったので、つい照れてしまう。

 そんなギルパーニャの元へやってきたのがイルアリルマ。


「私、ギルさんは先に行ったものとばかり思っていました」

「リルさんが戦っているのに、私だけ逃げるのもなんだかなーって思ってさ」

「あれは私のワガママを聞いてもらっただけですから」

「必要無いかも知れないけど、アムステリアさんを手伝おうと思って引き返したんだ。そしたら裸で倒れているんだもん。びっくりしちゃったよ!」


 周囲にあった酸の壁は消滅していたので、メインストリートのド真ん中で裸の女性が倒れていたということであり、発見した時はさぞかし驚いた。


「それにいいものも手に入ったんだ~!」


 ニヒヒと笑うギルパーニャ。

 この笑いをするときは、何かをときめく品を拾ってきた時だ。


「ギル、何を拾ったんだ?」

「うーんとね、今は内緒にしておく。切り札は隠しておかなくちゃね」


 どうやら教えてはくれる気はないようだ。

 アムステリアも復活し、ついに全員がこの場に揃った。


「とりあえず皆揃った――そういえばサラーはどうした?」

「サラーは先に王宮へ入ったよ。イレイズさんを助けるためにね」

「……無事ならいいんだが」


 ウェイルはシュラディンの方を見ると、神妙の面持ちで頷いてきた。

 何せここから先は敵の本拠地。

 どんな罠を仕掛け、どんな手を打ってくるか判らない。

 これ以上先は、誰の命の保証も出来ない。

 もし仮に誰かが倒れたとしても、助ける余裕はないだろう。

 皆の前に出たシュラディンは一度咳払いをして、そして語気を荒げ告げた。


「ここから先はワシが案内する。これだけは言っておく。ワシは老いぼれだ。出来るのは案内のみ。だから皆は全力でワシを守り、目的地であるフェルタクスのある場所へと向かってくれ。誰が倒れても、もう助けることは出来ん。敵が目の前に現れたら、自分の力だけで対処せねばならない。命の保証は一切ない。それでも行くと、そう思う者のみ、一歩前に出ろ!」


 シュラディンの喝に一同、目が鋭くなる。

 誰もが沈黙する中、最初に一歩踏み出したのはフレスだった。


「行くに決まってる。ボクは絶対に、奴らを許すことは出来ないんだ! ライラの為にも、ボクは戦う!!」


 続いて出たのはウェイル。


「故郷を救う。俺は影なる存在だったが、(メルフィナ)以上に故郷に対する気持ちはある。フェルタリア王の意思、セルクの意思、それらはこの俺が引き継ぐ」

「ウェイルが行くなら僕だって同じ気持ちさ。死ぬ時もウェイルと同じがいいと、ずっと願っていたのさ。もっとも死ぬつもりはないけどね」

「あら、テメレイア。なかなか言うじゃない? 腹は立つけどその覚悟、気に入ったわ。私の身体は死ぬことが出来ない呪いに掛かっている。ならその呪いをウェイルの為に使ってあげたい。あの時私の心を救ってくれたウェイルの為にね」


 テメレイアとアムステリアは、互いに拳をコツンとぶつけながら、二人で一歩前に出た。


「レイアの行くとこ、我ありじゃ!」

「ルシカをそそのかした贋作士イドゥを、私は絶対に許しません。命をもって償ってもらいます……!!」

「わ、私だって、師匠やウェイルにぃの力になりたい! そりゃ皆みたいに強くないし、めちゃくちゃ怖いけどさ……。……それでも残されるのだけは絶対に嫌だ!」


 ミル、イルアリルマが前に出たのを見て、ギルパーニャも決心して前に出る。


「ギル……」


 正直な話ウェイルもシュラディンも、これ以上ギルパーニャには付いて来て欲しくないと思っている。

 だからこそ、ある意味こんな茶番を入れて、ギルパーニャにはここに残ってもらおうと考えていた。


 しかし、ウェイルやシュラディンにもしものことがあった時、ギルパーニャは独りぼっちになってしまう。

 それだけは絶対に嫌だというギルパーニャの気持ちも痛いほど判るので、二人はもう何も言わなかった。


「よし、皆の覚悟、伝わった。案内しよう。そして最初に言っておく。ワシのことは案内が終わり次第、切り捨ててくれ。ワシは責任を持って最後まで役割を全うする。その後のことは、ワシ自身で責任を持つ。もしワシが襲われていても、放って自分の役割を遂行するのだ。いいな?」


 この言葉に、皆ゆっくりと頷いた。

 シュラディンが言ったことは、全員にも当てはまる事。

 生かすは個人ではなく皆。

 いざという時、皆を助けるために自分を捨てる覚悟。

 今この瞬間、その覚悟を持つことを心に誓った。


「行こう」


 シュラディンを先頭に、王宮へと向かう。

 巨大な門の横にある用水路の小道から、王宮へと入っていく。


 ――フェルタリア王宮。


 その最終決戦の舞台上へ、ウェイル達は上がっていった。





 ――●○●○●○――





「どう? ニーちゃん。フェルタリアの空は?」

「久しぶり、なの……。でも、あんまり良い思い出じゃ、ないけど……」


 フェルタリアの上空。

 そこにはあの二十年前の時の様に、紫色の闇の翼を携えた龍の姿があったという。


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