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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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フェルタクスの眠り姫

 ――フェルタリア王宮、書斎の間。


 この書斎には、フェルタリア王のコレクションした貴重な書物が所蔵されており、図書館都市シルヴァンの閲覧規制書物に勝るとも劣らない貴重な本がたくさんある。

 しかしそんなレアな本でさえ、この書斎の秘密に比べたら大した代物ではない。

 書斎の本棚の一部に仕掛けが施され、隠し扉となっている。

 その隠し扉を抜けた奥の部屋にこそ、フェルタリア王家最大の秘密である三種の神器『異次元反響砲フェルタクス』が佇んでいる。


「しかし凄まじい迫力だな。同じ三種の神器でも、ケルキューレとはまた違う圧迫感がある」

「どちらかというとケルキューレは美しいって感じだからね。その点フェルタクスは禍々しさを感じるよ! ああ、本当にここへ帰ってこれたんだね! いやぁ、懐かしいなぁ!!」


 二十年振りに見るフェルタクスに、メルフィナは興奮を抑えきれないと言葉を弾ませていた。

 この暗く冷たい部屋は、メルフィナにとっては我が家のように落ち着く空間だ。

 まるであの時からこの部屋だけ時間が止まっているかのような、そんな錯覚にすら陥る。

 この部屋の明かりを灯す仕掛けもそのまま生きており、そのことがまたメルフィナを感動させた。


「しかしメルフィナよ。ワシは少し不安だ。本当にこいつを動かすことが出来るのかどうか」

「出来るよ。そのために色々と準備してきたわけじゃない? どんな犠牲を払ってでも、全てを捨ててここまで来た。手元には鍵たるケルキューレにサウンドコイン。あと必要なのは、『アテナ』と龍と、そして――ピアノ奏者」

「メルフィナよ、確かに我々はそのほとんど全てを集めきった。龍とアテナについては、すでにこの都市に集結しているはずであるし、アテナは細かい魔力制御に必要なだけであって、絶対に必須というわけではない。だが我々は必須要素の一つをまだ手に入れていない。ピアノ奏者だ。この点をどうするつもりだ? まさかお前さんがピアノを弾くわけではあるまい」

「弾けるわけないよ。それにフェルタクスをコントロールする曲は、生半可なピアノ奏者では無理だよ。魂が歌に汚染されてしまって廃人になっちゃうし」

「なら一体どうするつもりだ? お前さんがピアノ奏者については心配しなくていいと豪語するから、今までは任せていた。そろそろ種明かしをしてくれ」

「種明かしも何も、ピアノ奏者は既にフェルタクスに着席済みなんだよ。フェルタリア音楽史に残る最高のピアノ奏者がね」


 そしてメルフィナは顔を上げて、フェルタクスのコントロールユニットの方へ目を向けた。


「久しぶりだねぇ……――――アイリーンお姉ちゃん?」

「な……、誰だ……?」


 ――コントロールユニットにある巨大な鍵盤の前。

 美しいほどに輝く白き肌の腕をすらりと伸ばし、端麗な指を鍵盤の上においた状態の、見目麗しい女性が、ピクリとも動かずにその場に佇んでいた。


「メルフィナ。誰なんだ、あれは!?」

「あの人はね、僕の婚約者なんだよ? 二十年もずっとあそこで、僕を待っててくれたんだ」


 二十年前のフェルタリア崩壊の日。

 ライラが復元した神なる曲を奏でたアイリーンという貴族の娘がいた。

 アイリーンの奏でる鍵盤の音は、フェルタクスを歪に動作させ、そしてフェルタリアを音のない都市に変えた。

 演奏中、フェルタクスの魔力に魂を囚われたアイリーンは、その身体を永遠の時間の中に引きずりこまれた。


「お姉ちゃんはね、フェルタクスによって、時間の流れから弾き出されたんだ」

「……時が止まっているのか……!!」


 ――二十年。

 その間にアイリーンの身体は朽ちることなく、その美しい姿のままで保存されていたのだ。


「死んでいるのか?」

「魂はなくなっていると思う。だからこそ、僕達は()()大監獄(コキュートス)から盗んだのだから」


 メルフィナの手元にある、黒いリング形の神器。


「『無限地獄の風穴コキュートス・ホールゲート』で、アイリーンお姉ちゃんの魂を呼び出して元に戻す。最高のピアノ奏者の復活さ……!!」


 死者の魂と肉体を蘇らせる最凶の神器、『無限地獄の風穴コキュートス・ホールゲート』。

 この場合アイリーンの身体はすでにあるため、魂だけ蘇らせ、身体に入れてやればいい。


「そのアイリーンというのは、復活した後ピアノを弾けるんだろうな?」


 完全なる肉体に魂が戻ったとき、果たしてアイリーンはどうなるのか、他のゾンビのようになるのか全く判らない。

 何せ二十年も固まっていたのだ。最悪ピアノを弾けないすら可能性もある。

 そうなった場合、今までの準備は全て無駄となってしまう。

 そんな懸念から、イドゥはメルフィナに尋ねたのだが、そのメルフィナはというと――


「弾けるよ。アイリーンお姉ちゃんならね」


 ――と、そう即答した。


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