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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
第一部 第二章 競売都市マリアステル編 『贋作士と違法品』
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サラー救出作戦

「そろそろ相談は終ったのかしら?」

「そっちこそ、蹴飛ばしてやったワニちゃんの調子はいかがかしら?」

「ええ、おかげさまでピンピンしてるわ。これでようやく貴方達のつまらない顔を見なくて済む」

「捕まって牢屋にぶち込まれるんだから、見られるはずもないだろ」


 クランポールの上に立つ余裕しゃくしゃくなエリクに、ウェイルとアムステリアは皮肉を返してやる。

 それにムッとしたようで、エリクの語気が少しだけ荒くなった。


「皮肉だけは超一流ね、二流鑑定士さん? もう終わらせましょう。いい加減、言葉を交わすのも不快になってきた」

「終わらせるのには賛成だ。しかし果たして終るのはどっちだろうな?」

「はったりかしら? 貴方達にこの子(クランポール)らを倒す術なんてないでしょう?」

「さてな。倒す術があるのかないのか、その目でしっかり確かめてみたらいい。 偽者とはいえ鑑定士の秘書だったんだからな。いくぞ、フレス!」

「うん! ……あだっ!」


 目を瞑り、フレスと唇を重ねる。

 サラーの命が掛かっているという状況と、二回目ということもあって、緊張なく接吻を交わせた。

 ただ二人とも勢いがあったものだから、歯と歯がぶつかって少し痛かったというところが誤算である。

 口付けが交わされた瞬間から、フレスの身体からは膨大な魔力が噴出し、蒼い光が周囲を包んでいく。

 蒼い光の後に現れたのは、雪のように輝く翼持つ神龍、フレスベルグであった。


『師匠よ。接吻はもう少し優しくするものだ』

「こっちだって痛かったんだ。文句を言うな」

『人間の雄は、雌に対して配慮が足りん』

「慣れてないんだよ! もういいだろ!?」


 キスの仕方について口うるさいドラゴンの姿に、イレイズはフフフと笑い、アムステリアは何が起きたか理解出来ず、ポカンと口を開けて唖然としていた。

 対してエリクは冷静だった。

 エリクはフレスが龍であることを知っていたし、この状況になることを予想していたのかも知れない。


「あらあら、龍が出てきちゃったわね。厄介だわ」

「驚かないんだな?」

「青い娘が龍であることは知っていたから」

「龍が相手なのに、随分と余裕だな」

「いいの? 龍の攻撃が炸裂したら、お腹の中の彼女、ひとたまりもないわよ?」

「要らない心配だな。その心配は是非自分に向けるべきだ」


 氷の刃を展開すると、すぐさまウェイルはクランポールの周囲を走り始めた。

 尻尾の先端からクランポールの上に乗ると、頭部に立つエリクの方へ剣を構えて向かっていく。


「神獣は神獣、人間は人間同士、直接やりあわないか?」

「いいわね、そうしましょうか」


 ウェイルは氷の剣、エリクは鋼鉄の鞭を武器に、クランポールの背中で激しい攻防を始めた。


「ねぇ、ウェイル。何を狙ってるの? 食べられた子を助けるんじゃないの?」

「それもあるが、俺は鑑定士だぞ? 当然『不完全』の逮捕を最優先に狙っている。今はお前のことだがな」

「あら、怖い。ならここで貴方をぶちのめして逃げるしかないわねぇ」


 エリクは鞭を巧みに操って、ウェイルの剣と互角に渡り合っていた。

 ウェイルの狙いはエリクの注意を惹くこと。

 とにかくこちらに注意を向けさせ、イレイズ達の邪魔をさせないようにしなければならない。

 激しい戦いは続く。

 襲い掛かる鞭は、全身に蚯蚓腫れを負わせ、ダメージを蓄積させていくが、ウェイルは一切ひるむことなくエリクとの距離を縮めていく。

 半ば捨て身な戦法が功を制し、エリクを端まで追い詰めていく。


「もう、しつこい男ね!! 女性に嫌われるわよ?」

「黙れ。お前みたいな腹黒い女には嫌われた方がマシだ」

「失礼な男……!! こうしてくれるわ!!」


 エリクが大きく振りかぶった鞭を、ウェイルは避けなかった。

 むしろダメージ覚悟で突っ込んで、鞭を握る手を掴み、エリクを押し倒す。


「なっ!? 貴方、どれほど失礼なの!?」

「失礼で結構。だがこうすればもう鞭は使えないだろ」


 手首を握り締めて、エリクから鞭を落とさせようと試みた。


「く……!! いい加減そこからどきなさい!!」

