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龍と鑑定士 ~ 絵から出てきた美少女は実はドラゴンで、鑑定士の弟子にしてくれと頼んでくるんだが ~  作者: ふっしー
最終部 最終章 滅亡都市フェルタリア編『龍と鑑定士の、旅の終わり』
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氷の剣VS愛し合う剣

 フェルタリアの街を焼く業火の壁で出来たコロシアムにて、激しく響き続ける金属音。

 その一つ一つが、互いの命を奪うための線を描く音。

 生と死の境目を何度も引き合うウェイルとダンケルクであるが、周囲から見た戦いの激しさとは無関係に、その表情はどこか楽しげであった。



「やるねぇ、後輩!」

「これでも成長したからな!」


 軽口を叩きながら剣を振るう二人は、まるで剣の舞でも踊っているかのよう。

 ウェイルが氷の剣でダンケルクの胸を狙うと、ダンケルクは『相思相愛剣(ペア・ブレイド)』の左側で、火花を散らしながらスライドさせて軌道を逸らす。


「はは、楽しいなぁ! なぁ、ウェイル!!」


 反撃とばかりに、今の大振りによって隙を作ったウェイル目掛けて、ダンケルクは右剣を投げつけた。


「殺し合いをしてるってのに、どこが楽しいんだ?」


 ウェイルは剣に魔力を込めて、ダンケルクの身体を思いっきり弾き飛ばし、その勢いを用いて剣を避けた。


「おいおい、お前だって顔は笑ってるじゃないか!!」

「気のせいだろ!!」


 ――『相思相愛剣(ペア・ブレイド)』は、左右の剣が愛し合っている剣。


 どれほど二本が離れていても、必ず互いを求めて再び一つとなろうとする能力がある。

 その能力によって、まるでブーメランのように帰ってきた右剣を、ウェイルは氷の剣で地面へ叩きつけた。

 それを見て「ヒュウ」と口笛を鳴らしながら、ダンケルクは左剣もウェイルへ投げ放つ。


「俺はな、ウェイル。お前さんとアムステリアには感謝しているんだぜ? あの時も今見たく必死だったよなぁ! お前は俺を助けようと、俺が無実である証拠を揃えて裁判所まで来てくれたよなぁ! 正直泣きそうなほど嬉しかったんだぜ!!」

「じゃあどうしてあの時、もう少しだけ待ってくれなかったんだ! 後少し時間があれば、俺達はお前を助けることが出来たはずだ!!」

「そうだな。お前達のことだ。俺の無実を証明し、助けてくれただろうな。だがな、俺は待てなかったんだ。もう全てがバカらしく思えてな。鑑定士という人間は、お前達みたいに良い奴ばかりじゃないんだ。元々鑑定士業界自体にも嫌気が差してたところもあってな。俺にとっては見切りをつける丁度良いタイミングだったのかも知れんさ。おっとウェイル、軌道には気をつけな」

「くっ……!」


 ダンケルクの投げた剣を避けることは比較的簡単だったが、またも愛し合う剣同士の引き合う軌道上に身体が入ってしまう。

 その双剣は、ウェイルを前後から真っ二つに引き裂こうと、左剣は弧を描きながら戻ってきて、右剣は地面から飛び上がった。

 どちらも叩き落とすのは難しいとの判断から、身体を引いて剣の軌道から外れることを試みる。

 氷の剣を地面へ斜めに向かって伸ばし、その反動を利用し軌道から逃れた。


 ――しかし、その際どうしても一瞬だけ身体が浮く。


 その隙をダンケルクが見逃すはずもなく、すぐ目の前まで迫ってきたかと思うと、交差する瞬間の双剣をパッと掴み、体勢の悪いウェイルにそのまま突っ込んできた。


「良い動きだ。やるな、ウェイル!」

「そっちもな……!!」


 伸ばしきった氷の剣を一旦解除して、改めて剣を精製し直して、なんとか双剣を受け止めた。


「やはり便利な神器だな、その氷の剣は」

「だろ? 可愛い我が弟子からの贈り物なんだ」


 剣に魔力を送り込んで、氷の強度をさらにアップさせる。

 無色透明の剣に、ニヤリと笑うダンケルクの顔が写り込む。


「龍の作った神器ってか。そりゃこいつじゃ分が悪いな」


 ダンケルクは一旦距離を取る。

 通常であればこのままダンケルクが突っ込み、剣を乱舞し続ければ、ウェイルの防御態勢はいつか崩れることだろう。

 防御が崩れた隙をついて、トドメまでを想定することが出来たはずだ。

 だが、ダンケルクはそれをしなかった。


 ――これは実に賢明な判断である。


「流石にそろそろ限界かね」


 今の今まで愛用し続けたその双剣を、ダンケルクは大切そうに鞘へとしまった。


「普通の神器なのに、よくここまで刀身が持ってくれたよ。その龍の神器相手にな」


 実は『相思相愛剣』の刀身には、幾重にも渡る攻防の衝撃によって、ひび割れが生じていたのだ。

 『相思相愛剣』は、特殊な能力を持ってはいるが、ウェイルの持つ『氷龍王の牙(ベルグファング)』のような上級神器と戦うのは、いささか性能不足だ。

 片や龍の神器、片や一般的な神器である。この二つの神器には、あまりにも性能差がありすぎる。

 戦い続ければ、当然『相思相愛剣』の方が先に限界が来る。


「今までよく戦ってくれたよ」


 『氷龍王の牙』の強大な魔力に、何度も何度もぶつかり続けたのだ。こうなるのは必然だった。

 むしろよくここまで持ってくれたと褒めてやるべきである。


「さて、楽しかったウォーミングアップも済んだし、そろそろ本番としゃれ込もうか、後輩」

「おいおい、今の今まで全て前座だったってわけか? そりゃ無いぜ、先輩」


 なんて愚痴を垂れてみるが、彼が今の今まで本気を出していなかったことは判っていた。

 『相思相愛剣』も強力な神器に違いはないが、ダンケルクはそれとは比べものにならないレベルの魔力を有した神器を持っている。

 昔、ダンケルクが裁判に関わった連中を皆殺しにした時に使った、彼の両手の指にはまる神器群。

 もう力を隠す必要も無いと、ダンケルクは両手の指に嵌めている十個の指輪を全て輝かせてみせた。


「紹介しよう。俺の切り札の神器、その名も『神王の指と魔王の指(エクス・リング)』。本気で行くぜ……?」


 ついにダンケルクが、切り札(ジョーカー)を切り出した。


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