氷の牢獄
「ミル、ちょっと手伝って! サラーは休んで魔力を回復させて!」
「……判った。フレスの言う通りに休んでおく」
あのプライドの高いサラーが、素直にフレスの指示に従っている。
この時代になって、ようやく龍同士が対等になった。
そうミルは感じていた。
「無論いくらでも手を貸してやる! お任せなのじゃ。だがフレス、その作戦とは一体なんなのじゃ?」
「あのね、ドラゴン・ゾンビは無理に消し去らなくてもいいんだ! だって、あれは敵の神器によって出てきた怪物なんだ。だから元凶の神器を破壊すれば勝手に消えてくれる!」
「……! 確かにそうだな」
そう、奴は生きている神獣ではない。
敵の持つ神器の能力で、無理やり生かされているだけだ。
その元凶を破壊すれば、あの龍はこの世に存在することを許されないはず。
「でもそれは神器を壊すまで、あいつは野放しにするってことか?」
「うんや、それもダメだよ。下の皆に被害が出るかも知れないから」
「ならどうすればいいんだ!?」
「だからね、あいつをしばらく封印しておくんだよ!」
「封印、じゃと!?」
「うん。ボクが奴を氷漬けにする。その後ミルは千切れにくい強い蔦を出して、あいつの身体をがんじがらめにしちゃうんだ!! その上からさらにボクが氷漬けにする! これならしばらくは動けないはずだから!」
「……倒すのではなく、動きを止める、か」
なまじ破壊ばかり考えていた自分には出来ぬ発想に、サラーはニヤリとフレスに笑みを送った。
「フレス、流石はプロ鑑定士だ。いい作戦だと思う!」
「エヘヘ、サラーに褒められると照れちゃうよ……!」
「よし、行くぞ、フレス! あやつを氷漬けにするのじゃ!!」
「うん!」
再生中で身動きの取れない屍龍へと近づいたフレスとミル。
ほぼ同時に魔力を溜め、そして両手に青い光が溜まりきったフレスが、まず先手を打って出た。
「凍っちゃえ!!」
溜めていた光を少しだけ放出する。
蒼い光は凍てつく吹雪となって、屍龍の自由を奪っていった。
屍龍の身体全体に白い霜が蔓延り、動きが完全に停止した瞬間を見計らい、次はミルが動いた。
「不浄なる存在よ! この生命の溢れる自然の鎖にて、大地の繋ぎ止められるがよい!!」
ミルの両手から発せられた緑色の光によって、両手から巨大な樹木の蔦が召喚されていく。
巨大な蔦はドラゴン・ゾンビの身体全体を這い、締め付けるように包んでいく。
「奴の身体全体に蔦を張り巡らせたのじゃ! フレス、やれ!」
「まっかせて!」
先程から溜めていた蒼い光を、今度は全て放出させた。
「しばらくここで封印されてなよ!!」
ギュウギュウに締め上げた蔦の上に、もう一度白い霜が走り、ツララが立っていく。
鋭いツララは蔦と蔦との隙間から、ドラゴン・ゾンビの身体に突き刺さった。
まるで楔の様にツララは全身を貫いて、全体をカチカチに凍らせた。
宙に浮かぶ氷の牢獄は、ドラゴン・ゾンビの動きを完全に封じたのだった。
「やったぁ! ミル、ありがと!」
「なんのこれしき! 楽勝じゃ!」
「フレス、この氷はどれほど奴を拘束していられる?」
「……大体一日くらいかな。いくらミルの蔦が頑強でも、敵は腐っても龍なんだ。身体が再生し終わって、全力で魔力を放出すればあれくらいの拘束は解けると思う」
「そうか。なら問題ない」
「じゃな。今日中に全てを終わらせばよいのじゃからな!」
「うん!」
宙に浮かぶ三人が見据えるのは、遠くに見えるフェルタリア王宮。
「フレス、ミル。私は一足先に王宮へ行き、イレイズを助ける」
「一人で!? 危ないよ!」
「心配ない。無駄な戦闘は避けて、イレイズと合流する事だけを考える。勿論その後は皆と合流するさ。ティアは私達が止めなければならないからな」
「ティア……!! ……そうだね」
最後の龍の少女、ティア。
フェルタリア王宮には、間違いなく彼女もいる。
すでに二度も戦闘をしたフレスだが、ことごとく敗北している。
(でも、今度こそ――)
サラーやミル、それにたくさんの仲間がいるし、何よりも。
(……ボク、絶対に守るから……!! 今度こそ大切な人を、ティアから守って見せる……!!)
フェルタリアで失った大切な親友に誓って、今度こそ。
「じゃあ、また後で」
「うん。気を付けてね!」
「そっちもな」
翼を大きくはためかせて、サラーは一気に飛翔した。
(待ってろ、イレイズ! 絶対に私が助けてやる……!!)
二人の見送りを受けながら、サラーは軽く手を上げて、王宮へと急いだのだった。