「いづっ……!?」


 エリクの頭突きがウェイルの鼻の頭に直撃。

 ウェイルのひるんだ隙に、エリクは立ち上がった。


「もう許さないわよ、ウェイル……!!」

「許さなくて結構だ。俺もお前を許すつもりはない」


 氷の剣を携えて、ウェイルはまたも一気に距離を詰めていく。


「……一旦下がって体勢を立て直した方が良さそうね」


 剣と鞭の接近戦では鞭の方が分が悪い。

 それにまた押し倒されるのは御免だと判断したエリクは、クランポールから降りるために跳躍した。

 それこそが、ウェイルが身体を張ってまで待ち望んだ絶好のチャンス。


 エリクの身体が空中にある間、その間だけは動くことが出来ず満足に鞭も振るえない。

 つまりこれ以上の勝機はない。


「今だ、アムステリア!!」


 ウェイルは叫んだ。

 その合図は確実にスタンバイしていた三人へと届いたのだった。


 フレスベルグの目の前には二体のクランポール。

 不気味に動き、ネチョネチョと体液を周囲に撒き散らしていた。


『気持ちの悪い下衆な生物共が……!!』


 ウェイルの合図を聞いて、フレスは先程から溜めていた魔力を一気に放出していく。

 その際、ちらりとアムステリアと顔を合わせると、任せてと頷いてきた。

 蒼い光が、まるで爆発したかのように、一気に解き放たれた。


『――無に帰れ!!』

「さて、行くわよ! うらぁああああああああ!!」


 先程クランポールを吹き飛ばした蹴り以上の力を込めて、アムステリアは足に掴まったイレイズを蹴り飛ばした。


「サラー、今助けます!!」


 イレイズの覚悟。

 その想いをダイヤの拳に握りしめた。


 蒼い光が輝き、クランポールの身体は氷初め、そして――。


 ――イレイズはダイヤの拳を握りしめ、凍ったクランポールへと突っ込んだのだった。


「な、何なの……!?」


 宙に浮くエリクが驚愕していた。

 その目に映った光景。

 それは完全に凍結したクランポールと、それに隕石の様に突っ込むイレイズの姿であった。

 周囲には砕かれたクランポールの皮膚が散らばっていく。


「これは……!? 貴方達、一体何をしたの!?」


 エリクが着地した時、クランポール達は原型を留めることなく、その全てが粉々に砕かれていたのだ。


「何をって。決まっているだろ? サラーを助けたんだよ」

「炎の龍を? ハッ、馬鹿じゃないの!? あんなやり方したら中の龍まで!」

「心配するなよ、エリク。あれを見ろよ」


 ウェイルが指差した先。

 そこにはダイヤの腕でサラーを抱きかかえるイレイズがいた。

 サラーの胸は微かに上下していた。サラーは生きている。


「どうやら成功したみたいだな」

「そ、そんな馬鹿な……」


 エリクは唖然として、鞭を落としていた。


「お前はフレスやサラーを恐れていたんだろ? その気持ちは判る。どれほどの狂人だって、龍という存在が敵に回ると恐怖する。だからこそ身の安全を守るための人質にするためサラーを飲み込んだ。だがたった今それは破綻した。お前、いや、『不完全』の負けだ」

「くっ……!!」


 ウェイルの話が終る前にエリクは駆け出していた。


「とにかくここから逃げないと……‼」


 エリクは今までサグマールの信頼を取り続けてきた。サグマールは自分の話を信じるに違いない。

 自分に都合のいい説明をして、全ての罪をウェイルとイレイズ、ルシャブテに全て被せればいい。そう考えていた。


『無駄なあがきは見苦しい』

「えっ? ――ひゃうっ!!」


 フレスベルグは、エリクを巨大なツララで取り囲んだ。

 それはさながら氷の牢。


「もう逃げられん。諦めろ、エリク」


 ウェイルが静かにそう言うと、エリクは狂ったように笑い始めた。


「あははははははははっ!! 諦めろですって? 冗談じゃない! 私は何もしてないわ! ウェイル、貴方の方が問題ではなくって? 『不完全』の贋作士を助けて、更には逃がそうとまでしていたじゃない! 逮捕されるべきは貴方の方なのよ? サグマールがこの事を聞いたら、貴方、もうプロ鑑定士としては終わりよ!!」


「――終わりなのはお前の方だ、エリク」

「――え?」


 その声を聞いた瞬間、エリクは今まで見たことが無いほど青ざめていた。


「――どうして!? 何故ここに!?」


 エリクの発狂に近い問い。

 それはこの男――サグマールへと向けられたものだ。

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