サラー、王宮へ侵入
フレスとミルの活躍により、城下町に出現していたゾンビの大群は瞬く間に全滅し、また各地で行われた大規模な戦闘も終結を迎え、ウェイル達はフェルタリア城手前の大広間へと集合するために、それぞれの場所から移動していた。
皆が集合し、ついにフェルタリア城へと乗り込むことになる、その少しだけ前の話。
一足先にフェルタリア城へと潜入した仲間がいる。
「あの割れた大窓からなら入れそうだ……!!」
赤い髪をたなびかせ、真紅の翼をはためかせ、空を翔けるのは炎を司る神龍、サラー。
フェルタリア城上空へと躍り出た彼女は、バルコニーらしき場所にある巨大な割れた窓ガラスを発見し、そこから城への侵入を試みた。
バルコニーに降り立つと同時に、周囲に陽炎と共に紅蓮の炎を練り上げて、己が身体に纏わせる。
敵がいつ、どこから攻めてくるかわからない状況だ。
いつでも魔力を放出できるように、スタンバイしておかねばならない。
パキパキと割れたガラス片を踏みしめ、ボコボコと音を立てて窓ガラスを溶かしながら、城内へと侵入した。
「……静かすぎる……」
身体に纏った炎を解除し、周囲の様子を伺う。
気配も音もない。
この場所には、というより少なくともこのバルコニーと、それに繋がる廊下には誰もいない。
「……今のうちにイレイズを……!!」
果たしてイレイズは一体どこにいるのか。
「ゲストルームがどうとか言ってたな……」
仮面の男は、イレイズはゲストルームでのんびりしてもらっていると、そう言っていた。
とはいえゲストルームがどこにあるかなど、サラーの知る由もない。
こうなれば手当たり次第探すしかない。
「イレイズーー!! どこにいるーーーー!! 返事をしろーーーー!!」
もう一度炎を身に纏い、サラーは大声を発しながら走った。
廊下を走り、目についた扉を片っ端から開けていっていると。
「……こ……す……! サラー……!!」
「イレイズの声!!」
龍の持つ聴力は、人間のそれと比ではない。
一度捉えたイレイズの声から、おおよその位置は把握できた。
「……ここです! サラー!」
「この部屋からだ!!」
一際派手な装飾のなされた扉があり、サラーは蹴破って中に入った。
「イレイズ!!」
部屋の中には、手と足を光る縄のようなもので縛られたイレイズの姿があった。
何らかの神器によって自由を奪われているのだろう。
「サラー!!」
「イレイズ!」
部屋に入るや否や、サラーはイレイズに抱きついた。
「イレイズ! 良かった、本当に良かった……!!」
最愛の人の無事を確認して、思わず目が潤う。
「サラー、どうやってここに……!?」
「ウェイルとフレスに助けてもらったんだ」
「そうですか……。本当にあの二人には頭が上がりませんね……」
「すぐにこの枷をとってやる! 枷の神器はどこだ?」
「判りません。ですがそこの男が持っているはずです……!!」
「男!?」
「ようやく気づいてくれたか?」
入口から死角になっている部屋の端っこのソファーに、深々と腰を下ろしていた男。
深紅の長髪を後ろで束ねた男、ルシャブテであった。
「お前がイレイズを拘束してるのか?」
「さて、どうだろうな」
ゆっくりと立ち上がり、歩み寄ってくるルシャブテ。
「久しぶりだと言うべきか? サラー」
「言うべきではないな。親しい間柄でしか使わん言葉だろう、それは」
「はは、違いねぇ」
「できる限り簡潔に答えろ。イレイズを縛る神器を持っているのはお前か?」
「違う」
「簡潔にと言っただろう。長い」
「いやいや、十分短いだろう!? 今のは!」
「否、といえば良かったんじゃないです?」
「……黙れイレイズ。お前もこんな時に随分と余裕そうじゃないか。その舐めた態度は相変わらずだ」
「余裕ではないですね。この部屋へ堂々とサラーを入れた時点で、罠があるのは判っていますから」
元よりここは敵の本拠地だ。ここにイレイズを置いているだけのはずはない。
敵は何か罠を用意しているはず。
だが簡単な話、罠が発動する前に、イレイズを連れて逃げ切れば良いだけのこと。
そうするために、サラーは部屋を焼き尽くさんと魔力を溜めた――その時であった。
「……ククク……。罠、ねぇ。そうだな、罠の方がお前らにとっては良かったかもな」
「……どういう意味です?」
「すぐに判る。どうやら来たようだ」
「――ッ!?」
一瞬感じた鋭い殺気。
背筋が凍るほどの魔力を感じたサラーは、全力で避けることだけに意識を集中させた。
魔力のチャージを中断し、さっとサラーは床を蹴り、二歩程度後ろへと移動する。
――その刹那。
「これは……!!」
今の今まで立っていた場所に突き刺さっていたのは、輝く光の槍。
光の放つ熱で、床からは煙が立つ。
「光の槍、ですか……!!」
「ついに来たか……!!」
――サラーは感じた。
同族の放つ、圧倒的な威圧感と魔力を。




